15.とある青年の独白
《とある犬耳青年side》
俺は獣人だ。
獣人は100年以上前に人間との戦いに敗れその殆どが今や奴隷となっている。
人間達と違い美しさを持たない俺達は人間どもから忌み嫌われ、仕事と言えば戦いの際に盾となる事。
酷いものは人体実験の標的にされ2度と帰って来る事はなかった。
幼い子供達は労働力として過酷な仕事に従事させられバタバタと倒れていった。
女は性奴隷として売られたが体が人間より頑丈とはいえ飢えや病には勝てず衰弱していった。
俺といえば生まれはスラムで貧民街で隠れるように暮らしていた所を奴隷商に捕まり衰弱していた俺は抵抗する事も出来なかった。
憎い。人間達が憎い。
しかし奴隷紋をつけられた俺には歯向かう事は出来ず、死ぬ事も許されない。
折檻と言う名の拷問を受けようとも人間と違いすぐに死ぬ事のない俺は虫の息になろうとも10日程すれば歩けるようになる。
しかし心は磨耗し主人が変わるたび感情を表に出す事もしなくなった。
叫び声1つあげない俺を主人となった男は気味が悪いと吐き捨てて殴る事はしなくなった。
しかし無駄な事を話さない俺を都合が良いと思ったのか男は俺を牢から出しまともな服を着せて連れ歩くようになった。
人間は俺を見ると顔をしかめて目をそらした。醜い。汚らわしい。と声に出さずともそう思っているのがわかる。
確かに人間は美しい者が多い。俺達獣人は必要最低限の筋肉しかつかないし顔つきも平坦で人間に言わせると魔獣と変わらないらしい。
悔しいが見た目に関しては人間には勝てない。しかし奴隷紋さえ無ければ獣人の方が力は強い。
絶対にいつか八つ裂きにしてやる。
そして今日は男に連れられ貴族の屋敷に行く事になった。
「あのリンドバーグ家に我が領の奴隷を買わせれば奴隷反対派などと馬鹿げた事を言っておる奴らを黙らせる事が出来るぞ!お前も今日は少しはまともに見えるようにしておけよ!お前に魔法でもぶっ放せば有用だとわかるだろうハッハッハ」
…クズが。
人間の貴族とやらは本当に面倒くさい。
やれしきたりだやれマナーだと一々小さな事を気にしてやがる。
そのリンドバーグとやらは知りもしないがこいつに集られるのだけば同情してやらん事もない。
たどり着いたのは庭の美しい屋敷で白磁の噴水の周りに多くの豪華な馬車が止まっている。
この男の屋敷よりは趣味がいいようだな。
こいつの屋敷は無駄に金を使った細工が多くて目が痛くなる。
俺は貢物をギュウギュウに詰め込んだ荷馬車から降りると男に命令される通り顔が見えないように俯き男について歩く。
周りの人間達が俺をみてヒソヒソと何かしらを囁きあっている。
何を話しているかは想像はつくが皆共通して顔に嘲笑を浮かべている。
本当にクソだらけだ。
屋敷の中に入ると使用人に案内され大きな広間へ入る。
ここまで人がいると俺に同情的な視線を向ける者もいるが俺の顔を見るとサッと視線をそらした。
なんも出来ねえ癖にみてんじゃねえ!
そうは思うが俺には何も出来ず俯く事しか出来ない。
しばらくするとこのパーティーの主催者が入ってくる。
そして続いて小さな少女が姿を現わした。
思わず見惚れる。
白いドレスを身にまとうその姿はさながら花の妖精のようで人間の中でも群を抜いて美しい。
幼いながらも親について歩く姿は凛としていて歩みに迷いはない。
ふと此方を見たかと思うと少し驚いた顔をした後恐ろしいほど美しい微笑みを浮かべた。
俺は思わず俯いてしまう。
あのような美しい子供が俺を見て微笑む事など出来るわけがない。
男の屋敷でたまたま人間の子供にあった時なんぞは泣き叫ばれてしまった。
ありえない。
顔を上げればすでに通り過ぎていて壇上に上がるところだった。
美しい所作で挨拶をして見せた少女の名はルルノアというらしい。
人間は魔法を使えるらしいがあの少女はその中でも神の加護と呼べる力を手に入れたようだ。
神か…。
この世に神がいるとしたら何故我々のような存在を生み出したのか。
神も趣味が悪いな。
男は挨拶の順番が回ってくるとニタニタとしながらその少女の前に立つ。
少女はさして気にもしていない顔で挨拶を返している。
男はやたらと媚びるような態度で奴隷を買ってもらおうと必死に話している。
少女といえば悲しげな表情で此方をみるばかり。
泣き叫ぶのでもなくただただ悲しげな空色の瞳が此方に向けられているのも見ていると居心地が悪くなってくる。
人間の子供に悪感情はないがそれこそ貴族となれば獣人に対して悪いイメージを植え付けられている事が多い。
視線に耐えきれず俯いていればこの屋敷の主人の気に障ったらしい男は護衛につまみ出されていく。
去り際に少女が動いた気がしたが振り返る事は出来ず俺も屋敷を後にした。
また、会えるだろうか。
初めて向けられた感情に暗闇に沈んだ心が少し動いた気がしたが。
いや、もう会うことはないだろう。
生きる世界が違いすぎる。
彼女は光の世界を歩いていくのだから。




