10-8:王子様の服の下は
「フフ……見事だ。
まさかここまで強くなるとはな」
試合に決着がついて数分。
無事に目を覚ました雅は、開口一番に嬉しそうに笑う。
そこには、先ほどまでの狂戦士の顔は無かった。
自分を超える若者の登場、新たな強者の誕生を祝う、心優しき大人の顔をしていたのだった。
身体を起こした雅の元へ、真樹はすぐさま駆け寄っていく。
今しがた死闘を繰り広げた相手への敬意を抱いて。
「雅さん、ありがとうございます!
私、なんだかちょっとだけ神氣の扱いに慣れた気がします!」
真樹は目を輝かせながらはしゃぐ。
実際、今回の試合で彼女が手に入れたものは、とてつもなく大きい。
神氣を持つ者同士の戦いをこれほど早く経験させてもらえたのは、間違いなく雅がこの試合を申し込んでくれたからだ。
強大すぎるがゆえに持て余しがちなこの力を使っても、なおギリギリの闘いが経験出来た。
ヴァルキリーゲームズ最上位の世界の空気を、少しでも感じることが出来た。
何より、神氣の使い方と危険性を身を以て知ることが出来た。
欲望を力に変えるからこそ、女戦士はいかような姿にも成り得る。
その時、他者から見るとどのような姿に映るのか。
その迫力と危険性を知れたのは、間違いなくこの王子様のような女警部がいたからこそだ。
「そうかい、それならば何よりだ。
素直で強い女の子はいいな、やはり」
先ほどまで神秘的で美しい女神のような姿だった少女が、年相応に目を輝かせているのを見て、雅も思わず笑みがこぼれる。
膝をガクガクと震わせながらも、雅はゆっくりと立ち上がった。
そして、勝者の肩にその手を置く。
「おめでとう、キミは間違いなく私を破った。
エキスパートクラスに上がっただけじゃない。
その上へ上がれる可能性を示したわけだ」
「は、はい!」
熟練の女戦士からのお墨付きである、確かな戦績を手に入れた。
真樹が目指しているマスタークラスへ、そしてチャンピオンの元へ。
今回の勝利は、そこへ大きく前進させてくれるだろう。
「最上級の舞台は、これ以上の熾烈な戦いが待っている。
己の力を磨くことを怠るな!」
「サー、イエッサー!!」
気合の入った雅の激励に、思わず敬礼してしまう真樹であった。
そんな微笑ましい光景に、観客席からも拍手が送られるのだった。
なお、サーは男性名詞なのだが、真樹は気付いていない。
「さーて、盛り上がってるところ悪いがこっちも盛り上げさせてもらうぜ!」
選手たちの交流を見ていた実況が、タイミングを見て口を挟む。
ある意味、ここからがヴァルキリーゲームズの本番。
観客達も、すぐさま目の色が変わっていくのだった。
戦闘に巻き込まれた男達も既にほぼ全員が目を覚ましており、ニヤついた顔をして席に座り直す。
これからのショーのために、危険を承知でこのライブ会場に来ているのだから。
「まずは真樹の賞金だな!
なんと、今回の真樹の賞金総額、7260万燕!!
すげーなオイ、7000万の女子校生になっちまったよ!!」
「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」
発表された賞金額に、観客達も驚きの声を上げる。
ただでさえ5000万の女子校生という肩書がついていたのに、今回は元マスタークラスである雅が相手。
対カグヤの時のように、真樹が負ける可能性は高い。
それだけに、真樹に手を出すチャンスと考え、大金を賭けた者は多かったようだ。
おかげで、過去最高額の賞金を手に入れることになった。
元々注目度が高かった真樹ではあるが、この試合に勝ったことで更に注目を浴びることになるだろう。
ステージの上で、小切手の入った封筒を手渡され、おずおずと受けとる真樹。
何度やっても、大金を受け取るのはやはり緊張するようだ。
「ちなみに、負けた雅に対しては6400万燕!!
