01.イケメンとゴリラは紙一重
始まりました。
自分で書いていて本当に訳がわかりません。
私は好きです、ゴリラ…
ある朝の事。
綺麗に剪定された木々に朝日が降り注ぎ、美しく飾られた花壇の花弁や葉には朝露が日を浴びて煌めきまるで宝石のように輝いている。
その横を2匹の小鳥が美しい歌声を響かせながら空を舞っている。
その小鳥たちが白くそびえ立つ屋敷の向こうへ羽ばたいていくのを、1人の幼い少女が死んだ目で見つめていた。
その少女こそこの物語の主人公、ルルノア・リンドバーグ本人である。
瞳を輝かせて、とか目を丸くして、とかではない。死んだ魚のごとく、濁りきった子供とは思えない目で美しい景色を見つめるルルノアは正にその庭においては異質な存在である。
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私は大変美しい少女である。サラサラのプラチナブランドと突き抜ける空の様な色をした大きな瞳はさながら宝石のようで、屋敷の者からは天使の様だと言われて育ってきた。
今も側に控えるメイドのジルはルルノア達を見て美しい絵画でも見ている様な顔をしている。
私はそんなジルの視線を背に感じながら横に立つゴリ…いやお父様を横目で見る。
父であるロベール・リンドバーグはガタイが良く身長はかなり高い。そして何より顔が…ゴリラであった。
いや、ゴリラそのままと言う事ではなく限りなくゴリラに近い人間であるというか人間に近いゴリラと言うべきか…その頭の美しいプラチナブランドがサラリと風に揺れるのを見て、ルルノアは自分に遺伝したのが髪の毛だけで良かったと心の底から安堵した。
そんなお父様が私を見て微笑みながら口を開く。
「ルル!今日も私のルルは天使の様に美しいね!庭園の花もルルの前では霞んでしまうよ…さぁ、美しいお嬢さん私と一緒に朝食でも如何かな?」
おどけた様にお父様は私に手を差し伸べて膝をつき私に目線を合わせてくれる。
お父様は見かけはゴリラだが本当に良い父親であり、私のことをすごく愛してくれている紳士的なゴリラなのである。
「…おとうさまー、きょうは朝からおとうさまはおしごとだってぎるばーとがいっておりましたがよいのですか?」
それを聞いてお父様はギクっとした顔をする。
「だ、大丈夫さ!愛しいルルのお顔も見れずに仕事になんて行ったら私は死んでしまう……」
だからお庭で食べようなんて言い始めたのか…ギルバートから逃げてきたのね。
ギルバートは父の執事である。目を離すとお父様が私の元へやってきて仕事をサボるので、いい歳なのにいつも走り回っていていつか脳の血管がプチっと切れてしまうのでは無いかと心配している。
「おとうさま、ルルもおとうさまとごいっしょしたいけれどぎるばーとをこまらせてはかわいそうだわ…?」
悲しい顔でウルウルと見つめれば父はウグッと小さく声をあげている。
「なんて…なんて天使なんだうちのルルは!!そうだね…ルルが言うなら仕方ない…お父様はお仕事してくるよ…ああ…愛しのルル……」
お父様が名残惜しそうに私の頭をひとなですると、見計らった様にギルバートがやってきた。私に微笑みかけ一礼した後お父様は言葉の通りギルバートに引きずられていった。
あれ…執事って…なんだっけ…。
ジルを見るとまだポーっとお父様が引きずられていった方を見つめている。
「…はぁー、本日も旦那様は凛々しくていらっしゃる…ルルノア様とお並びになられていると芸術作品のようで見惚れてしまいますわ…!」
「じる…じるってばへんなしゅみをしているのね…」
「何をおっしゃいますかお嬢様!!旦那様は社交界でも話題に上がらないことのない美男子でございましたのよ!今はその上色気まで…あぁ…私ったら今日も幸せだわ…」
お父様は紳士的だし本当に優しいので私も大好きだが、美男子であったなんて事はにわかに信じられない。
しかしジルに言わせればお父様のあのゴリラ顔は美男子の中の美男子でがっしりとした体は英雄ビリオンの像のように逞しく色気があると言う。
ちなみに英雄ビリオンとは、この世界での神話に登場する人物でイケメンの代名詞のような見た目と言われている。
私の感性とはまっったくもって合わない。
この感性の違いについて私が物心ついた頃までさかのぼって説明しよう。
ここから明らかになる…彼女の過去とは!?