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幸せで平和な世界を  作者: ナザラ
第1章  魔法少女と惑星の終止符
3/21

一話 初日1

いつもと変わった夢。

そもそも夢に規則性などないが今回のは実際にその夢を現実で体験したことがあるような感じ。

あのあと少女は蜥蜴に勝てたのだろうか。

しかし所詮は夢などでそこまで気にはせず、眠りから覚めた。


「う~ん…」


いつも通りにセットしたスマホの目覚まし機能が六時を指す。

チリチリと鳴り響くアラームで目が覚めた私は手慣れた手つきでアラームを止める。

ゆっくりと布団から体を起こして、低い天井に気をつけながらアクビ代わりに手を前に伸ばして息を吐く。


「お風呂入ろ…」


スマホを片手に木造りの二段ベットをギシギシ音を発てながら降りていき、花柄のカーペットに両足を下ろす。

そしていつも目に映る誰もいない一段目のベット。

使った形跡はあるがいつ使ってるのか分からない。


「兄さん…今日もいない」


小さく独り言を呟いた私はそのまま風呂に向かう。

そこまで広くない部屋はトイレと風呂が一つずつ、後は五畳の寝室が一つあるくらいだ。

寝室の扉を開けると短い廊下に左右に一つずつ扉がある。

その一つが風呂場だ。


「ーはぁ…眠い」


洗面所で寝間着を脱ぎ捨て風呂場にいく。

風呂場と言ってもシャワーが一つ有るだけの云わばシャワールームといったところだ。

全身に熱い水を浴びること八分、髪や体、顔を洗い風呂場から出る。


体を良く拭き、髪を整える為鏡の前に立つ。

引き締まった体に四つに割れた腹筋、ロングの黒髪と少し目付きが悪い黒い瞳が鏡に映る。

胸は小さいので触れないでおく。

ブォァァ!とドライヤーの熱気の風が髪を激しく揺らす。

曇る鏡を手で拭きながら髪を整えていくが、毎度映ってしまう目付きの悪い黒の瞳はどうも嫌いだ。

これのせいで生活面で苦労したことを思い出す。

どのように苦労したのかは追々話すとしよう。


「ふぅ…すっきりした」


髪を整え終わった私はすぐに私服に着替える。

下は茶色の短パンに上は白シャツに灰色のパーカーと少し変な格好だが私は気に入っている。

ちなみに短パンの生地は布というより皮に近い感じ。

なので一応ベルトも着けることが出来るが必要が無いため着けてはいない。


そして最後にポケットにスマホとヘッドホンを首に着けて私服に着替え終わる。


「それじゃ行ってきます」


玄関で靴を履いて誰もいない部屋に向けて言葉を発する。

もちろんその後の何か返事が返ってくるわけでもないのでそのまま扉を開けて外に出る。


外は長い廊下となっていて一定感覚で壁に花束が飾られている。

地面には赤いカーペットが置かれており、周りは全て木製で出来ている。

幅三メートルの廊下を照らすのは天井につけられたライト。

チューリップの形をした透明のガラスに電球が入った簡易的な物だ。

しかしながら一つの電球で大きな範囲を照らすことが出来るので廊下はとても明るい。


少し歩くと一際でかい扉が見えてくる。

ちょうど花束と花束の間に収まっている扉は木製の紋様の入った綺麗な両手扉だ。


「少し遅れた、また怒られるのか」


扉に手をかけた私はため息を一つ吐いた。

実は友達と約束していた時間に五分遅れているのだ。

私からしてみれば五分なんて誤差程度にしか思わないがこれから会う友達はしっかりしていて少しでも遅れるとすぐ怒るのだ。


「まぁいつものことか」


そんなことをねちねちと考えても仕方ないと両手扉をゆっくりと開けた。


恐らくこのあとの光景を初めて見た人は声を失うほど驚くだろう。

実際私も最初は驚いた。

まず地面が鉄の道に変わる。

一歩足を踏み出せばカンと高い音が響く。

すぐ目の前には手すりが付いており、細く長い道がずっと続いている。


そして一番驚くのはこの光景だろう。

手すりの先は幅百メートル以上ある道。

ダイダン通りという名前で飛行船や自動車、その他武器の輸送や人の行き来など何でも通れるという意味らしい。


天井はさらに大きく五百メートルはある。

