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17.世界の歴史




パーティーが終わり屋敷は静けさを取り戻す。

汗をかいたのでお風呂に入りお父様とお母様に就寝の挨拶をして布団に潜り込んだ。

本当はドルトン侯爵について詳しく聞きたかったのだが怒涛の1日に子供の体は疲れきっており睡魔には勝てず考え事をする間も無く眠りに落ちて行った。


ーーーーーーーーーーーーー




翌朝ジルがドアを開ける音で目を覚ました。昨日はずいぶん早く寝たのでスッキリしている。


「おはようございますお嬢様。昨日は随分早くお休みになられたのでお疲れだったのですね。まだ少し早いですがもう起きられますか?」


「おはようジル、私もう起きるわ」


グゥーっと伸びをしてベッドから足を下ろしジルの用意した水で顔を洗う。

今日は来客もレッスンも無いのでゆったりとしたワンピースに着替えて食堂室へ向かった。

部屋に入るがお父様はまだ来てないようだ。待っていよう。

そしてイスに腰掛けて昨日の事を考える。

昨日のドルトン侯爵の事なんて聞こうかなあ…

あんなクソ野郎なんて今すぐにでもボッコボコのボコにしてやりたい。

イケメンに悲しい顔をさせおって!!

奴隷反対!反対なのよ!!


「随分難しい顔をしているね」


「お、お父様!ごめんなさい、考え事をしていたの!おはようございますお父様!」


お父様が来たのに全然気がつかなかった。


「おはよう、私の可愛いルル!昨日のドレスも凄く似合っていたけど今日のワンピース姿も似合ってるね」


「もう!お父様ったら!」


アハハハハとまた円盤投げが始まりそうだったのでさりげなくイスに腰掛けて回避する。

そんないじけた顔してもダメです!


「むぅ、今日は随分と早いんだね。」


「昨日凄く早く寝てしまったから目が覚めてしまって…あの…お父様にお聞きしたい事も…」


「…とりあえず朝食を食べてしまおうか。ルルの聞きたい事は想像がついているけどね」


お父様はギルバートの引いたイスに腰掛けて少し悲しそうな顔で私を見た。

私もギルバートにおはようと声をかけて前を向きなおした。

朝食は野菜のコンソメスープに白パンとオムレツ、お父様はこれに鴨肉のローストだ。

私は朝からそんなに食べられないのでお肉は遠慮した。

うん、今日も美味しい。

この世界ってお料理に関してはすっごく進んでいて現代とそこまでの差はない。これは物凄く有り難かった。

ご飯は力の源だからね!


「ルルはいつも美味しそうにご飯を食べるね」


「だってとても美味しいんですもの!うちのシェフはきっと世界一ですわ!」


まじで世界一だと思う。

フワトロの甘めのオムレツにコンソメスープは私の分は食べやすいように野菜が小さくカットされているし白パンも手作りでフワフワモチモチ…これを世界一と呼ばず何とするか!!


「ははは、確かにそうだね!料理長に伝えてあげたら泣いて喜ぶよきっと」


たまたま厨房のドアが開いていてもう料理長には聞こえていたらしく、ウォォォお嬢様アアアと遠くに走り去っていく声が聞こえた。


き、聞こえていたみたいですわね…とお父様と笑いあって食事は終了。


ここからが本題だ。

メイドが片付けていく皿を見ながらなんて切り出したらいいか、と考える。


「ルル、ルルが聞きたい事って昨日のドルトン侯爵の件だよね」


やっぱりバレてたか。

いや、私が分かりやすいだけか。


「…はい。ずっと昨日の事が忘れられなくて。奴隷とはどういう事なのですか?あの獣人の方はとてもお辛そうだったわ…」


もちろん奴隷が何かは知っているけれど私に奴隷が何たるやなんて教える人はこの屋敷には居なかったのでここから入るほかない。


「はぁ…ドルトン侯爵には困ったものだ。ルルには関係の無い話だしルルが心を痛めるだろうとこの話は誰もしてこなかったんだ。大きくなればいずれ知る事になるから、と…。まず、奴隷と言うのは地位でいうと一番下に属する者達の事なんだ。我々貴族の下に平民がいて更にスラムの市民権を持たない者達。そして、奴隷だ。スラムの者は移民であったり、税金すら払う事の出来ない者達がほとんどなのさ。その者達は仕事に就く事は難しい。市民権がないからね。そういう者達が食うに困って辿り着くのが奴隷と言う身分だね。」


