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10-4:真樹VS雅

『はぅぅ、あぁんっ……♡』


モニターの向こうから、蘭小路の喘ぎ声が聞こえてくる。


控室に設置されたモニターには、今まさに執行されている蘭小路のペナルティの様子が映し出されていた。

ステージ上で7人の男達に取り囲まれ、身体を触られていくジュリアナ太夫。

服をずり下ろされて胸を晒され、その豊満な乳房を容赦なく揉みしだかれている。

スカートもめくり上げられ、遠慮ない愛撫が尻を襲っている。


『うぶぅっ………ちぅ……んんっ!』


更には、男に顔を抱き寄せられ、無理やりのキス。

男達は、蘭小路という獲物を味わいつくそうと、徹底的に弄んでいく。

その様相を、周りの観客達もまた歓声を上げながら見守っていく。


ヴァルキリーゲームズで戦いに負けた者は、辱めを受けなくてはならない。

どれだけ変態に身体を触れられようと、たとえ公序良俗に反している行為を受けようとも、敗者は大人しくそれを受け入れるしかない。


これまで何度も見てきた光景だし、自分も経験してきたことでもある。


それでもやはり、この光景を見るたびに、身体が昂ってしまうのは本能なのだろうか。


(私も負けたら、あんな風に……)


顔を赤らめながらも、真樹は食い入るようにモニターを見つめていた。

敗者から目を逸らさないという自分なりの礼儀から、いつも観客席で試合後のペナルティを見ていた。

今回は試合の準備のためにと裏の控室に戻されてしまったが、控室にあるモニターで生放送の様子が見れると聞いて、迷いなくモニターの電源を付けたのだった。


「いやー、やっぱり若い子はえっちに興味津々ですかな?」

「にゃうっ!?」


急に声を掛けられて、猫耳が飛び出しそうな勢いで真樹は飛び上がる。

すぐ後ろで梨花がニヤニヤとした表情で立っていた。


「いえこの、それはあの…!」

「あはは、別にえっちな子だからって軽蔑したりしないって。

むしろそんな子がこのゲームにいたら、天然記念物ものだから☆」


あわあわと慌てふためく真樹を見て、梨花は面白そうに笑う。

今もなお純情な心を失っていない猫耳少女に、つい微笑ましくなってしまうのだ。


「しっかし、こんだけピュアッ気を残してるのに、また堂々と戦いに戻れるんだねぇ。

しかも、元とはいえマスタークラスの達人相手に挑むなんて。

イズモではカグヤちゃんに散々エロい目に遭わされたし、瑠璃亜ちゃんにも手合わせでは全く歯が立たなかったんでしょ?

普通に考えたら、負ける可能性大なんだから尻込みしそうだけど」

「確かにそうですね。でも……」


無謀な挑戦だと受け取られているのは、真樹も重々承知していた。

負ければ自分も、ペナルティで身体を辱められてしまうのだろうということも覚悟はしていた。

それでも…


「…それでも、強い人と戦うのが好きなんだっていう自分の気持ちも、偽りたくないんです。

もっと強くなりたい、もっと勝ちたい。

あの人がしてきたみたいに、もっと強くてカッコいい女性になりたいって気持ちに、正直になることにしました」


真樹は笑顔で答えた。


辱められる恐れよりも、強くなれる悦びを取る。

女戦士ヴァルキリーとして、戦いの道を進んでいく覚悟をしっかりと決めていた。


およそ女子校生らしからぬ、覚悟のキマリ方。

彼女の生き様は、表社会の者にはなかなか理解を得られないかもしれない。

だが。


「うん、いいね!

ちょっとくらいネジ外れてるくらいじゃないと、裏社会じゃやっていけないさ!」


だからこそ、裏社会では歓迎される。

真樹の覚悟を、梨花は大いに歓迎する。


「んじゃ、その覚悟のキマリ方に敬意を表して……

アタシが知る限りの、雅ちゃんの戦い方を教えてあげるよ☆」


敵を知り己を知れば百戦危うからず。

残り僅かな時間で、急遽決まった対戦相手の情報を教わるのだった。





そして、時間は過ぎ……




「レディーーーース、アァンド、ジェントルメエエェェン!!!

2時間ほどの休憩をはさんで、お待たせしました放送再開!!

予告された試合の準備が、ついに整ったぜぇ!!」

「「「YEAHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!」」」


キョウト・コロシアムには、試合前の熱気で大いに盛り上がっていた。

冷え込んだ注目試合の後に2時間というインターバルを挟んだというのに、コロシアムの熱気は今日最高の盛り上がりを見せていた。



「それじゃあ、さっそく登場してもらおう!!

まずはぁ、『猫耳闘士』真樹ィィィ!!

蘭小路との対決を経てもなお、やる気満々!!

