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第三章 ~『フーリエ領での人気』~

 クラリスの回復魔法によって、アルト領の食料不足問題は解決した。街は再び活気を取り戻し、客引きの声が五月蠅いくらいになっていた。


「アルト様、街に元気が戻りましたね」

「いいや、今まで以上だ。なにせフーリエ領より安い値段で食料が手に入るからな。おかげで余暇に回す時間と金ができた」


 生活コストが小さくなれば、余剰資金を娯楽のために散財できるし、賃金を得るための労働時間も短くできる。店頭で売られている商品は食料以外にも、日用雑貨や芸術品などバリエーションが増していた。


「それともう一つ。安くて美味い食事を提供できるアルト領は観光地としても賑わうようになった」

「旅人さんを目にするのは、それが理由なのですね」

「これもすべてクラリスのおかげだ。ありがとな」

「いえ、私の力なんてたいしたことありませんよ」

「謙遜しなくていい。君は素晴らしい女性だ」

「~~ぅ、ア、アルト様は御世辞がお上手ですね」


 クラリスは照れのせいで、頬を朱に染める。彼の言葉に嘘がないからこそ、一層恥ずかしさを覚えた。


 街を歩けば、至る所から笑い声が聞こえてくる。これもすべて彼女のおかげだ。それを証明するように、すれ違った領民たちから称賛が贈られる。


「聖女様、ありがとう」

「おかげで貧しい生活から抜け出せたよ」

「クラリス様が公爵家に嫁いできてくれて本当に良かった」


 感謝の言葉がクラリスの心に染みていく。両親から存在を否定されながら育った彼女は、人から認められることに不慣れだった。感情が揺さぶられ、目尻には小さな涙が浮かぶ。


「……っ……ほ、本当に……この街の人たちは優しい方ばかりですね」

「なにせ私の自慢の領民だからな」


 領地に住む民から敬愛されていると感じ、クラリスはアルト領がより一層好きになる。嫁いできて正解だったと、改めて実感した。


「聖女様……ですっ」

「どこからか声が……」

「私です。聖女様!」

「この声は――ゼノ様ですね」


 人混みの向こう側から声をかけたのは金髪の美青年ゼノだった。神父である彼は、フーリエ領に布教活動へと赴いていたはずだ。


「ゼノ様がどうしてここに?」

「フーリエ領では聖女様グッズの売り上げが伸び悩んでおりまして。アルト領には資金繰りのために戻ってきたのです」

「わ、私の力が及ばず、申し訳ございません」

「いえいえ、気にしないでください。その分、アルト領での売上は十倍になりましたから。まだまだ聖女様の人気は健在です」

「……ぅ、恥ずかしいやら、嬉しいやら。反応に困ってしまいますね」

「なら誇ってください。あなたのグッズの売上で、フーリエ領に孤児院を建てるに至ったのですから」

「それは嬉しい知らせですね……恥ずかしさは残りますが……」


 頬は紅潮しているが、口元には小さな笑みが浮かんでいた。子供たちが救われたことに、喜びを隠しきれなかったのだ。


「本日もグッズの販売に?」

「いえ、グッズだけでは売上に限界がありますから。今はアルト様にも協力して頂き、上質な農作物をフーリエ領に輸出しています」

「アルト様が!?」

「フーリエ領の貧しい民に食べさせて欲しいと、相場の半値で販売しています。価格が安く、上質な農作物は大人気なんですよ」

「他領の人たちにも優しくできるだなんて、さすがはアルト様です」

「クラリスを見習っただけだ。罪なき民は幸せなほうが良い。それに私の狙いは別にある。実はフーリエ公への報復にもなるのだ」


 どうして食料を安く売ることが報復になるのか。その疑問を解消するべく、アルトは説明を続ける。


「フーリエ領の農園は公爵一族が地主でな。領民たちは働かされるばかりで、作物を購入する時は正規の値段で買う嵌めになる。だが奴は農民たちに満足な給金を払っていない。そのため麦や野菜を育てても、生活が苦しいのだそうだ」


 変わりはいくらでもいると、労働力を搾取してきたのだ。フーリエ領の農民に愛郷の精神が生まれるはずもない。より安い作物が供給されれば、他領の生産物でもそちらに飛びつく。


「自国で食料が格安で売られているのだ。フーリエ公も作物の価格を下げるしかない。売値が下がれば、公爵の手元に入る金も減るからな。民も食べ物に困らなくなるし、最高の復讐になる」


 敵はフーリエ公ただ一人だ。無関係の領民を傷つける必要はない。


「実際、フーリエ領では、アルト公爵様の人気はうなぎ登りですよ。公爵様グッズは聖女様グッズの売上を超えましたからね」

「わ、私のグッズだと!?」

「無断で作らせていただきました。駄目でしたか?」

「その利益も慈善事業に使われているのか?」

「もちろん」

「はぁー、なら認めるしかあるまい」

「さすが。聖女様も理解のある旦那様をお持ちで、羨ましい限りです」

「ふふふ、なにせ私の自慢の旦那様ですから♪」


 アルトもまた恥ずかしさに頬を紅潮させる。本当に似た者夫婦だと、ゼノは微笑ましげに彼らを見つめるのだった。


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醜い私を救ってくれたのはモフモフでした ~聖女の結界が消えたと、婚約破棄した公爵が後悔してももう遅い。私は他国で王子から溺愛されます~



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