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2-5:真樹VSライ

「さて、次は真樹ちゃんの番だね~、ライちゃんに挑むのは。

一応、辞退は出来るけど、どうする?」

「…やります」


後日、改めて梨花から説明を受けたうえで、真樹はこう答えた。

これも入門試験、あるいはチュートリアルということだろう。


綾とライの試合を見て分かったことがある。

コロシアムから提示される試合には、明らかに不利な条件を出されることがある。

選手同士の実力差が開いており、高確率で負けるであろう勝負。

片方が負けるさま、ペナルティを受ける姿を晒すことを目的とした試合が組まれることもあるということだ。

実力を鑑みず無謀に挑めば、待っているのは惨めな敗北のみ。


ただし、試合の内容を聞いてから辞退をすることも出来る。

不戦敗にはなるが、そこでペナルティを受けるということはない。

実力を見極め、退くことも駆け引きだ。

己の身体を大事にするなら、実力を正確に測ることが重要ということだ。


「ほっほう、あれを見た後でなお逃げ出さないか~、感心感心♪」

「私だって、ただ大人しくやられるつもりはありません。

こないだの試合を見たことは、決して無駄にしませんから」

「うんうん、このゲームに挑むならそれくらいでなくっちゃね♪」


真樹は実際にライの試合を自分の目で見た。

そのうえで、行けると判断した。

どの道、上を目指そうというのなら、勝って上がる以外に道は無いのだ。

ここで逃げる選択肢は無い。

そもそも負けなければいい話だ。


ライとの勝負に挑むことを選択した真樹。

その様子に、嬉しそうに笑顔で返す梨花であった。



そして数日後……



「さぁさぁ、今日の試合がやってきたぜビギナークラス!

猫耳闘士・真樹 VS ビッグレディ・ライ!!

今日もまた、ライの壁に挑む新米の登場だぁぁ!!」

「「うおおおおおおおっ!!!!」」


実況の煽りに、ビギナークラスのコロシアムが盛り上がる。


リングの上には既に本日の主役が立っている。

猫耳を付けたセーラー服の少女は、ぶっとい水着レディの前に堂々と立っていた。

腕を組み、まっすぐライを見つめる真樹。

まだ2戦目のはずだが、すでに歴戦の戦士としての風格が見え始めていた。


「ぶっふっふっふぅぅん、随分と余裕ねぇん?」

「申し訳ありません。私はもっと先を見ていますので」

「ぶふーっ、言うわねぇぇん!!」


ライの軽い挑発にも、堂々と受け答えしている。

デビュー戦の時よりも明確な闘志を感じ、ライの方も闘志を高めていく。


「おーおー、早く戦いたくてしょうがないって感じだな。

それじゃあ、さっそくBETしてくれ!

……って早ぁ!?