エキスパートクラスの初陣、どこまで強さを見せつけられるか!!!」

「「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」」」


変わらずの猫耳女子校生スタイルで登場した真樹に、観客席からも声援が飛び交う。


先ほどの蘭小路との戦いを経て、真樹はエキスパートクラスに昇格することが決定していた。

しかし、昇格の発表もロクにされないうちに次の試合が組まれるというのは前代未聞だ。


「にひひ、エキスパートってことは、もっとお楽しみが出来るってことだよなぁ…♡」

「JK!JK!」

「蘭小路戦は楽勝だったけど、それでも連戦だよなぁ」

「おまけに相手は元・マスタークラス。

こりゃ今日もあの子のカラダが見れるかもしれませんなぁ」


観客からの邪なヤジも、真樹の敗北を期待する声がかなり多くなっている。

ただでさえ連戦というのは負ける確率が高くなる。

おまけに対戦相手は、久しぶりの参戦とはいえ、このゲームでは最上級クラスの経験を持つベテランの戦士。

どう見ても、真樹の方が不利であった。


そして、そんな明らかに一方が不利な状況になる試合というのも、このゲームではよくあることだと常連客は知っている。

ヴァルキリーゲームズでは時に、明らかに戦力バランスがおかしい試合が組まれることがある。

まるで罠のように、特定の女戦士ヴァルキリーを辱めることを目的にしたとしか思えない試合が組まれることがあるのだ。

これを察知して回避するのも、女戦士ヴァルキリーには必要な能力。

迂闊に飛び込んでしまえば、圧倒的な強者相手に惨めに敗北して、その身を晒してしまうだろう。


この試合も、そんな『(トラップ)試合』の1つだと考える観客は多かった。

そして同時に、多くの観客はこう考えた。


この猫耳少女は今、罠に掛かった獲物なのだと。


そして、この獲物を処する者がやってくる。


「対するは、ミトの現役警部女戦士(ヴァルキリー)!!

悪党も恐れる元・マスタークラス!!

『ラストバーサーカー』男前の雅、久しぶりの参戦だぁぁぁ!!!」


興奮気味の実況の声と共に、雅が入場してきた。

すると……


「「「キャーーーーーー!!?」」」


数少ない女性客から、歓喜の悲鳴が上がった。


女戦士ヴァルキリーである以上、当然彼女も戦闘用コスチュームというものを着用している。


雅のコスチュームは、一言で言えば王子様風の衣装であった。


煌びやかな刺繍が施された黒の上着、首元にはクラバットと呼ばれるヒラヒラが付いている。

ぴちっとしたズボンに、丈の高いブーツ。


正直、多花羅塚タカラヅカ劇場の男役と言われても違和感がない。

ただでさえイケメン女子なのに、更に煌びやかな王子になって現れたのだ。


女性客は言わずもがな、男性客とてその魅力には目を奪われてしまう。

気品があるというべきか、放つオーラが違うというべきか。

佇まいだけでも、格の違いというものを感じさせるのだった。


「ふふ、この衣装を通すのも久しぶりだな」

「もしかして、その衣装を取り寄せるために時間を取ってたんですか…?」

「無論、君の休憩時間も兼ねていたがね。

本気で戦うなら、戦闘服もきちんとしたいだろう?」


髪をかき上げる仕草が決まっている。


オッドアイの瞳に、カッコいいという感想が真っ先に出る整った顔。

異国の王子と言われても全く違和感のない出で立ちの女性が、そこにいた。


真樹の休憩時間も兼ねているとは言ったものの、雅はこの待ち時間を有効に使い、このいかにもなイケメン女子をしっかりと作り上げてきた。

彼女は自分の魅せ方をきっちりと把握し、それを見せつけてきたのだ。


だが、その爽やかな印象の裏に、強い闘争心があるのを真樹は感じ取っていた。

なにせこの試合、挑戦を申し出たのは雅の方からなのだ。


実力のある女戦士ヴァルキリーが、格下相手に挑むことは珍しい。

あえてそれをするならば、そこには何らかのメリットを期待しているという場合がほとんどだ。

彼女は自分の何を期待して、戦いを申し出てくれたのだろうか。


いずれにせよ、全力で戦うつもりではある。

相手は元・マスタークラス。

間違いなく達人級の強さには違いない。


自分の力はどこまで通じる?

どこまで神氣を解放して戦える?


戦いへの高揚感が、身体中を巡っていく。

不安よりも、ワクワクが止まらない。

待ち望んだ熱い戦いが出来ると感じて、真樹は自然と笑みがこぼれるのだった。


「さぁさぁ、BETの時間だ!

エキスパートクラスということで、レギュレーションはTOP10になったぞ!

超新星の猫耳女子校生か!

最強の女警部か!

