14.未知との遭遇
すでに屋敷の大広間にはお客様が集まっていて私たちが現れるのを今か今かと待ち構えている。
正式なデビュタントではなく、あくまでも誕生祝いなので主に呼ばれているのは親類や近しいものだけである。
食事も立食形式で堅苦しいものではない。
それでも私にとっては初めて会う人達ばかりなのですごく緊張する。
お友達ができるといいな。
お父様とお母様の後ろに続いて緊張した面持ちで下僕の開けた大広間の入り口を抜ける。
ざわざわとしていた広間内がシンと静まり返る。カツンカツンと広間内を歩く音だけが響き居心地が悪い。
お父様とお母様は前を向いて凛とした姿で歩いていく。
特にお父様は先程まで泣いていた姿が想像出来ないほど頼り甲斐のある背中だ。
やだ、かっこいいお父様。
こんなイケゴリなら結婚してもいいかも…
なんて事を考えて目だけで辺りを見渡す。ゴリ、ゴリ、美女、ゴリ、ゴリ。いや、動物園やないか!!!
そして私は生きてきた中で一番と言っていいほどの衝撃をうける人を見つけてしまった。
それは!モッフモフの犬?耳のある15歳前後であろう青年である。
なにあれ…!?お顔が、お顔がゴリラじゃない!!!しかもめっちゃくちゃイケメン!スッと通った鼻に切れ長の瞳そして薄い唇。少し日に焼けた小麦色の肌は健康的で犬耳と同じ黒色の髪の毛はサラサラと絹のようだ。
久々の眼福に興奮がとまらない。
鼻血でそう。
たまらずその青年をみてにやけてしまう。
その青年もこちらを見ていたようで私のにやけた顔をみてサッと下を向いてしまった。
まずい、5歳の少女とはいえニヤニヤとしていれば気持ち悪かったかもしれない。
私は急いで顔を進行方向に戻しにやけた顔をギュッと引き締めた。
そして広間の奥の壇上にあがりお父様が話し始める。貴族的な祝辞の後ようやく私の紹介が始まる。
その間も私は先程のイケメンが気になって仕方がなかったが。
「本日は我が娘、ルルノアの為にお集まりいただき感謝致します。紹介致しましょう。」
「お初にお目にかかります。ルルノア・リンドバーグと申します。本日はわたくしの為にお集まり頂きありがとう存じます。」
今まで散々練習してきた美しいカーテシーを披露すると来客からほぅ…と感心するような声が漏れる。
マナーだけはしっかりと勉強してきたので自信がある。もっと褒めてくれても良くてよ。
「そして我が娘は本日魔受の儀においてウェルシア様よりご加護を賜っております。これからリンドバーグ家共々どうぞ宜しくお願い致します。」
ウェルシア様の加護と聞いて静かだった広間内がざわめきを取り戻す。
なんと!めでたい!と声が上がり一気に歓待モードに移行した。
そして宴が始まった。
ここからはそれぞれ家格の高い順から挨拶にやってくる。
私はありがとう存じますありがとう存じますとありがとう存じますマシーンに変身した。
しばらくそうしていると先程のイケメンを連れたでっぷりとしたホリの深すぎるおじさんがニヤニヤしながら挨拶にきた。
「お久しぶりで御座いますリンドバーグ卿、夫人。そしてお初にお目にかかりますルルノア様。私侯爵位を賜っておりますヒューバット・ドルトンと申します。どうぞお見知り置きを。」
「ありがとう存じます」
イケメンの方にしか目を向けていなかったがこのドルトン侯爵を見てあたりの貴族達はヒソヒソと顔をしかめている。
確かにこのドルトン侯爵は如何にもねっとりとしたロリコンぽいおじさんだがそんな事で面の皮が厚い貴族達が表立って嫌な顔をするとは思えない。
お父様とお母様を見上げると2人とも少し顔が強張っている。
はて?と思ったがドルトン侯爵はこの場を離れず話を続けた。
「いやはや、この様な素晴らしいご息女であらせられればこれから色々心配も御座いましょう!いやね、今ここにつれているこやつは私の領の奴隷でしてね。この様な見た目ですので愛玩としてはてんで役に立ちませんが戦闘力は中々の物なのですよ。奴隷紋がありますから主人には指一本触れられませんし顔を隠しさえすれば良い盾になりますよ!」
勝手に話出すだけでも無礼なのに子供の前で奴隷の提案だなんて非常識にも程がある!
しかも奴隷!?この世界に奴隷が存在している事すら知らなかったがこのイケメンが奴隷!?
イケメンは黙って傅いて酷く冷たい顔をしている。
そんな顔もイケメンだけどやっぱりイケメンには笑顔でいてほしいものだ…
「黙りたまえ。我が娘の生誕祭でその様な下卑た話をするなど!しかも奴隷を連れだって来るなど言語道断!今すぐおかえり願おう。」
ニヤニヤとしたドルトン侯爵の顔がサッと青ざめて強張る。
「あ、いや、私はただ5歳の祝いに贈り物をしよ「いらん!おい、誰かこの方をお送りしろ。具合がよろしくないようだからな」…うと…」
お父様がその言葉に被せるように護衛を呼びつけ両脇に抱えられるようにして出て行った。
あ…とイケメンに手を伸ばそうとしたが彼もそそくさとドルトン侯爵に続いて出て行ってしまった。
名前すら聞けなかった…。
そもそも奴隷なんて許せない。
私にとってあの人はこの世界では初めて出会ったイケメンである。
許すまじ、ドルトン侯爵!!!