決めるの早くねぇかお前ら!?」


BETの合図を出してすぐに実況が叫ぶ。

どうやらあっという間に決まったようだ。


「まー分かってはいたけどよ、こりゃ思ったよりすげぇわ。

真樹への偏り方が半端ねぇし、金額も新米とは思えねぇ数字だぜ。

はは、お前らどんだけ期待してんだよ!」


実況の方が呆れるほどの偏り具合。

様々な要因が重なって、今回の試合は注目度が高いのは分かっていた。


観客達の間では、先日の綾の制裁が話題になったからだ。

まだまだゲームのことを分かっていない新米ならば、またオイタをするのではないか。

再び制裁発動による、ペナルティのおこぼれに預かれるのではないか。

そんな妙な期待感が観客達の間で溢れたことも手伝い、今コロシアムの新米には注目が集まっている。

綾の次にライに挑むことが決まっていた真樹は、まさに注目度が抜群に高くなっていたのだ。


しかも、彼女が観客席で綾とライの試合を見ていたことは知られている。

凄惨な制裁を目にしてもなお、このゲームに挑もうというこの少女。

実はソッチ方面でもイケるのではという邪推さえ男達の間で話題になっていた。


そもそも、デビュー戦からして新人の中で最高額を稼いだ真樹である。

スタイル良しの容姿なのは衆目の一致するところ。

その上、デビュー戦での戦いぶりからして、なかなかに強そうという評価もされていた。


そんな彼女であっても、ライに呆気なくやられてしまうのか。

期待の新人は、哀れな姿を晒すことになってしまうのか。

観客達の下衆な期待が一心となって、真樹に向けられていたのだ。


実況の端末に表示された賭け金額が、色々な意味で彼女への期待が高いことを示していた。

観客達の視線が熱いものになっているのも肌で感じる。

予想以上に盛り上がっているようで、試合を運営する側としてはありがたいと思う実況であった。




(大丈夫。みんなが見ていても、前みたいに身体が強張らない。

今はただ、目の前の人を倒すことに集中するんだ)


当の真樹は周囲の視線を気にしていない様だった。

以前のように緊張しているような様子は見られない。


生半可な気持ちで挑めば恥辱を受けるというのは、最初から分かっていたことだ。

先日の同期の制裁を目の前で見て、改めてこのゲームに挑む覚悟を固めたのだ。

常に全力で挑まなければ、無残に負けるだけの世界なのだから。


それに、目の前の相手が油断ならない相手であることも分かっている。

周りに気を使っている場合ではない。

油断して綾の二の舞になるのは御免である。


「よぉし、それじゃあそろそろ始めるぜぇ!?」


実況が煽りを入れると同時に、真樹とライは開始位置にて構えを取る。


「こぉぉぉぉ……」


始める前の一呼吸。

真樹は構えたまま、特殊な呼吸法で自身の氣を高めていく。

内部に練った氣が全身を巡っていくのを感じ取る。


(あれは初見殺し。

大丈夫、分かっていれば対処は出来る)


ライが繰り出すのが前と同じ技なら見切れる自信はあるが、むしろ違う技が来る可能性の方が高い。

先日の試合を見ていたのは向こうも承知のはず、馬鹿正直に同じ手を使ってこないだろう。

いずれにせよ、彼女の速さに追いつくには、最初から全力で集中していく必要がある。


「瞬きすんなよぉ?

レディィーーーーーッ……」


やはり実況が開始の合図を溜める。

恐らくは向こうも、技を出すために氣を練っていることだろう。

お互い、初撃に強烈な一撃をかまそうとしているのだ。



そして……





「ゴーーーーーッ!!!」




どごぉぉっ!!





「ぐほぉぉっ!?」





呻く声がリングに響く。





真樹の拳が、ライの腹に深々と入っていた。

肉厚たっぷりのお腹に埋もれる真樹の右手。

強烈なボディブローが、いきなりライに直撃したのだ。

涎を垂らしながらうめくライ、明らかに真樹の優勢だった。


よく見ると、真樹は開始地点から動いていない。

ライの方は掌を広げているのが見えた。

先日と同じく、ライは猛スピードで突っ込み張り手をかまそうとした。

そこを真樹が見事にカウンターで殴り返したというのは、観客の素人目にも分かったことだろう。


(危なかった……まさか本当におんなじ技で来るとは!)


