21.感覚派か論理派か
しばらく厨二感ただよう空気に酔いしれていたのだがずっとこうしている訳にもいかないのでさ、授業を始めましょう?とにっこにこの笑顔で紫の空気をぶった切った。
しばらく先生は動揺していたが生活魔法について話し出す頃には落ち着き始めていた。
「生活魔法は君も見たことあるだろうが…本人の魔力の属性にかかわらず使える魔法だ。先程説明した通り体内に宿る魔力は属性通りの魔法しか使えない。しかしこの生活魔法は周囲の魔素を集めて現象として発生させているので威力はないが属性以外の魔法を発動させる事ができるんだ」
ここまではいいかい?と先生が言う。
いやあの、私が普通の5歳児だったら理解できなかったと思う。子供に現象として発生とか言って理解出来ると思っているのか?
まぁでも普段は子供と接する事がないみたいなので仕方がない。それに先生と私は仲間なのだそこはフィーリングで、という事だろう。
「はい先生」
「流石だ。魔素は潜在魔力量が多いものであればあるほど取り込みやすい。なぜなら魔力量が多い者というのは魔力管と呼ばれる魔力の血管の様なものがほかの人より多く出来ている。その身体中に張り巡らされた魔力管が多いほど魔素の吸収できる量が増えるんだ。表皮から取り込まれた魔力はその魔力管を通って自身の魔力に変換されるため魔力管が多い者の方が取り込みやすいと言えるという事だ。」
「魔力はどこに溜められているのですか?」
「ふむ、諸説あるが腹部の辺りに魔力を溜める器官があり自身の魔力は常にそこで作られていると考えられている。魔素によって作られた魔力は溜める事は出来ないので取り込んだ魔力量の魔法しか使えんのだ」
みな魔法については生まれた時から親しんだ物なのでそういう風に出来ているとしか考えていないらしい。
研究職の先生だからこその目線だろう。
「潜在魔力量の多さはどうしたら分かるのです?何か方法が?」
「測る魔道具がある…と言ってやりたいが今のところはギリギリまで魔法を使ってみるしか方法がない。だからある程度自制のできる5歳になるまで魔力を賜われないのだ。魔力不足は生命の危機に関わる。ある程度魔法や自分の魔力について理解出来るまでは魔法を頻発する様な真似はするんじゃないぞ」
何その原始的な方法。
ファンタジーなんだから何とかしてよね。魔道具の開発だってされてるのにそこには力いれないの?
「わかりました。どちらにしても私はまだまともな魔法が使えませんから大丈夫です」
「そうか、君はまだ5歳だったな」
今思い出したかの様に言わないで欲しい。先程までその5歳と心の闇を晒しあった仲ではないか。
「そうですわ。でも私には目標があるので絶対に先生のような凄い魔法使いになりたいのです」
そう、絶対にお母様の病気を治したい。
その為にはそんじょそこらの癒術師ではダメなのだ。
「そうか…。君ならきっとやり遂げるだろう。俺の話もきちんと理解している様だし本当に5歳なのか?」
「い、嫌ですわルドルフ先生。貴族の子女ならばこれくらい理解して当然ですわ」
普段子供と接しない先生はそれもそうかと納得した様だった。
お願いだからこれからも子供と関わらないで下さい。絶対に世の5歳は貴族といえど普通は理解できませんから。
前世の5歳の甥っ子は鼻水たらして変身ベルト片手にヒーローになると走り回っていたくらいだ。
全然子供らしくない私がおかしいのだ。
「では魔素の集め方だが今日は俺が実際にやってみせるから魔力の流れを注視して見ていてくれ」
魔力の流れってそもそもどうやって見るの?ねぇ、先生…。全然わかんないんだけど。
「あの…ルドルフ先生。魔力の流れとはどうやって見るものなのですか…?」
「…あぁすまない。そこからだったな。普段からやっているので忘れていた」
もうっ!お茶目さんっ!