伊達に元マスターじゃねぇな、久々の参戦でいきなりのこの額だよ!
まぁ没収になっちまうがな!」
「フ……元より賞金はあまり重視していないがね。
随分と私を推してくれる者がいるようだ」
「そりゃ、下手したらお前さんの次の参戦、何年後とかになっちまうからな。
何が何でもって奴らがいてもおかしくないぜ?」
雅は警察という立場上、裏社会に顔を出すこと自体が少ないし、ましてや試合に出ることが珍しい。
そんな雅が予告なくいきなり、しかも地元でもないキョウトで突然試合を行ったのだ。
二度とあるかも分からない大チャンスに、雅に手を出したくて大金を賭けた人もいたに違いない。
しかし、改めて大金が飛び交う世界になってきたと感じる真樹であった。
それだけの大きな舞台に立つようになったんだと実感する。
その分、この金額に見合うことも求められるのだが…
「え…と、大丈夫なんですか?」
「フフ、私とて女戦士。
負けた時の覚悟くらいできているさ」
ヴァルキリーゲームズにおいて、敗者にはもう一仕事待っている。
おずおずと聞いてみる真樹であったが、雅の方は涼しい顔。
「いえその、今日は生放送のようですけど……」
「一向にかまわん」
今から辱めを受けるというのに、あまりにも堂々とした姿勢。
今更、この程度で怯むような女警部ではなかった。
「私の立場を思ってくれてるのだろう?
ならば心配無用だ。
ここで淫らな姿を晒したとて、私は女戦士であり、警察であることは変わらん。
裏社会のルールには従ってやるさ、表社会では認められないようなことでもな」
負けた者には恥辱を。
それは、ヴァルキリーゲームズ絶対のルール。
このルールを軸にしたゲームがあるおかげで、裏社会は一定の秩序を保っていられている。
実際に秩序を守る側である警察だからこそ、このルールの重要性を雅は理解していた。
一見、馬鹿馬鹿しく思えるこのルールにも、驚くほど合理的な理由がある。
社会の番人として、それを自ら破るような真似はしない。
「もっとも、違法視聴などでもしようものなら、しょっ引いてやるがな。
裏社会だろうと、秩序を乱すような輩を放っておくほど甘くはないさ」
ニヤリと笑って、雅は見上げるのだった。
天井の隅にある隠しカメラに笑いかけているのだろう。
生放送での画面では、不敵に笑う雅の顔がちょうどいい角度で映っていた。
まさか、カメラ映りもちゃんと気にしているのか…と、コメントが流れていくのだった。
「どうせお前も見ていく気なのだろう?
ならばしっかり見ていくといい。
人の上に立つ女とはどういう存在であるか、をね」
そういって、雅は自分の服に手をかけた。
バサリと、王子様風のジャケットを取り払う。
「え……?」
その下にあった姿に、真樹はぽかんと口を開けるのだった。
そして、ペナルティが始まる。
「おぉう、おほぉぉう…♡」
「どうした?
まだ始まったばかりだぞ?
こうやって触れただけで可愛く反応するとは、随分とふぬけたものだな!」
どかっと音がする。
人が軽く蹴られる、鈍い音が会場に響く。
「おぅふ」
「ははっ、こうやって踏まれることを悦ぶとは、とんだ変態だな貴様!」
今度は鞭がしなる音がなり、ばしんと人を叩く音がする。
「そうやって無様に尻を突き出しておきながら、いやしくねだるか、この豚め!」
「おほぉぉう♡」
ばしぃんと鞭で尻を叩く音がして、汚いうめき声を上げるのだった。
……男達が。
「これは貴様らが望んでいることだろう?
お望み通り可愛がってやるから、覚悟したまえ」
ギラギラと目を滾らせて鞭を構えているのは、雅の方。
そんな雅の恰好は、黒いレザーで出来た薄い上着とショートパンツ。
露出の激しいボンテージ衣装、いわゆる女王様スタイルだ。
鞭を片手に、男達を踏み、叩く。
もう一度言う。
雅の方が、男達をぶっ叩いているのである。
「ふふ、せっかくのチャンスなんだ。
もっと楽しんでもいいのだぞ?
