10-5:鬼の男装警部
真樹と雅の睨み合いが続く中、まず動いたのは雅の方からだ。
流れるような動きで、すっと移動して近づいてくる。
ゆらりと腕を動かしてけん制している中、すかさず右足を動かした。
素早いローキック!
真樹はこれに応戦、こちらも右足を出してのローキックを繰り出す!
ガッ!
「~~~っ!」
足がぶつかった瞬間、ビリビリとした衝撃が体に伝わる。
お互いの蹴りの衝撃から、相手の強さを推し量る。
鋭く放たれたキックの威力は、雅の方が上。
(純粋な威力では、やっぱり敵わないかな)
少女と大人の差というのもあるが、相手は現役バリバリの女警部。
磨かれたシャープな一撃は、若さの勢いだけでは届かない。
少しずつ距離を取る真樹。
だが、雅は細かくジャブを繰り出しながら近づいてくる。
互いに絶妙な間合いを保ったまま、リングとなるステージを動き回っていた。
とはいえ、このままでは埒が明かない。
「しゅっ!」
雅が拳を前に出したのに合わせて、真樹も反撃。
こちらも拳を出してみるものの……
「ふんっ!」
「っ!?」
肘打ち!
真樹の反撃に合わせて雅は急接近!
なんと顔面目掛けて肘を打ってきたのだ。
「ぶっ…!?」
間一髪で直撃は避けるも、頬を少しかすった。
真樹は痛みで一瞬、動きが緩む。
その瞬間、雅は両腕を伸ばす!
まるで真樹の顔を抱え込むような動き!
恐らくはムエタイの組み状態……首相撲へ持ち込む気だろう。
密着されたらまず勝機はない。
真樹は素早く腕を引き、顔に迫る雅の腕をガードする。
…が、雅はそこから更に一歩進む!
ほぼ密着し、イケメン女子が目の前にいるという状態から……。
「がはっ!…」
今度は飛び膝蹴り!
カウロイ……俗にいう、真空飛び膝蹴りを放った!
雅の打ち出した膝は真樹の腹に直撃!
痛みと共に吹っ飛ばされ、真樹はステージの端へと転がっていった。
「ほう、完全には入らんか。
いいぞ、そうでなくてはな」
ゆらりと近づいてくる雅の目のギラつきが、より妖しく輝き出した。
「こほっ……強い」
一度は膝をついた真樹だが、すぐに立ち上がる。
腹筋に力を入れるのはギリギリ間に合った。
それに、顔に向けられた腕をガードしたことで、組まれずに済んだ。
いったんは防御できたと言っていいだろう。
それでも痛かったし、劣勢には違いない。
(それに、本当に容赦ない…!)
現代の格闘技には、肘や膝を使った攻撃は禁止されているものが多い。
身体の中でも特に硬い部分のため、単純に危険だからだ。
しかし、ムエタイはむしろ肘や膝を立派な武器の一つとして捉えている。
肘打ち、膝蹴りというものがごく当たり前のものとして認められているのだ。
まさしく全身を凶器として、鍛え上げた身体全てを使って襲ってくる。
あの煌びやかな王子様衣装の下に、どれだけ鍛えた身体を隠しているのか。
おまけに、相手が女の子だからと手加減する気配もない。
雅は迷わず顔面を攻撃してきた。
女性同士の戦いだと、顔は無意識のうちに攻撃を避けがちになってしまう箇所なのだ。
腹も同じだ。
大切な将来のため、本能レベルで守らねばならないと感じるところ。
真樹とて腹パンで攻撃する際は、ある程度意識しないと攻撃できない箇所だ。
だが、そんな『女の流儀』というものは通用しない。
男か女かなど何も関係がない。
ただ、目の前に立った戦士を屠る。
そんな意識が、今の攻防からも感じ取れた。
本気で相手を『壊す』ための技。
久しぶりに感じた、命懸けの戦いの気配。
いくらヴァルキリーゲームズで殺しは御法度といえど、相手の命を落としかねない危険な技を持っている者はいくらでもいる。
そして今回の相手は、そんな技を容赦なく振るってくる相手であると再確認した。
(それでも、勝ちたい。
この人の本気を…超えたい!)
気合を入れ直した真樹は、より集中する。
身体の中から疼き出す衝動。
昂る気持ちを右手に込めて、掌の中が輝きだす。
覇氣が光となって真樹の右手に溢れ、球状になって現れだす。
「黄松葉破!」
掌底の要領で覇氣の気弾を放つ!