とはならない。私は初心者なのだ。自分の魔力すら杖に灯すので精一杯だ。
「いえ、まずどうすれば見えるものなのですか?」
「自分の魔力の操作は習ったな?その自分の魔力を目に集めるつもりでやってみろ」
お腹から水を目に吸い上げていくイメージでフンヌウウウと力を入れる。
目からビームとかでたらどうしよう、と要らぬ心配をしながら目をパチパチしていると先生の周りに白色のもやもやが見えてきた。
「白色のもや…の様なものが先生の周りに見えますわ」
「それは私が今集めている魔素だ。すごいな本当に一発で出来るとは思わなかった」
おい!!
「そ、そうなんですの?私魔力操作の練習ばかりしておりましたからそのせいかもしれませんわね」
あたかも出来ないと可笑しいみたいに言うからできなかったらどうしようと不安になったでは無いか。流石の心の友でもどついたろか。
始めの怯えなんて何処かに行ってしまった。この先生はただの天然厨二仮面だ。恐れる必要などなかった。
出来たものは出来たので先生のもやもやを見ているとそれが先生の中に吸い込まれていった。
◯イソンもびっくりの吸引力だ。
一家に一台頂きたい。
「先生に吸収された様に見えます!」
「そうだ。そこからよく見ていてくれ」
そう言って先生が水よ来たれと呟くと先生の指先に先程の白い靄が現れ淡く水色に光り手桶に水が満たされた。
「指先が水色に光りましたわ!」
「これが生活魔法だ。水よ来たれと言ったが無詠唱でも可能だ。要するに取り込んだ魔素に水のイメージを持たせる事に意味がある」
「なるほど。炎や風であれば違う色になるのですね」
私がそう言うと先生は小皿にメモ紙を乗せて燃えろと言うと指先が淡く赤色に光ってメモ紙が燃えて灰になった。
「簡単そうに見えるだろうが案外最初はイメージ作りに苦労する。ただ燃える様を想像するのではなく炎であれば燃える前の事象まで想像出来なければ魔素は飛散して終わる。それに魔力量によっては大きな火を起こす事も可能だからな。火の大きさまで想像しなければ大変な事になるだろう。ただ魔力操作によって発生させる魔力も調整できるようになるのでそれで限界を決めてしまうというのが初心者は良いだろう」
それは恐ろしい。
要は意識して炎の大きさを決めれないならそもそもの魔力を小さくしてしまえと言う事だろう。
感覚派と論理派。私はどちらかと言うと感覚派なのだが初心者なのでまずは魔力操作を極めるしかない。
失敗して屋敷を燃やしたなんて事になったら笑えない。
「わかりましたわ。まずは魔素を使った魔力操作に慣れる所からですわね」
「そうだな。ちょっと最初から飛ばしすぎたがここまで理解できれば俺がいない時も練習くらいできるだろう。ただし、魔素の操作までだ。具現化はまだ早いから絶対にやるなよ」
わかっていますとも。私も自分の家を燃やしたり水浸しにしたりはしたくない。
「もちろんです。とりあえずは本日教えて頂いた事を復習するくらいに致します」
「そうしてくれ。…少し遅くなってしまったが今日はここまでだ。明後日まだ同じ時間に来るから復習しておくように。」
わかりました。ありがとうございます。と返事をした後出ていくのかと思ったのに全然出ていかない。
ど、どうしたんですか…?
何か言いたげにチラチラとこちらを見てくる。と言っても仮面があるので気がするだけだが。
「…その…今日はありがとう。俺ももう少し頑張ってみるよ」
そう言って先生は出ていった。
そうか、厨二キャッチボールがそんなに楽しかったのか。
相変わらず仮面の下は見ることは出来なかったが仕方ない。いつか先生の暗黒時代に終わりが来るまで私も勉強を教えて貰うのだから付き合うとしよう。
そして一連の流れをジルがドアの隙間から見ていた事をその夜知って私はそっと膝から崩れ落ちたのであった。