それゆえ灯りは万と越える外灯が鉄の壁に設置されていて二十四時間照らし続けている。

壁を上がるように光る緑の線はエネルギーが壁の各部を走ってると聞いたことがあるが私にはよくわからない。


「いつ見てもここはすごいな」


三十メートルの高さから見るダイダン通りはいつ見ても迫力があり、ゴツい乗り物や変なロボット、巨大な空中戦艦などが毎日見れる。

いつか私も乗ってみたいとそんなことを思ってる。


「ちょっと黒江!、遅いじゃないの‼️」


ダイダン通りに向いていた目を通路に向けると腰に手を当ててぷりぷりと怒っている女子が私を睨み付けていた。

そう彼女がさっき言っていた怒る人である。


アンリー・テルシカチュラ、彼女の名前である。

皆からはアンリと呼ばれている。

グリーンの瞳にピンクのふわふわロングが特徴の美人。

その辺の雑誌に載ってそうな可愛さである。


「ごめんなさい、次は気を付けるから」


「そう?、ならいいわ次から気を付けなさいよね」


大抵謝っとけば許してくれるのでつい甘えてしまう。

ちなみにこのやり取りは百回は越えている。


「それじゃ行きましょ、時間も押してるし」


カンカンと鉄の道を歩いていくアンリの後をダイダン通りを見ながら付いていく。

鉄の道の幅は一メートルくらいで並んで歩くと前から来る人とぶつかってしまうためどちらか一方向に歩くのがルールだ。

ついでに言うと手すりは高さ一メートル半しかないので下手をすれば三十メートルから落ちます。


「っていうかどこ行くの?」


「どこって工房に決まってるでしょ!昨日武器を整備に出したじゃない!」


まったくと少し怒り気味のアンリをからかった所で彼女の服装を見てみる。

これでも一応女子なので他の子がどんな服を着てるのか気になるのだ。

私は別にこの服装を変えはしないけど…。


まずは上から短い丈のジャケットに可愛い熊が付いたシャツ。

可愛い熊と言ったが彼女の大きな胸で熊の顔が変な形になっている。

ちなみにDカップだ。羨ましい…。


次に下は薄オレンジ色のバミューダパンツを着用し、靴は普通の運動靴を履いている。

そもそも靴は皆動きやすい物と決まっている。

私も運動靴だ。


そのあとは特にすることもなくアンリの話をただ聞いていた。

そして下に降りる階段を下りてダイダン通りを少し歩くと見上げるほどの大きな通路が出てきていた。


階段側にあるこの大きな通路はダイダン通りの途中にあり、幅五十メートル高さ八十メートルもある巨大な穴のようなデカさ。

その通路の中央を行くのは空中艦や陸戦艦など巨大な乗り物ばかりだ。

通路を照らすのは壁や天井にぶら下げられた光源。

電球が裸の状態で付いている雑さや古さは何となく工房感を醸し出している。


「さぁ行きましょ」


でかい胸を揺さぶりながら彼女は左端にある通路へと向かっていく。

この通路での私達が通る道は端だ。

先程も言ったが中央は大きな乗り物が通るため必然と人は端になってしまう。

左右の端に人が通れるスペースがあり、そこからこの先にある工房へと行く。

そして左端から行き右端から帰るというのがこの通路のルールだ。

これを破るととても怒られる。

アンリも何回も怒られている。


「見てアンリ、あれ空中艦[風丸]だ」


「えぇ、風丸は遠くの場所まで行くのによく使われているわね」


「うん、しかも機関銃にミサイル搭載、魔法砲台も付いてるから空にいるGA(ガイアント)も倒せる」


私達の前を通りすぎていく巨大な戦艦。

鋼の硬度と漆黒の外皮を持つ戦艦の中でトップクラスの速さを持つのがこの[風丸]。

風を切り裂く音は疾風の如くのスピードで空を飛び、例え目の前が台風であろうとも難なく通ることのできる性能。

まさしく空の王者、スピードだけなら右に出るものはいない。


さらにそれを支える多種多様な武器。

陸にいるGAはもちろんのこと、空にいるGAも倒すことのできる優れもの。

例えばロングストロングと呼ばれているマシンガンは一秒間の間に三百という弾丸を放ち、相手を粉砕する。

その他にも色々あるがとにかくすごいというのは分かっただろう。


「ちょっと黒江、よだれ垂れてるわよ」