黄金色に輝く光の球が、雅に向かって飛んでいく。
「まだ様子見かな?
ヴェノムサイス!」
ニヤリと笑う雅の脚に、覇氣の光が集まっていく。
どこか暗い、紫色の光が雅の右足に纏われていく。
そして、そのままミドルキック!
ばしぃぃぃっ!!
覇氣を纏った蹴りは、飛んできた真樹の氣弾をあっさりと消し飛ばした。
蹴りの軌跡に光が残り、さながら死神の鎌のような鋭い痕跡が残るのだった。
(覇氣の放出も、王羅も、当然のように使用可能…と)
今まで見てきて、学んできた裏社会の闘法。
雅は当然のように使いこなしている。
恐らくは、自分よりもずっと。
…………強い。
だが、不思議と恐れは感じない。
ワクワクしている。
強い人と戦いたいという気持ちが、こんなに気持ちよく感じているのは久しぶりだ。
今、本心からこの戦いを楽しみたいと願っている自分がいる。
相手は長年、裏社会に関わってきているのだ。
これ以上のびっくり技だって持っているかもしれない。
それを見たい!
それを超えたい!
そんな欲望が、全身を滾ってくる。
もっとも、相手もそれをたやすく出してはくれないだろう。
(こっちから行くしかないか…お望み通りに!)
どくんと胸が鳴る。
戦いたいという衝動がどんどんと高まってくる。
この胸の高鳴りを受け止め、更に自分のものに!
真樹は一旦、手を床につけた。
しゃがんだ状態で、神氣を使おうと集中する。
足から黄金の輝きが溢れていき、自分の足がより力を得たのを感じ取る。
さながら陸上競技、短距離走のスタートのような格好だ。
ステージの端でそんなポーズをすれば、観客席に尻を突き出しているような格好になっているのだが、真樹は気にしていない。
今はただ、目の前の相手に集中する。
(よーい、どん!)
しゃがんだ姿勢から、急加速!!
光速で、一瞬で雅の目の前に飛び込む!
「「「おおっ……!?」」」
会場からどよめきが上がる。
この速さに驚いた者は多いだろう。
だが…
「甘い!」
雅は真樹の速さについてきた。
目の前に突如現れた相手に動揺することもなく、真樹の振り下ろした拳を左手で受け止める!
更に右手で反撃!
今度こそ殴り飛ばそうとパンチを繰り出す。
だが、真樹は向かってきた雅の右手を掴む!
すると、そのまま自分の体をするりと下げた。
掴んだ腕を軸にして、勢いよく自分の身体を降ろしたのだ。
「よっと!」
「むっ!?」
そして、真樹はそのまま、雅の股下をくぐり抜けていった!
反撃した時に雅の足元が開いたのを見逃さず、更に意表をつくために、あえての正面をすり抜ける選択。
一瞬にして、雅の背後に回ってみせたのだ!
流石の雅も、この行動には驚きの顔を見せる。
「うおおおおおおおっ!!」
スライディングで雅の下を潜り抜けた真樹は、振り向きざまに立ち上がり、身体を一気に輝かせる。
溢れ出る神氣を右手に纏い、黄金の光が溢れている。
雅もすぐに振り向いたが、そこには既に、輝く巨大な拳を構えた猫耳少女。
遅れたと感じた雅は、流石に防御の構えを取るしかない。
だが、それこそが真樹の狙い。
「松葉桜花砲・黄金!!!
うおおおおおおりゃああああああああっ!!!」
「むっ!?」
巨大な力を得た拳を全力でぶつける。
背後をついてからの、あえての正面突破。
雅はその力の大きさに気付き、とっさに腕に覇氣を纏わせた。
紫色に光る両腕が、黄金の腕を受け止める。
「おおおおりゃああああああ!!!」
だが、真樹は本気でぶっ飛ばす意思を見せた。
その想いの強さは、神の拳というカタチを得て、雅に襲い掛かる。
その威力に、紫の覇氣で包まれた雅の腕がギリギリと音を立て、彼女の足が床から浮いた。
「らあああああああああああああっ!!」
そのまま、真樹は力任せに拳を振り抜いた。
「おおおおおおおっ!?」
ばりんと覇氣の壁が壊れる音がして、その衝撃で雅は吹っ飛んでいく!!
