05.幼女の独白
ビルマー夫人を迎えるため屋敷に戻り、私の中でお勉強部屋と呼んでいる部屋にジルと共に向かう。
いつもなら朝食の後少し時間が空くので復習がてらお茶をするのだが、今日は朝食をゆっくりし過ぎてしまったらしくビルマー夫人がお見えになる時間が迫ってしまっている。
私が廊下を歩くと掃除などをしているメイドが手を止めて頭を下げるので申し訳ない気持ちになる…
いつもはそれが気になるのでせめても愛嬌をふりまいて歩くのだが、今日はそこまでの余裕はない。
小さな歩幅を懸命に進めていく。
後ろでジルが微笑ましげな顔をしている…そりゃあ大人に比べればとんでもなく遅いだろうがこっちは必死だっていうのに!
子供の体には慣れたが、未だにこの生暖かい視線には慣れない。
屋敷の皆が私に甘々なので、もし私に前世の記憶がなければそれは我儘なガキンチョに育っただろうなと思う。
お父様なんて私がやりたいと言ったことに反対した事なんてないし、ドレスや宝石が何にも言ってないのに衣装部屋にドンドン増えていくのでこの間必死にもういらないと懇願した。
子供なんてすぐに体型が変わるのに、あんなに用意しては一度もきれずに終わるドレスも出てきそうだ。
恐ろしき公爵家のお金持ち思考…いや、お父様…
未だに一般庶民の感覚が抜けない私の事を皆が思慮深く欲のないお嬢様だと褒め称える。けれども私にしてみれば貴族の思考回路の方が頭がおかしい。
もちろん貴族がお金を使うという事はとても大事な仕事の一つではあるらしいが、もったいない物はもったいないのでこのスタンスは貫いていきたい。
そして私はこの外面のよさでゴリラではないイケメンをこの手で捕まえてみせる!!
その為にも私はこの天使と呼ばれる評価を覆すことはしてはならない。
日々努力!お母様を見ればわかるが私はきっとあんな美女に成長するはずなのだ。
前世で正直ぶすだった私にしてみれば、美しいと言うだけで世間はこんなにも優しいのかと感動すら覚える。
でも性格の悪い美人程勿体無いものは無いので、絶対に初心忘れるべからずである。
そんな事を考えながらやっと勉強部屋にたどり着きソファに腰掛けふぅと息をついた。
そしてすぐにコンコンとノックの音が響く。
「ビルマー夫人がお見えです」
ドアの外からメイドらしき声が聞こえる。
「どうぞ、お入りください」
私が答えるとガチャリとドアが開きビルマー夫人が私に美しいカーテシーを披露してみせる。
「ルルノア様、本日もよろしくお願いしますわ」
そして私も覚えたてのつたないカーテシーで挨拶する。
「ビルマーふじん、こちらこそよろしくおねがいいたします」
ビルマー夫人が満足気に微笑む。
こうしてまた私の日常が過ぎていくのであった。