「あ…ごめん」


じゅるりと袖で口に付いたよだれを拭き取りながらも次々に来る戦艦に目を輝かせる。

これにはアンリも呆れた顔を見せた。

しかしそんなことは気にせず戦艦を見ているといつの間にか工房の入り口までに迫っていた。


「もうすぐ着くわよ」


「うんわかった」


返事だけはして体は戦艦に目は輝かせて鼻息は少し荒く、これで本当にわかっているのか心配になってきた。


「黒江!、この先段差があるんだから目をそらしていると……ってうわぁ!?」


「えっ…」


突如視界の端から姿を消したアンリは尻餅をついていた。

目の前にあった高さ三十センチの段差につまずいて転んだのだろう。

自分で注意するようにと言っておきながら転ぶとは恥ずかしいな。


「うぅ…私が転ぶなんて」


涙目になりながら顔を赤くするしぐさに鼻で笑いそうになったが流石にそれはないと思ったので完璧なる上から目線で以下の言葉を述べてやった。


「大丈夫?…段差には気を付けないと駄目だよ?」


他人から見たら労いの言葉だがアンリにとって私の言葉はバカにしているのと同義であった。

というのもアンリから見た私は無表情で上から目線で手を差し伸ばすこともなくただ見ているだけなのだからバカにされてると思われても無理はない。

実際バカにしてるけど。


「バカにしてぇぇ…」


ぷるぷると体を振るわせて怒り奮闘かと思えば尻を叩きながら立ち上がる。

いつものだったら飛びかかって来そうだが今回は相当恥ずかしかったのかそれだけを言ってそとくさと工房へ入っていく。

やり過ぎたかとどんどん離れていくアンリの背中を見ながら私も後を追った。


「待って…私だけだと迷う」


「知らない!」


工房入り口付近まで響く声で怒りの声を聞かされた私はガンガンと地面に強く足を踏み込みながら歩くアンリの横まで近づき、「ごめん」と手を合わせて連発する。

しかし今回は相当怒っていたらしく顔まで真っ赤にしてプンプンだったため許してもらうまで一分と時間がかかってしまった。


ちなみに私達の後ろに人がいなかったため尻餅シーンを見たのは私だけである。




工房の中はとても広く何種類かの空間が存在する。

工房入り口にあるのは陸戦艦や空中艦などのメンテや修理などを行う場所。

この場所が一番広く、戦艦十隻は余裕で入るスペースがある。

その空間の左右にはまた別の空間へと続く道がある。


一つは小型武器の修理場、もう一つは大型武器の修理場がある。

今回私達が向かうのは小型武器の修理場だ。

前のGAとの戦闘で傷が付いてしまった武器を修理してもらっていたのだ。


「ほら黒江、早く行くわよ」


急かすようにアンリは私の方を向きながら少し早く歩く。

目的地には待ち合わせしていた友達の二人がすでに着いているので急ぐのは当たり前のことだが、私はどうしても辺りを見渡してしまう。


「兄さん…」


私の兄さんはここの工房で働いている。

毎日早く起きて遅くに帰る。

一言で言えばブラック企業というやつだ。

しかしそうしないと武器の修理が間に合わないと言うのが今の現状。

毎日GAに壊された武器や戦艦等を早くそれでいて完璧に治す作業を繰り返し行っている。

工房には約千人もの働く人がいるがそれでも足りない。

さらに言えば兄さんは千人者を指示する副工房管理官という地位にいるため通常作業の数倍は疲れるのだ。


「兄さんのことが気になるのは分かりますけど、そんなしんみりした顔では任務に支障が出ますわよ?」


「ごめん…」


顔に出ていたのかそれに気づいたアンリは少し先に行っていた体を私のところまで戻って同じ歩幅で歩いてくれた。

アンリの言葉は正しい、今の状態では何かをしようにも失敗するだろう。

私がへましたら仲間が危険な状態になってしまう恐れがある。

それを察して声をかけたのだろう。

これに関しては謝罪しか出なかった。


「今は任務に集中しないと」


自分にそう言い聞かせると歩く速さを上げて仲間が待つ目的地に足を動かした。












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