内心ヒヤヒヤしながら、なんとか見切ることが出来た真樹。

ライの巨体からは想像しづらかったが、彼女の技の秘密は当たりが付いていた。

恐らくは古武術の歩法だろうと思ったのだ。


縮地と呼ばれる、一歩目からの急加速。

見た目からは想像できない速さで迫り、一歩目で勝負を決める。

それがライの黄金パターンなのだろう。

分かっていれば、対処はしやすい。


猛スピードで突っ込むということは、その反動も大きい。

脚を引き、足腰に全力で力を入れて右手を前に。

待ち受けるように、えぐり込むように打ち込む。

綺麗な腹パンカウンターは、ライの速度と重量がそのまま彼女に返ってくることになったのだ。


もっとも、それは真樹の尋常ではない体幹があってこそ。

100キロを超えるライの巨体を受け止めるほどの強靭な腕と脚。

氣を全身に巡らせた真樹は、細身な身体からは想像も出来ないほど頑丈だったのだ。

ライからすれば、まさしく大木の枝に自ら刺さりに飛び込んだようなものだ。


だが、真樹はただの木ではない。

人間であり、戦士である。

そこから更に、トドメのムーブへと移行する。


「はっ!!」

「ぼへっっ!?」



残る左手で、ライの顎を打ち上げた。

軽い掌底でも顎には強い衝撃が走る。

ライはその衝撃だけで怯んでしまう。


その左手を打った勢いで、真樹は少しだけ右腕を引く。

そして、だんっと音を立ててそのまま脚に力を入れる。


「うおぉぉっ……!」


叫びと共に、もう一度右腕に力を入れ直す。

再び腹に入るパンチ。

少し曲げており、アッパーの形でえぐり込むように打ち込む。

そこから更に力を込める。


「おおおぉぉっ!!!」

「「おおぉっ!?」」


叫びながら力を込める真樹を見た観客達から、どよめきの声が上がる。

深々と肉に埋まる真樹の右腕が、徐々にライの身体を持ち上げていくではないか。

真樹はそのまま全力を込める。


「月桂樹砲!!うおおおおりゃああああああああっ!!!!」



どこぉぉぉぉんっ!!!




雄叫びと共に、強烈な打ち上げ。



「「う、浮いたー!?」」



一部の観客から驚愕の声が漏れる。


ライの巨体が、リングの宙に浮き上がった。

真樹の強烈な右アッパーが、ライの身体を吹き飛ばしたのだ。


右腕一本で、相撲取りのような体型のライを、文字通り宙にぶっ飛ばす。

常識では図れない、超人じみた大技。





観客達も改めて理解する。

ここは、裏の格闘大会。

表には出てこない、常識外の武術家たちによる試合の場なのだと。



宙に打ち上がったライは、ぐるんと半回転してそのままリングの端に墜落した。


「ごへぁ……」


どごんとデカい音を立てて落下したライは、ロクに受け身も取れなかったようだ。

腹を抑え、涎を垂らしながらうずくまる。

相当に腹に効いたらしい。

うめき声を上げているが、立ち上がる気配はない。


「「「………うおおおおおっ!!!?」」」


呆然としていた観客達も、状況が理解できるにつれて思わず声を出して叫んでいた。


「なんだあれ、すげー技が出たぞ!!」

「しょーりゅーけんか!?しん・しょーりゅーけんか!?」

「すっげぇぇ、ロケットみたいな飛び方したぞ!!」

「人って、拳で宙に浮かべるんだな……」


観客達が口々に感想を言う。

その目は皆、たった今大技を放った真樹に向いていた。


「あぶね、オレも呆気に取られてたぜ!!

ライがダウン!!

カウント入ります!!」


ぽかんとしていた実況も、慌ててライの様子に気付いてカウントを始める。

膝を突いたらカウント開始ということを、誰もが一瞬忘れていた。


「3!2!1!」


次々と進むカウントダウン。

うずくまったまま、立ち上がる気配を見せないライ。

誰の目にも、勝負の結果は明らかだった。


「0!!

WINNER、真樹ーーーーーーー!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」


決着は着いた。

歓声と拍手が観客席から上がる。


「はぁ……はぁ……やった…!」


深く息を吐いて呼吸を整えた真樹は、降ろした自分の右腕を見る。

自分の技は、しっかりと通用した。

確かな手応えを感じ、ぎゅっと拳を握りしめる。


観客席を見回すと、観客がみな自分を見ている。

真樹に一心に集まる注目。

その視線は、試合が始まる前とは全く異なる意味が込められていた。


その目に応えるように、真樹はまた右腕を振り上げた。

明確な勝利ポーズに、再び歓声が上がるのだった。



「いやー、ライちゃんに勝つ子はそこそこいるけど、ぶっ飛ばしちゃった子は久しぶりだねー♪」


観客席に座る梨花も、興味深そうに真樹を眺める。

いつかの梨花の言葉通り、本当に軽くぶっ飛ばしてみせた真樹。

やはり彼女は、ここで戦えるだけの力を持っていると確信する。


リングに立っているのは、腕を振り上げたままの真樹。

まるで勝利を掲げる女神のように、堂々と立つ戦士の姿がそこにあるのだった。


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