表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/106

2-4:ゲームの根幹

綾の脱走に気付いた黒服のスタッフ達が確保に動き出した。

リングを降り、通路を走る綾に黒服達が迫る。


「くそっ…!」

「止まれ、それ以上は」

「うるせぇ!!」

「うごぉ!?」


だが、綾は素早く黒服の男達の顔を殴り、そのまま駆け抜けていく。

観客席の通路に立ちはだかる黒服たちをも殴り飛ばしながら、必死に出口へと走っていく。

喧嘩上等、迫ってくる輩と戦いながら逃げるなんて日常だった彼女。


腐っても女戦士ヴァルキリーとして認められた綾である。

喧嘩の腕はそこそこ立つ。



だが、今回は相手が悪かった。



「だめよおおおおおおぉぉんん!!」



聞き覚えのある野太い声が響く。

それも、上から。


「と、飛んだ!?」


観客の誰かが驚きの声を上げる。

ライが、その巨体から想像できないジャンプ力で飛んできたのだ。

リングのロープを飛び越え、遥か高く飛び上がる。

漫画でしか見ないような恐るべき跳躍力を以て、綾に向かって飛び込んでくる。


「むっふおおおぉぉぉん!!」

「がはっ!?」


恐るべき巨体でかますフライングプレス。

まともに喰らった綾は、ライに押しつぶされる形で倒れ込んでしまう。


「くそっ、重てぇ……どけよっデブ……!」

「あーあー、こりゃダメだね~♪」


ライにのしかかられて、その重さに潰されそうになる。

息も絶え絶えに罵倒するも、身動きが取れない綾。

そこへ、いつの間にか梨花が近づいてきた。


「キミ、ここが裏社会の闘技場だってこと、忘れてない?

表の常識なんて通用しない。

裏には裏のルールがあるの」


いつものニコニコ顔で、しかし僅かばかりの怒気を孕んで。

潰れてる綾の頬をツンツンとつつく。


「リングの上で倒れた者は、必ず恥辱を受ける。

それは、このヴァルキリーゲームズ絶対のルールだからねー」


多額の賞金を得るために、己の身体を賭ける女の闘い。

それがこのゲームの軸である。

ペナルティは最も盛り上がる瞬間であり、このゲームの核となるルールだ。

ここを否定することは、このゲームそのものを否定することと同じ。

ペナルティから逃げることは、ゲームの根幹を揺るがしかねない重大なルール違反なのだ。


「自分に賭けてきた観客に対し、攻撃行動を取ってはいけない。

一番最初に、厳重に教えたはずだよね?

