02.そんなバナナ
私が前世であろう記憶を思い出したのは3歳の時の事である。
お母様は産後の肥立ちが悪く体を壊してしまい、私を産んだ後殆どベッドから動く事が出来なくなってしまった。
話が出来ないほどではないが、長い間お話をしたりご飯を一緒に食べるなんてのは数えられるくらいしかした事がなかった。
それでもお母様は出来るだけ私と過ごしてくれたし、お父様は3人でお茶をする時間を作ってくれてその時間が幼い私は大好きだった。
お母様の事が大好きな幼い私は、お母様が少しでも元気になればと思いお茶の時間にテーブルを飾るお花を取りに行った時の事。
「じるー!ルルがつんだおはなおかーさまよろこんでくれるといいなぁー!」
にこにこと幼い私はジルと繋いでいる手を離して駆け出す。
そしてジルの方を向いて後ろ歩きをする。
「必ずお喜びになりますわ!奥様は…あ!!!お嬢様!お、お嬢様!うしろうしろ!!!」
志村…?
と知らない人の名前が頭に浮かんだ所で私は何かに足を滑らして物凄い勢いで転び後頭部を強打して意識を失ったのである。
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目を覚ました私は前世の私と記憶が混同してしまっており、暫くは変な事ばかり言っていたと思う。
それでもまだ3歳だった事もあり、夢の話とごちゃ混ぜになってると思われたらしく皆んな録に話は聞いていないようだった。
かなりお父様とお母様は心配していたが、タンコブが出来たくらいでジルはギルバートにお説教を食うだけで済んだらしい。
熱が出て三日三晩寝込んだ後、私はやっと落ち着いて話す事が出来るようになっていた。
「ねえ、じるーわたしなにかにつまずいてころんだとおもうのだけど…」
朝の支度をしてくれているジルが私がわたしと言った事に少し首を傾けるのをみて自分事をルルと言っていた事に気がついてにこっと笑って誤魔化す。
「…お嬢様はあの…バナナの皮を踏んで…申し訳ありません、私がついていながらお嬢様にお怪我をさせてしまいました…」
いや、え、え、いや、え??
バナナの皮??
なんで?なんでこんなお屋敷の裏庭にバナナの皮??おかしくない??
野生のゴリラでもいるっていうの?
ま、まさか!!
「お、おとうさまがたべたばななかしら…」
「お嬢様なぜ旦那様なのですか!?いや、恐らく厨房の物がゴミを捨てる際に落としてしまった物かと…」
そ、そうだよね…流石のお父様でもあんな綺麗なお庭でバナナを食べたりしないはずだよね…?
しかも怪我する前のジルもお嬢様うしろうしろ!って完全にもうアレじゃないの。止める気あったのだろうか?
記憶があると言っても詳細に覚えているわけではない。前世の両親や友達の名前などは覚えていないが、一般庶民として生きていたのでこのお貴族生活にはまだなれない。ただ、ルルノアとしての記憶もあるので今の両親は両親として納得しているし心から愛している。
しかしあのお父様のお顔は…完全にゴリ、いや少し動物的だ。
ファンタジーだしもしや獣人なのかと思ったが違うらしい。獣人も存在するがゴリラの獣人はいないらしい。
お母様とお父様が並ぶと美女と野獣っていうかキングコングっていうか…
お母様は亜麻色の髪に私と同じ瞳の色を持つ儚げな美女である。
そんな美女がなぜ…?でもお父様は見た目こそゴリラだけどとっても優しいし紳士だし仕事もやればできる。きっとそんな所に惹かれたんだと思う。うん。
ぼーっとそんな事を考えてるとジルは私がまだ眠いのだと思ったらしい。子供だしね。
「お嬢様、まだお休みになられますか?旦那様から今日はまだご無理をなさいませんようにと言われております」
そう言いながらジルが桶に向かって何か呟くと桶に水が張られる。
みず、どこから来たんですか…?
え、マジック??ここに来てナチュラルにマジック披露?
そういえば私の記憶が戻るまでは気にしてなかったけど毎朝ジルはこうして水を張っていた。
もしかして私が反応するまで毎朝こうしてマジックを披露してくれていた…?
なんて健気なの…!
子供を楽しませる事にも余念が無かったということなのか…!
「じる…マジックができるのね!!いままできづかなくてごめんね!」
「何をおっしゃってるんですかお嬢様…やっぱりまだ体調が優れないのでは…?まじっくとやらは分かりませんが生活魔法でしたら毎日ご覧になっているではありませんか!」
あまりにも心配そうにジルが言うのでそれが常識なのだと言うことがわかる。
生活魔法…と言うことは魔法がある…?
「ご、ごめんなさい、だいじょうぶよ!きょうはおきておとうさまとちょうしょくをいただくわ!!」
魔法なんてワクワクする事を知って黙ってはいられない!
早くこの世界に慣れて、私は魔法を使いたい!
急にやる気が出た私は3日ぶりにベッドから降りる事となりジルの用意した魔法の!お水で顔を洗った。
病み上がりなのでゆったりとしたワンピースに着替えさせて貰い、勇み足で食堂へと向かったのである。
後ろで急に元気になった私の部屋を出るときのドヤ顔に、ジルが微笑んでいるのを見て急に恥ずかしくなったのは内緒…