ここまではわかるかな?とお父様が区切る。

分かってはいたけど私が貴族に生まれ変わる事が出来たのは幸運も良いところだろう。

奴隷という立場がどれだけ冷遇されているか想像に難くない。


「はい、お父様。昨日の獣人の方も移民なのですか?獣人の方は初めて見ましたわ…」


「…ここからは辛い話だ。本当に聞きたいのかい?」


はい、と言うとお父様はふぅーとため息をついて話し始めた。


「このディスペリア王国が180年くらい前に獣人の国であるヴァルグ国と戦争になったのは知っているね?ヴァルグ国はディスペリア王国と違って国交を開いていなかったから武器なんかは手斧や剣に弓ばかりで魔法のある我が国と戦力差は歴然だった。それでも彼らは抵抗して降伏する事は無かったそうだ。それでも我が国が勝ち領土を奪い、半数は南へ逃亡したが逃げる事の出来なかったヴァルグ国の民はその時の王の采配で奴隷という身分を強いられた。その際に力の強い獣人を従えるため奴隷紋という魔法陣が作られ彼らは人間に一切の抵抗を出来なくされた。ドルトン侯爵家はその獣人の奴隷の売買の権利を代々受け継いでいるのさ。」


「じゃあ獣人の方は皆あのような扱いを受けているというのですか!?」


「そうだね…。迫害に拍車を掛けているのは…彼らの容姿の所為もあるだろう。彼らの祖先は魔獣なんだ。だから獣の特徴があるだろう?我々にとって魔獣は不浄の物とされて来た。顔立ちも我々とは違う。怖いんだよ、人間は自分達と違う物が怖くて仕方がないんだ。」


う、嘘でしょ…。



顔だけでいえばお父様の方が怖いわよ…!!


魔獣は確かに神話でも悪の手下として出てくる事が多い。

でも今や魔獣と獣人は別物だ。

そんな理由で戦争したのだとしたらその王は愚王だ。

そして訂正させて頂きたい。

彼らは、天使だ。

神が私に遣わした天使としか思えない。

モフモフとイケメンのコラボになんのいちゃもんがあると言うのだ!!

かわいい×かっこいいはイコール正義だ。


「酷いわ!!そんな理由で…彼らだって私と同じく心があるのよ!そんなの許せない…!!」


あの犬耳のお兄さんは凄く悲しそうに見えた。

イケメンの悲しそうな顔は見てて辛すぎる。そんなのはこの私が許さない。

お父様は辛そうに言う。


「そうだね、私もそう思うよ。でもルルみたいに考えられる人ばかりじゃない。大半はそう定められているとしか考えていない。この悪習を変えたいと思う人も居るが…まだ力が足りない。元は王族の決めた事だ。現王が政策に乗り出さない限りは表立って反対する事が難しいんだよ」


さすがに王族となると私がぶん殴って矯正させる事は難しいだろうな。

せめてあのドルトン侯爵だけでもボコボコにしてやりたいわ。


「そう…なんですのね…。私にも何かできる事があれば良いのですけれど…」


「…その気持ちを忘れないでいて。私もこの状況には嫌気がさしている。出来る事はして行くつもりだからルルはその優しい気持ちを忘れないでいてあげておくれ」


優しい気持ちというか邪な気持ちというか。

とりあえず私に出来る事を探してみよう。もう一度あのお兄さんに会いたい。

お父様が言うような綺麗な心じゃないけれど助けたい気持ちは人一倍だ。

大きな事は出来なくても一歩ずつだ!



「はい、お父様…。私、部屋に戻りますわ!お父様の力になれるよう沢山お勉強します!!」


「あぁ、無理はしないんだよ。今日はゆっくり休みなさい」



はい、と返事をして部屋に戻った。

バフンッと音を立ててベッドに倒れこむ。

先程聞いた事は衝撃だったな。

やっぱり私とは価値観が違いすぎる。


でも、認めない。

ぜーーったいに認めないから!!!







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