20.今日から私も厨二病
衝撃の厨二病先生との出会いが衝撃すぎて誰に聞かれても良い先生そうだったと言うことしか出来ないまま次の日になった。
お父様にも本当に大丈夫か聞かれたがお父様に余計な事を言うと先生が(主に心の)危険に晒されそうだったので敢えて仮面についても深く追求しなかったのだ。
朝お母様と話した時も先生の厨二病を晒す事は私には出来ずちょっと変わった先生だったとしか説明できなかった。
お母様は面識が無いらしく、とてもじゃないがお母様の精神衛生上あのコダマ仮面を付けている事は言えそうにない。
ジルに至っては生で見ているので恐怖におののいていた。でも先生を刺激する訳にいかないのでジルにはあの人はアレでいいのだから先生の前では怯えないようにとよく言い聞かせた。
が、どう考えたってあの仮面は淑女には刺激が強すぎる。夜急に廊下で出くわしたら多分ちびる。
できればもっとマシな仮面にして欲しい。ひょっとことかだったらいいのに。
いや、ひょっとこの顔であのバリトンボイスはミスマッチすぎて逆に怖いか…
何にせよ私はあの先生に魔法を教えて貰わねばならないので怖がってはいられない。
先生の厨二病を刺激せず、安全に、お母様の病気を治せるような魔法があるのかを教えて貰うのが目標だ。
慎重に懐柔していかねばなるまい。
でも部屋に入ってきた先生のつぶらな3つの穴を見て既に心が折れかけている。
「お、おはようございますルドルフ先生。本日からお手数かとは存じますが宜しくお願い致しますわ」
お嬢様口調が板についていてよかった。
気を抜くと心の中の声が漏れ出してアウトな発言を繰り出してしまいそうだ。
「あぁ俺も講師として教えるのには慣れていないので分からない事があれば都度確認してくれ」
「はい、あ、昨日言われた通りに手桶と使わなくなったお皿を用意致しました。こちらは何にお使いになられるのですか?」
そう昨日のうちに用意しておくように言われていたのだ。
まさかこれで私を拷問するつもりじゃ…!と考えたが手桶と皿で何ができると言うのだと考え直してキチンと用意した。
ジルには冷たいアイスティーをデキャンタで用意してもらい部屋を出て貰った。
あまりにもジルが恐ろしい表情(威嚇)をするので先生を刺激するかも知れないと思ったからだ。
もちろん暖かい紅茶を所望されれば私が淹れるつもりである。どちらが好みかわからないので両方用意した。
ビルマー夫人にだってここまで気を使った事はない。
しかしルドルフ先生は厨二病を抱えた高等魔導師なのだ!何かが引き金になってこの辺り一帯更地にされては叶わない。
「それは追い追い使うからとりあえず置いておけ」
「わかりましたわ!あの、ルドルフ先生は冷たい紅茶と暖かい紅茶どちらがお好きですか?」
というか言ってから気づいたんだけど仮面してるから飲めなくない?
え、私ばか?
ギギギギギとブリキのような動きで先生の方を見ると表情はわからないが悩んでいるようだ。
私をどうやって殺すのか悩んでいるのかな…あぁ…短い人生だった…。
と、笑顔を装ったまま心の中で泣いていると先生は首を傾けて言う。
「悪いが俺はこの仮面を君の前で外すつもりはない。気にしないで君は好きなものを飲むといい」
いや、怖い!首が傾くと更にコダマ感が増す。
飲み物を飲めないと分かっていて聞いたと思われてたらどうしよう。
先生のアイデンティティを奪うつもりはなかったんです、無実です!
…でも思ったよりは心が広いようだ。無能感ただよう私の発言もスルーしてくれたようだし。
いや、表情が分からないからめっちゃ睨んでるのかもしれないけどそういう事にしないと私の心がもたない。
「そ、そうですか…?あの、言って下されば私後ろを向いておきますから喉が渇いたら仰って下さいね」
なんなら部屋を出てドアの前で傅いてお待ち致しますので許してください。
「…君は聞かないんだな」
いやなにおぅ!?
聞きたい事なら沢山ありますとも、えぇ。その仮面の事とか仮面の事とか仮面の事とかね!!!
でも怖くて聞けない!聞けないだけなんです先生!
「ロベールからは俺について何も聞いていないんだろう?」
「はい…でも凄い魔術師様で普段は研究職についていらっしゃるとはお聞きしました!」
それだけで…十分じゃないか…!
と言う爽やかな顔をして見せる。
先生…わざわざ自分で傷を抉りにいかなくていいんだよ…。
やめよ…わかってるから私…先生が未だに漆黒の翼とか闇の眷属とかそういうの好きな事わかってるから…。
「そうか…それでも君は…」
いや、でも…と先生が何やら俯いてブツブツ言ってる。
え、呪文とか唱えちゃってる?私死ぬの?それとも仲間だと思われた?
私にも第三の眼があるみたいなそういう展開?
むしろそれならそうなった方が都合が良い気がしてきた。厨二病同士の繋がりは強い。何せお互いの黒歴史を晒し合うのだ。連帯感が生まれ同じ志を持つ者として歓迎してくれるだろう。
「先生、私と先生は同じですわ…!いえ、先生の闇は深いかもしれない…。でもその闇にのまれないで…!いつか、いつか私がその深淵から先生を救い出してみせます!(厨二病から)」
厨二病としてはもう闇、漆黒、深淵などという言葉を羅列するしか思いつかない。何が先生と私が同じなのか全くわからないが仲間だという事は伝わっただろう。
現に先生もトトンッとたたらを踏んで態とらしく顔を手で覆ってみせた。
これはもう厨二キャッチボールが成立したと言えると思う。
私も何かを決心したように首からかけたお母様に貰ったネックレスを握って目を伏せて見せる。
これで…完成だ!!
何が完成したのかわからないが厨二っぽい空気感は作り出せたと思う。
これで仲間も同然。
先生も私を簡単に切り捨てる事など出来ないはずだ。
「君は…すごいな。ロベールの言っていた通りだ。君なら…君となら俺は…」
お、お父様!?
何を言ったの?私の厨二属性を見抜いていたという事…!?
先生は感極まったようにカタカタと手を震わせている。
確かにこんな大きなお友達になるまで厨二を引きずっていると仲間はいなくなってしまっているだろう。
こうして私は先生とうまくやっていくため厨二病の道にもう一度足を踏み入れる事となったのであった。