オレの方も存分に楽しませてもらうがな!」
「おほぉう、おおぉぉん……」
そう言って、今度は仰向けになっている男の股間を踏んだ。
適度に手加減して、ぐりぐりと足で弄りまわしてやる。
その感触に、踏まれた男は情けなく声を上げるのだった。
原則としてペナルティとは、観客が敗者の女を弄ぶ権利である。
基本的には観客の男達によってその身を触られ、嬲られ、性的に弄ばれるというものである。
ただし、何事にも例外というものは存在するようで。
過去、彼女の戦闘中のドSな態度に惚れ込んだ観客が、ペナルティの際に自らを叩いてほしいと願い出たのだ。
求められたら応えるのがペナルティを受ける敗者の役目。
雅はその男を責め立て、堂々と女王様プレイを披露したのだが、これがあまりにも堂に入っていたのだ。
以来、彼女を求める観客には、雅に叩かれたいというドMな猛者達が続出したのである。
雅は観客達の要望通り、逆に男達を攻めることで悦ばせるという、特異なペナルティを求められる女戦士なのである。
無論、王子様の服の下にボンテージ衣装を着ていたのも、このことをしっかりと想定していたため。
今回もまた、男どもの要望に応じてキッチリと男達を調教するのであった。
「どうした?
この程度で音を上げるのか?
それとも制裁でも発動してみるか?
こちらは一向にかまわんぞ!」
ノリノリな男言葉で、足元の男どもをいじる事を楽しむ雅。
男の股間に触れる程度のことで怯む女王様ではない。
もちろん、ペナルティである以上、多少は淫らな姿を求められるというもの。
「ほら、オレをしっかり味わいたまえよ!」
「うぶっ…!」
なんとレザーの上着をズラして自分の胸を出し、堂々と男の身体に擦り付け始めた。
顔に無理やり胸を押し付けられて戸惑う男に、ニヤニヤとしながら遊び続ける。
「くくく、夜の楽しみはこれからだぞ、豚ども!」
まるで戦闘中の鬼の時のように、ギラついた目を見せて男と遊ぶ女警部。
生放送だというのに、あまりにも堂々とし続けるのだった。
「いやー、さすがっすわ雅さん」
観客席に戻ってきた真樹の隣で、梨花が笑っていた。
「す、凄いですね……男の人相手に、あんなに……」
「にひひ、いやー雅ちゃんは普通にエロいことも出来るけどね。
それでも大体、雅ちゃんの方が攻めになっちゃうけど」
カラカラと笑う梨花を見て、顔を赤らめる真樹。
自ら堂々と痴態を晒す先輩は何人も見てきたが、雅もそのタイプだとは思わなかった。
下手したら、エロへのノリの良さは上位に来るかもしれない。
「たとえ負けても、堂々と。
普段から命懸けだからこそ、覚悟もキマってるってもんよ」
女戦士を続けるならば、たとえ恥辱を受けても立ち続ける覚悟がいる。
ある意味、その究極系を見せつけられているような気分だった。
「まぁ……真樹ちゃんがあぁなっちゃうのは、ちょっと解釈違いかも?」
「う、うーん……」
もし自分が負けても、あんなに堂々とエロいことに積極的になれるだろうか?
それはあんまり求められてないような気がする…
(って、だから何を考えてるんだ私はーー!?)
頭がまた変な思考になってしまい、頭を抱えて無言で悶絶する。
それでも、雅のペナルティから目を離せないでいた。
まだまだ青い心を持つ少女を見て、梨花もただ笑うのだった。
確かな強さを見せたこの超新星は、すっかりこのゲームに馴染んだのだと確信して。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
雅戦、その後でございます。
雅のそういう面は初登場時点で決めていたので、ようやく書けたと思うと感慨深い。




