08.世界とはなんたるや
午後からは教会で儀式を行い、その後は5歳の誕生日パーティーが行われる。
この世界で5歳というのはとても大切な年とされていて盛大にパーティーを行うものらしい。
朝食の際お父様に5歳のプレゼントは通例魔道具だという事を聞いたので儀式後、適正が分かってから選ぶみたい。
興奮したお父様はそれはもうウホウホとしていて思わず朝食のデザートのバナナをお父様にあげてしまった…。
え?どんな反応してたかって?嬉しそうにしてたけど…。
とりあえず儀式前にお母様にご挨拶に行こう!
長い廊下を歩きお母様の部屋の前にたどり着く。
ノブに手を掛けようとして部屋からお母様と男性の声が聞こえてきた。
「ゴホゴホッ…」
「リンドバーグ夫人…ご無理をなされてはなりません!我々も手を尽くしておりますが現在では夫人のご病気を治せる癒術師が見つからないのです…今は悪化させないというのが第1なのですよ…」
「…わかっています…ですがあの子ももう5歳…せめて今日のパーティーにはわたくしも出席したいわ…あの子の晴れ姿を見ずに死んだらそれこそ私は悔やんでも悔やみきれなっゴホッ」
「リンドバーグ夫人!とりあえず落ち着かれて下さい!…はぁ…少しくらいなら大丈夫でしょうが絶対に!ご無理をなされてはなりませんからね!」
「ありがとう…」
お母様…お母様の体調がそんなに悪かったなんて…!
震える手をドアノブから離して柱の陰に身を隠した。
お医者様らしき人がお母様の部屋から離れて行くのを見ながら足元を見つめる。
お母様…
いつも静かに微笑んで苦しい姿なんて一度も見せた事なんてなかったお母様。
あのお父様ですらそんな素振りを見せた事はなかった。
子供の私に余計な心配を掛けさせない為なんだろうけど、お母様が居なくなってしまうなんて考えた事もなかった。
いや、考えないようにしてたのかな。
この世界が夢みたいで幸せでこれがずっと続くと思ってた。
魔法でもどうにもならないなんて…
この世界で私は生きている。
お母様もお父様もジルも使用人のみんなだって。
どこかで夢心地でいた自分が情けない。
グっと拳を握りしめると爪が食い込んで痛む。
痛い…
痛いのは当たり前だ。でも分かってなかった。
いつのまにか自分の都合のいい様にこの世界を認識していた。
お母様を救いたい。
失いたくない。
私はこの世界で生きてるんだから!!
もう一度グッと拳を握りしめて、お母様の部屋へ向かう。
ガチャっという音と共にドアが開く。
ベッドの上で枕を背に本を手に取ったお母様がこちらを見て微笑んだ。
「ルルノア、おはよう。5歳の誕生日おめでとう!こちらにいらっしゃい」
ベッドの上でお母様が両手を広げる。
涙をぐっと堪えてお母様の腕の中に飛び込む。
「ありがとうございますお母様!私は…私はもう5歳になりました!魔法だってこれから沢山お勉強します!だから…お母様は安心して見てて下さいね…!」
お母様は眩しそうに私を見ていっそう微笑みを深めて言う。
「本当に大きくなったわねルルノア…。私はいつだって貴方を見ているわよ!今日のパーティーには私も参加するからルルノアの今日まで学んだ事を私に見せてちょうだいね」
「はい!!今日は教会での儀式もあるのでとっても楽しみです!」
最後にギュッと抱きしめてお母様から離れる。
「ロベールも気合が入ってるみたいよ〜朝から屋敷を駆け回っているみたいだもの。」
「お父様は少し気合が入り過ぎです…」
ふぅと息をつくとお母様が上品に口元に手を当ててコロコロと笑った。
「あ、私からルルノアにプレゼントがあるのよ」
そういうとサイドボードからお母様が綺麗な銀細工の小物入れをとりだして私に手渡した。
「あけてみて」
そっと蓋をあけると中に美しいサファイアのネックレスが入っている。
「お母様これって…!」
お母様が付けているのを何度も見た事がある。守りの付属効果のついた綺麗なネックレスだ。
「代々私の生家で受け継がれているものよ。今日から貴方がこれを受け継ぐの。」
そう言って私にネックレスをつけてくれる。
私の頭を撫でて手を降ろす。
「…大事にします。お母様みたいになれる様に私頑張ります!!」
「まぁ!とっても似合っているわルルノア。もう貴方も立派なレディね。さぁ、そろそろ準備をしなくては!ジルが貴方を探しているのではなくて?」
「そう…ですわね!ではお母様、失礼致しますわ!」
おどけた様にカーテシーをして部屋をでた。
サファイアのネックレスをギュッと握る。
お母様…私はもっともっと成長しなくては!!!