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幸せで平和な世界を  作者: ナザラ
第1章  魔法少女と惑星の終止符
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十八話 プルシュガーの討伐9

「やっぱり相当デカイね」


第九倉庫、そこは電力を蓄える所だった。

作りは単純で弾丸状の機器が地面に固定されている太いケーブルと繋がっている。 

このケーブルは他の倉庫の電力に繋がり、電気を操っている。

その証拠に弾丸状の機器、つまりはここの電力を操る司令塔の大きさは二十メートルはあった。


今まではの話だが。


「オォォォォォォォォ……」


シルビィのその目線は司令塔の大きさにではなく、それをほとんど呑み込んでいる巨体なプルシュガーに向いていた。

司令塔を呑み込んでいるプルシュガーの大きさは二十メートルを越えており、その侵食はケーブルを通って第九倉庫全体までに広がっている。


「なかなか手が掛かりそうだよ」


火炎放射機を握り締めるシルビィは額から出る汗を拭いだ。

そして銃口をプルシュガーに向けて火炎を放った。






「うぐっ!?」


後方の壁に激突する。

体内に入っていた酸素が全部外に吐き出され、咳き込む。

頭から血が流れてくらくらする。脳震盪を起こしている。

上手く立ち上がれない。


生まれたての小鹿のように足をふらつかせながらスナイパーを杖がわりにして、なんとか立ち上がる。


「あははは、立った立ったぁ!!」


嬉しそうに手拍子しながら笑う感染者は乙女心全開の表情を見せてくる。前世が女だっただけあって行動がいちいち女っぽくて気持ちが悪い。


「嬉しそうにしてぇ…!」


大きな口を開いて笑うその口内にダンッ!とライフル弾を一発お見舞い。外側が堅いなら内側は柔らかいと油断している感染者に決めてやった。


巨体は震わせていた体を止める。笑い声も止まり、一瞬の静寂が訪れた。立ったまま一切行動しなくなり死んだかと思った。


「いた~~い!?いた~~い!?いた~~い!?」


口から血を吐き出し、血濡れた唇を見せながら不適な笑みを向けてくる感染者は眼球をギョロつかせながら迫ってくる。


「に、逃げないと…!」


ドスンドスンと大きな足音が全身を震わせ、危機が迫っているのを知らせる。が、体が思うように動かず倒れそうになる。

シルビィが第九倉庫に行って五分が経過している。その間に全身打撲に頭から出血、腹部骨折などダメージを相当おっている。


「えへへっ!」


足音が止まり、不気味な笑い声が耳に聞こえてくる。心音が止まりそうになるほどの嫌悪感、憎悪を感じて横を向くと汚い歯並びを見せて拳を振り上げる感染者の姿があった。

グロテスクな右手が天にかざされて、ピタリと止まったかと思うと次には勢い良く振り落とされる。


「このっ!」


血を噴き出しながら迫り来る右手が来る前にスナイパーを横に向けて発射。その反動で体が少し動いて漆黒の物体の餌食になるのは免れた。

しかし、スナイパーには当たってしまい銃口が粉々になる。

私がいたところには小さなクレーターとボロボロになった銃口が無惨にあった。

もし今のをくらっていたらと思うと寒気がする。


「でも、次の攻撃は…」


そう小さく呟くのと同時に振り落とされていた右手がゆっくりと持ち上げられて、ぐるりと顔を下に向けた。


互いの目が合う。


スナイパーを失った今では攻撃を避ける術はなく今にも気を失いそうになりながらも意識を保つのがやっとだ。

そんな満身創痍の私を感染者は笑いながら見下ろす。ここで、一振り拳を下ろされれば死んでしまう。


「……遊ぼ?」


「は?」


アイツは今なんて言ったのか。理解するまでに時間を要したが私を殺す動作をせず地面に広がっている髪の毛を掴んだことにより、言葉の意味がわかった。


遊びながら殺す気だ。


「っ、あっあぁぁぁぁぁ……!!??」


そう思った時には髪を引っ張られて私の体は宙に浮いていた。

自分の体重で頭皮に痛みが発せられて無闇に動くとさらに痛さは倍増する。痛さのあまり声を出してしまう。それを見て笑う感染者。


何とか抜け出そうと髪に手を伸ばした時、視界が揺れた。

まるで高速で動く乗り物に乗ってるみたいに景色が何重にも見えて、そして飛ばされた。

ハンマー投げのようにぐるぐると私を回して投げ飛ばす。ただのボールとしか思っていない素振りの感染者は投げたボールを取りに来るように駆け足で近寄ってくる。


「がはっ!?ゲホッ!」


思いっきり背中を強打した私は口から血を吐いて倒れこむ。

投げ飛ばされた方向は第七倉庫方面、通路側の壁に激突してクレーターが出来る。それにより破片となった壁と共に地面に力なく倒れる。