そこから逃げられるようじゃ、今までヤラれてきた他の子たちに示しが付かないんだよねー」

「くっ……!」


黒服達がやってきて、ライの下から引っ張り出した。

だが、身体を黒服達に押さえられながらも、未だに睨み返し、手足をジタバタをさせる綾。


「ルール違反する女戦士ヴァルキリーには、強烈なオシオキが待ってるってのも、教えたよねー」

「がはっ!?」


なおも暴れる綾に、梨花は容赦なく腹パン。

痛みで動きが鈍った綾を、黒服達がそのまま担いでいく。


「ぐっ……」


再びリングに上げられた綾は、中央で黒服達に身体を取り押さえられた。

手足をたくさんの黒服達に押さえられ、今度こそ身動きが出来なくなった。



そこへ、実況の手元の端末に連絡が入る。

書かれている内容を見て、実況が高らかに宣言するのだった。


「みんな喜べ!久しぶりに、制裁の時間だー!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」」」


制裁権が承認されたのだ。

観客達から、怒号とも思えるほどの歓声が上がる。

いつも以上に、熱気に包まれていくコロシアム。


「な、なんだってんだよぉ……」


明らかに異常な雰囲気の会場に、ビビりまくる綾。

そこへ、ニコニコ笑顔の梨花がリングへ上がってきた。


そして、宣言する。



「制裁の内容は簡単♪

ここにいる全員、満足させるまで帰れませーん!!」

「なっ!?」


思わず綾は周囲を見渡す。

観客達が次々と立ち上がり、リングの上に上がってくるではないか。

本来であれば、賭け金が上位の者しか上がることは許されないはずである。

しかし、ほぼ全ての観客の男達が上がり、取り押さえられた綾を見下ろしていた。


「これが制裁。

賭けた方を問わず、試合を観戦していた全員がペナルティに参加できるの。

キミに賭けた人も、ライちゃんに賭けてた人も。

み~んな相手してあげてね♪」


いやらしい笑みを浮かべる者、ワキワキといやらしく手を動かす者。

下衆な意思を持った男達が、ざっと30人はいるだろうか。

小さな会場であるビギナークラスとはいえ、この人数を一斉に相手したらどうなるか、想像もしたくない。

だが……


「そこまでしないと、お許しが出ませーん。

ここから帰るにしろ、今後また参加するにしろ、ここでケジメつけてもらうかんねー」

「や、やめろぉぉ!!わあああっ!?」


男達の手が迫るが、手足は押さえられて抵抗することも出来ない。

どれだけ悲鳴を上げても、もうどうにもならない。


「ま、ヴァルキリーゲームズの洗礼だと思ってよ。

裏社会でお金を稼いだっていう事実も、ここで弄ばれるっていう事実も。

一生背負わなきゃいけないの♪」


梨花は実に楽しそうに、改めてこの試合の意味を突き付ける。


ライに挑戦出来る人は、大抵は梨花に勝って賞金を手にしている女戦士ヴァルキリーだ。

だがそれは同時に、裏社会で回っているお金を手にしたということだ。

裏の賞金を手にするにはリスクが伴う。

それを身を以て味わってもらうのが、ビギナークラス最後の壁・ライ戦なのだ。


最弱キャラ・梨花に勝って調子よくした未熟者ビギナーは、大体ここで引っかかる。

ライの見た目に騙され、呆気なく敗北する者は後を絶たない。


負けたとして、大人しくペナルティに応じてくれればそれでよし。

しかし、それに応じないような娘には、身体に覚えさせる必要があるのだ。

このヴァルキリーゲームズという闘技場が、どういうものなのかを。


「裏社会のゲームに参加するってのは、こういうこと。

男女平等なんて表の世界だけ。

こっちじゃ女の子はいつだって、男という狼に狙われてるんだから。

生半可な気持ちで挑んだら、あっという間に食べられちゃうの♪」


これがヴァルキリーゲームズ。

敗者は美しい散り様を見せねばならない。


「それじゃ、ごゆっくり♪」

「いやああああああああああ!!!!」


梨花の合図と共に、獣達が襲い掛かる。

ヤンキーギャルは、哀れな獲物に成り下がったのだった。




ただ一人、観客席に残った真樹は、じっとリングを見つめている。


制裁権というルール自体は聞かされていた。

だが、実例を目にすることになるとは。


綾の姿は、リングに上がった男達に囲まれて見えない。

真樹の場所からは、服が引き裂かれる音と共に、綾の悲鳴が響くのが聞こえるだけだった。

しかし、リングから目を逸らすことは無かった。


そんな真樹の傍に梨花が戻ってくる。


「にゃはは、じっくり見てくなんて真樹ちゃんも物好きだねー」

「ご機嫌ですね…」

「いやー、ここまで行くといっそ清々しいわ!

噛ませキャラってだけで食っていけそうだわ、あの子」


大抵の女戦士ヴァルキリーは、ペナルティのことを承知でこのゲームに挑んでいる。

制裁権が発動するのは、実はレアケースなのである。

珍しいものが見れたし、真樹に対する説明も省けて楽も出来た。

会場も大盛り上がりで文句なし、梨花は笑いっぱなしである。


そのまま隣に座って、一緒に綾の制裁を見届けることにする。

そして、同じく新人である真樹に忠告する。


「真樹ちゃんも、万が一負けてもビビってお客さん殴ったりしないよーに。

その時は、アタシらみんなで捕まえちゃうからね☆」


どこまでもご機嫌な梨花に、真樹は顔を真っ赤にしたまま頷くのだった。


「まー、真樹ちゃんは油断しないから大丈夫だろうけどね。

ライちゃん、本気のアタシよりは弱いから。

むしろ軽くぶっ飛ばすくらいじゃないと、チャンピオンには届かないよ☆」


その言葉に、緊張しっぱなしだった真樹もふと笑みをこぼす。


(本当にこの人は、人の闘志に火をつけるのが上手い)


真樹にとっては、最も燃える言葉である。

次は自分がライと戦う番なのだ。

この試合で見たことは必ず活かせるだろう。

やはり今日は見に来てよかったと心から思う。


身体が熱くなっているのは、目の前の制裁とは別の理由だと思いたかった。


なんだかんだ言って主人公も、大人しく見えてちょっぴり変人です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