女警部の身体が、客席へとぶっ飛んでいった。
「「「どわあああああああっ!?」」」
客席はてんやわんや。
何人かの客を巻き込みながら、雅は会場内をぶっ飛ばされていく。
「くぁっ……がっ……!」
ドドドドドドド……
派手に客席を転がっていく雅だったが、その勢いは徐々に収まっていく。
やがて、観客に囲まれたまま、大の字で倒れ込んだ。
「うおおおおおおおっ!?
真樹がなんかデッカい金色パンチで、あの雅をぶっ飛ばしたぞ!?
あるのか!?
このままこの猫耳娘の勝ち、あるのかぁ!?」
「「「うおおおーーーーーーーーっ!!?」」」
実況の興奮気味な声が会場に響き、観客からの歓声が上がる。
生放送のコメント欄も加速していった。
いきなりトンデモ強化された女子校生が、達人警部をぶっ飛ばした。
この光景に、観客は大盛り上がりだ。
輝く右手を宿した女の子に、会場中が注目する。
しかし、真樹は決して油断しない。
ステージの上で構えたまま、遠くぶっ飛ばされた雅を見ていた。
手応えはあった。
今の技は確かに通じた。
だが、かつてマスタークラスだった人が、この程度で終わるとは到底思えない。
カグヤや瑠璃亜の強さを知っているからこそ、確信があった。
まだ、終わりじゃない。
その通り。
観客席で倒れていた雅は、ゆっくりと起き上がった。
「くくく……」
顔を手で押さえ、笑いながらゆっくりと立ち上がる。
「…ははははは」
笑い声が一段と高くなる。
どこか異様な雰囲気に、どさくさ紛れで雅へ手を伸ばしていた男が、思わず手を引っ込めてしまう。
「……ハァーーッハッハッハッハッハッハ!!!」
ぶわりっ!!
雅の豪快な三段笑いと共に、紫色の覇氣の光が身体中から溢れ出した。
いや、恐らくこれは覇氣ではない。
「まさか…」
思わず真樹も呟く。
よりもっと強力な……威圧感を感じる!
自分と同じ、神氣が身体から溢れ出しているのか!?
だが、雅から溢れ出るそれは、真樹のものとは似ても似つかない。
禍々しい紫色の光は、カタチを変えて雅の身体にまとわりついていく。
紫色の輝きが鎧となって手足に纏わりつき、雅の身体を一回り大きく見せている。
極めつけは、その輝きが雅の頭に集まる。
覇氣の光で形作られたのは、2本の角。
「ハァーーーッハッハッハッハッハ!!!!」
まるで、鬼。
禍々しい覇氣の鎧で包まれた鬼が、客席で高笑いしていた。
顔に手を当てて、三段笑いをする雅。
片眼が光り狂気に満ちた笑みを浮かべて、ステージ上で待つ真樹を見た。
「いい……!いいぞぉ……!
熱い!昂る!!
いるではないか!!
オレと戦うに相応しい女戦士が!!」
まるで映画の悪役。
覇氣の光は黒紫に染まり、禍々しい鎧となった神氣を纏った雅。
暗黒の力を扱う、狂気に満ちた戦士が姿を現す。
歓喜の笑顔を見せて、雅はのしりのしりとリングに向かって歩いてくる。
「真樹ィ!!礼を言うぞ!!
久しぶりに本気で戦えそうだ!!」
強い相手と戦える楽しみを、全力で味わおうとする鬼がそこにいた。
彼女のあだ名は、ラスト狂戦士。
ある意味、警察が一番名乗ってはいけない異名であった。
「あぁ楽しみだ!!楽しみだ!!
簡単に終わらないでくれ、オレの今の実力を確かめたいんだ!!」
実に楽しそうな笑顔で睨みを利かす雅を見て、真樹の感想はただ一言。
(こっっっわ!!!!)
素直に、恐怖する。
「いやー、こんな警察が踏み込んで来たら、どんなマフィアも逃げ出しますわー♪」
観客席にいた梨花の呑気な感想が、恐怖の会場に響くのだった。
「泣け!叫べ!そして、死ねぇ!!」とかは言わないです、多分。
【2024/10/05 追記】
いつもお読みいただきありがとうございます。
近頃は読んでる方が増えてるようで、ありがたいコトです。
最近は調子よく書けて、週一更新を続けていたのですが、次回はちょっぴり時間をいただきます。
先日再就職いたしまして、執筆時間がまた減ってしまったのでね。
いつも通り、気長にお待ちいただければと思います。
なんたって、不定期更新ですから!