頭から血を流して過呼吸状態、視界が定まらず指一本と動かせない。

黒江に誉めてもらったことがあるふわふわのピンクの髪もぐしゃぐしゃに汚され、千切られてしまっている。


「痛いよ……」


口から漏れた弱音は心に響き渡り、涙を流す。

大粒の涙が頬を伝って地面に落ちる。しゃくり上げながら何度も涙を落とすその度に体に力が入らなくなっていく。

顔は傷でボロボロ、呼吸するだけでも器官が痛くなる。着ている洋服も生地が破けて見る影もない。

今、自分の体がどんな状況に置かれてるのか解りはしないが。


「痛い…死ぬ……けど、シルビィが頑張っているのだから…!」


駆け寄ってくる漆黒の巨大はもうすぐそこまで来ている。視界がぼやけてあまり良く見えないが地面を足で踏むときの振動でだいたいわかった。


心身ともにとっくに限界は越えているが、それでもシルビィがプルシュガーと戦っているのだから。千香が黒江の命を少しでも伸ばしてくれてるのだから。

私だってこいつの足止めをしなくてはいけない。

そういう使命感に駆られていた。


気付けば右手が腰に巻いてあるハンドガンに向かっていた。もう左手と両足は折れて動けないが、奇跡的に利き腕である右手だけは平気だった。


「痛そう、痛そう、大丈夫?…あはははははっ」


その巨体は腰を下ろして私を見下ろしてくる。ニコニコ笑いながら玩具を見る目付きで眺めるその態度はもはや敵意はなく、ただの遊び道具としか思われてない。


そして私の目にそれは写り込んだ。その手には私のピンクの髪を持っていた。黒江にしか触らせたことのない大事な髪。

それを見ながら私は腰に巻いてあるハンドガンを掴んだ。


「な…に…笑ってるのよ、この黒豚。私の髪をむしり取っておいて…醜い顔を向けないでくれる?吐き気がするから!」


感染者に向けて悪態を吐き出した私は右手に持ったハンドガンを前に構えて全弾打ち込んだ。

八発もの銃声が第八倉庫に響き渡り、辺りは一瞬の静寂を見せる。


「豚……私が豚?………ガァァァァァァァァ!!」


弾丸を顔面に受けるがそれを気にする素振りはなく、むしろ豚発言に怒りを浸透させる感染者は天井に向かって雄叫びを上げた。


「どうしたの?本当のこと言われて怒っちゃった?そんなに嫌なら顔面整形すればいいじゃない?」


言葉が理解できる相手だからこその挑発的言葉はその巨体を怒りで震わせることに成功する。

やられっぱなしは私の性分に合わないと言葉責めをくらわせる。


「どう…これでお相子にしてあげるのだから優しいでしょ?」


身体を傷だらけにされて髪まで千切られたお返しが罵倒だけと何とも釣りに合わない仕返しだが、肉体の硬さ的にダメージを与えられないから仕方ない。


「ヴァァァァァァ!!殺してやる!殺してやる!!殺してやる!!!」


だが、相手は同等どころか自分の方がよっぽど被害に遭ったような感じで身体中をその大きい両手でむしりかいて怒り狂っている。何とも自分勝手な奴だろうと私は鼻で笑ってしまう。


「ヴァァン!?へし折ってやる!」


その直後、かくのを止めた感染者は私を睨み付けながら右手を掴むと思いっきり握りしめた。


「っあぁぁぁぁぁ!?」


骨が砕ける音と共に感覚が消え失せる右手は漆黒の手によって原型を無くしている。実際に見えた訳ではないが、何となく腕から手にかけてまともに繋がってる感触が無いのだ。


よほどの痛さに悲鳴を上げるが感染者は笑う素振りを見せずにそのまま私ごと腕を上げる。二メートル位持ち上がった身体は全身の痛みから抵抗することが出来ず、そのまま振り落とされる。


体重45キロの重さが時速120キロのスピードで落ちるとどうなるか分かるだろうか。それは破裂音とともに地面には大きなクレーターが出来て落ちてきた者は重症を負うということだ。


うつ伏せで倒れている彼女の姿は醜いものとなった。

全身複雑骨折の臓器損傷、出血など一般の人なら死んでしまう攻撃をこれだけのダメージで耐えたのは魔法使い故の頑丈差なのか解らないが、今のところアンリが動く気配はない。


「貴方の顔も醜くして上げるわ!」


そうして伸ばされていく手はアンリを破壊せんと近付いていった。

怒りに染まった顔は鬼の形相、いや悪魔か。

定かではないが次の一撃で死ぬだろうと感染者の指先がアンリの後頭部に触れた。

 

「えっ?」


そしてそれは腕ごとぶっ飛んだ。

感染者の目に写っているのは壊そうと伸ばした左腕の断面とそこから溢れでる血だ。

目玉を丸くして何が起こったのか理解できずにいると、


「よくも私の友達を…」


その声に感染者は顔を向ける。

そこにはヘッドホンを首にかけ、パーカーを身に纏い、愛刀[雷鳥]を握りしめる黒江の姿があった。


















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