さぁ張った張った!」


実況がBETを煽り、観客達はそれぞれに自分の欲望を端末に打ち込む。

どちらが負けるか、そして負けた女を弄ぶためにはいくらつぎ込めばいいのか。

欲に満ち溢れた熱気が会場を包み込んでいく。


「ふふ、この欲望に満ちた空気というのも久しぶりだな。

ここに立つと、改めて自分は女なのだと思い知るよ」


観客達の反応を見ながら、雅は不敵に笑う。


男達が目をギラつかせながら、己の身体を値踏みしてくる。

それに対する女戦士ヴァルキリーの反応は、人によって様々だ。

単純に恥ずかしがる者もいるし、視線を不快と取って侮蔑の目を男達に向ける者もいる。

もちろん、男どもの注目を利用してやると意気込む者もいる。


だが、この欲望に満ちた熱視線というのは、舞台に立っているのが魅力的な女であると男どもが認めていることが大前提。


普段は屈強な男達を従える女警部も、この場では男どもがギラついた目線を向ける美女である。

自分は、男に狙われるだけの価値がある女であると、それを再確認できる。

男装令嬢の雅にとっては、皮肉にもヴァルキリーゲームズの試合に立つ時が一番、自分が『女』であると感じられる時になっていたのだ。


この身を狙われているという緊張感は、表社会ではなかなか味わうことは出来ない。

しかし、適度な緊張感というのは、充実した日々を送るのに必要だ。


雅が裏社会に時折入り込むのは、極端な話、緊張感を保つためであった。

警察官として、女戦士ヴァルキリーとして、自分に刺激をくれる相手を探していたのだ。


そして、今目の前にいる可憐な少女は、自分を緊張させるだけの可能性を秘めている。

先ほどの試合を見た時、雅は自分の中で何かが蠢いたのを感じた。


果たして、この娘に感じた何かは、自分を熱くさせてくれるだろうか。


己の直感に感じたままに、真樹に挑戦を申し込んでしまっていた。

あまりにも突然のことに、周りがざわつくのもお構いなしに、だ。


「ふふ、良い戦いが出来ることを期待しているよ。

もっとも、このカラダを易々と晒すつもりはないがね」

「私もです。

修行して得た新しい力、存分に味わっていってください!」


互いに挑発しあい、お互いにニヤリと笑う。

顔を見ただけで分かる。

どちらも戦うことが好きなのだと。


「よーーし、BETが出揃ったぜ!!

まー予想通りっちゃ予想通りだが、真樹の方が圧倒的人気だな!

若い女の子ってのもあるが、元・マスタークラス相手じゃ荷が重いって思われてるみたいだ。

こないだのイズモの時みたいに、為す術なくやられちゃうのを期待されてるんだろうぜ」


実況の煽りに、真樹は『むむ…』と唸る。

予想していたとはいえ、最初から負け濃厚と言われているのは、やはり戦士としては心外か。

頬を膨らせる少女の仕草が、年相応に見えて可愛らしく、雅も苦笑してしまう。


「つっても、雅の方も金額でいえば結構来てるけどな!

なにしろ、ここ最近はなかなか参戦しないレア選手だ!

真樹もまだ何か隠し玉を用意しているみたいだし、ワンチャンあるんじゃねぇかと思った奴はいるみたいだぞ」

「くく、物好きな奴もいるものだ」


実況の言葉を聞いて、男前な美女は不敵に笑う。

自分の『女』が求められているという悦びと、それをたやすく晒す気はないという自信。

俄然、戦いに対する意欲が高まっていく。


「よし、それじゃあそろそろ始めるぜ!」


実況の言葉を合図に、2人の女戦士ヴァルキリーは戦闘に向けて構え、闘志を高めあう。

互いに睨み合うだけで、周囲の空気が一変する。

美女を品定めする品評会から、一瞬にして戦士たちが戦うコロシアムの空気へと変わっていく。


その緊張感がコロシアム内に伝わったのを見計らって、実況は合図を出した。


「生放送で送る、超新星の猫耳少女VS元・マスターの女警部!!

レディィーー、ゴーーーッ!!」


実況の宣言と共に試合は始まった。

緊張感を保ったまま、真樹と雅はゆっくりと動き出す。


2人とも互いに構えたまま、少しずつ移動するのみ。

まずはお互い、相手の出方を探り合っていた。


動きとしては静かだが、その緊張感は客席にも伝わっていく。

試合を見ている者達も、野次を飛ばす者はいない。


(ただの闘志だけじゃない。

確かに殺気を感じる。

それに、あのポーズ……)


真樹は、相手の独特な構えに注目する。


両腕は肘を曲げて、首元まで引いた構え。

足のステップはやや浮き気味で、いつでも蹴りが出せる状態。


「流石にムエタイは初めて戦いますね…!」

「梨花から聞いていたか。

なら1つ教えといてやろう。

ムエタイというのは、本場だと八百長が法律で厳しく罰せられるんだ」


雅の目が、ギラリと輝いた。


「つまりだ。

私は手加減をしない。

悪いが、容赦なしで行かせてもらうぞ!」


男装令嬢の格闘家と言ったら、やっぱりムエタイが思い浮かんじゃうゲーマーな作者です。

カモン、ベイビー!


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