表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/52

第四章 ~『フーリエ公なき後の日常』~

第四章執筆中スタートです!

最終章は父親とハラルド王子がメインの話になります。お楽しみに!

『第四章:ハラルドとの決着』



 フーリエ公との決闘から数か月が経過した。彼の所有物をすべて手に入れたアルトは、クラリスと共に、農園を視察していた。


「見える景色すべてが農園なのですね」

「さすがは王国の食糧庫だな」


 雨露で輝く緑の農園に心を奪われる。フーリエ公が所有していた時は、これほどまでに美しい景観ではなかった。


 最初の変化はクラリスがもたらした。肥えた大地を回復魔法でさらに促進し、作物の出来をより良くしたのだ。


 そこに続くように、アルトが農園で働く従業員の待遇を改善した。搾取されていた給与体系を見直し、成果報酬を設けることで、作物の収穫に喜びを感じるようになったのだ。


 改善した農園は夫婦の絆の象徴でもあった。肩を寄り添う二人に、声がかかる。


「聖女様、俺の育てた野菜を食べていってくれ」

「僕の野菜も絶品ですよ」

「儂のも一口食べとくれ」


 農園の至る所から野太い声が飛んでくる。どの声にも好意が混ざっているのは、クラリスの好感度の高さの証明だった。


「皆さん、優しい人たちばかりですね」

「特に男連中は、クラリスのことを慕っているようだな」

「娘のように思ってくれているのでしょうね」

「クラリスは鈍感だな……」

「どういうことですか?」

「なんでもない。ただ君を誰にも渡すつもりはないだけさ」

「はい♪ 私はずっとアルト様のものです」


 二人は視察を進め、農園から街へと移動する。


 石造りの街は以前の面影が消えている。路上で倒れ込む者はいないし、スラムも消えた。


「聖堂教会の慈善活動には感謝しないとな」

「ゼノ様たちの活躍のおかげで、飢えて苦しむ人が減りましたからね」


 教会による衣食住の提供は、貧困から大勢の人を救った。彼らはフーリエ領において、一種の英雄のようにさえ扱われている。


「聖堂教会が人気なおかげで、聖女グッズも売上が伸びているとのことだ」

「~~ぅ、は、恥ずかしいです」

「街の中央広場には彫像も建てられたそうだしな」

「えええっ、聞いていませんよ!」

「嬉しくないのか?」

「え、だって彫像ですよ?」

「ふむ、兄上とは違うのだな」

「ハラルド様と?」

「王族は十歳の誕生日になると王宮に彫像を建てられるのだが、大はしゃぎしていたぞ。『俺は偉人だ、偉いんだ』とよく自慢されたものだ」

「ふふふ、ハラルド様らしいですね。それにアルト様の彫像もあるのなら、一目見たいものです」

「残念ながら、私の彫像はない。なにせ幼少の頃は醜い顔をしていたからな。王族の恥だと、一人だけ除け者にされたのだ」

「アルト様……」

「だがクラリスの彫像なら問題ない。ゼノが魂を込めて生み出したそうでな。見事な出来栄えだったぞ」

「美化されすぎていないかと不安になりますね」

「安心しろ。実物の方が何倍も美しいからな」

「ふふふ、そう言ってくれるのはアルト様だけです♪」


 クラリスたちは街の中央へと進んでいく。貧困から解放されたおかげで、治安の心配はない。それどころか二人に向けられる好意がより強さを増していく。


 特に女性の多い商業区画へ足を踏み入れた時の反応はひとしおだ。黄色い声が至る所から届いてくる。


「アルト様は女性から慕われているようですね……」


 クラリスは笑顔を浮かべているが、横顔に影が混じっていた。その影は彼を奪われないかかと心配する感情の現れだった。


 そんな折、クラリスたちの元へと一人の女性が近づいてくる。年が十五、六の美しい淑女だ。美貌に衒いを含んだ笑みを浮かべながら、アルトをまじまじと見つめる。


「あ、あの、アルト様、これ、クッキーを焼いたんです。どうか食べてください」


 女性は綺麗にラッピングされた菓子を差し出すが、アルトは微笑みながら首を横に振る。


「気持ちはありがたいのだが、女性からの贈りモノは受け取らないことに決めているのだ」

「そ、そうですか……残念です」

「そのクッキーは君の好きな人にでもあげるといい。きっと喜んでくれる」

「は、はい」


 アルトが柔らかい対応をしたおかげもあり、女性は嬉しそうに彼の元を離れていく。その様子をクラリスは不思議そうに眺めていた。


「どうして受け取らなかったのですか?」

「好意の形は好きな人に渡してこそ意味がある。私に受け取る資格はない」


 憧れと好意は違う。アルトは自分に向けられた感情が前者だと理解していた。


「それに私はクラリス以外から贈り物を受け取るつもりはない。君を嫉妬させてしまうかもしれないからな」

「ふふふ、アルト様らしいですね」


 愚直な対応だが、そんな不器用さを好ましく感じる。クラリスは白い手を絡めると、ギュッと握りしめた。


(こんな穏やかな日常がいつまでも続けばよいのですが……」


 クラリスは内心で平和を願う。しかし彼女は失念していた。フーリエ公がいなくなっても、彼女の悪評をばら撒いていた父親が健在だということを。そしてこれからトラブルに巻き込まれていく未来を、想像さえしていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作執筆中です
醜い私を救ってくれたのはモフモフでした ~聖女の結界が消えたと、婚約破棄した公爵が後悔してももう遅い。私は他国で王子から溺愛されます~



書籍版は皆様の意見を参考に、大幅な改稿・追記を行っております!
何卒ご購入を宜しくお願い致します!
※下記の画像をクリックすると、なろうのリンクに飛べます!
i364010
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