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幸せで平和な世界を  作者: ナザラ
第1章  魔法少女と惑星の終止符
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十二話 プルシュガーの討伐3

現在地第二倉庫中盤、半分くらい過ぎた所だろうか。

私達は並列に並んでいるタンクの隙間に身体を入れて隠れている。


「結構数が多い」


長さ約百メートルはある第二倉庫だが幅は十メートルちょいとしかない。

そして曲がり角など一切なく直進の道、そこに並列に並ぶ人の四倍はあるタンク。

そのタンク込みで十メートルちょいだから実際はもう少し幅はあると思う。


「アァァァァ…!」


そんな中で八体もの感染者と遭遇してしまった。

それぞれ聴覚もしくは視覚がある、または両方といった様々な感じだ。


「これを一撃で全員倒すの無理じゃない?」


「タンクの上を行くとなっても音を立てるし」


隙間と言っても互いに向き合いながら座れるスペースはあるため窮屈ではないがそれでも息苦しいのはある。

暑くもなってくるし、速くこの場所から出たい衝動に襲われる。


「はぁ……油断して咳をしたのが不味かった。ごめんアンリ」


「そうよ…まぁ別にいいけど」


実は私が巨大な咳をしてしまい、それに反応した感染者達が集まってきたのだ。

アンリは許してくれてるが恐らく理由はあれだろう。

ピンクの髪の毛クルクルしてこちらに目線合わせないし。


「そ、そうだわ…火炎放射機使えない?」


軽くポンと手を叩いたアンリは名案を思い付いたように言うが、


「タンクの中がどんな状態か分からない以上無闇に炎なんて撃てない」


論外である。

もし撃って爆発したらそれこそ私達の死である。

だからといって良い案が見つかる訳でもないので最終手段を使う。


「これあんまり使いたくないけど…」


気乗りしないが仕方ないとやる気なさげに立ち上がる私はそっと道に出る。


「アンリはそこにいて」


「う、うん」


急な行動に戸惑っていたのでとりあえず邪魔にならないようにそこ場にいてもらう。

何せ苦手な遠距離魔法を使うのだから。

何をするのかわからないアンリはおどおどとしている中で私は瞼をそっと閉じて深く息を吐く。


「アァァァァ!!」


視覚のある感染者は当然、私の存在に気付いて襲いかかってくる。


「黒江!?」


最初のうなり声を筆頭に周りにいた感染者も黒江の存在に気付いたかと思えばそのボロボロの身体からは考えられない走りを見せる。

以外にも速いその足は五十メートルを7秒で走りきる程と言われており、黒江と感染者の距離は一瞬のうちに埋められてしまう。


危険を感じたアンリはすぐに黒江の所へ駆け寄ろうとしたが、次にはその足は止まっていた。


「くらえ」


その言葉と同時に八個の透明な氷柱が黒江の周りを浮くように現れたかと思えば迫り来る感染者に一斉速射される。

風を切る音を直に感じ、目の前を瞬きした一瞬で過ぎさる氷柱は感染者の額に見事に撃ち込む。


声を上げることなくその場で倒れる感染者達は痙攣を起こした後、完全にその身体を動かさなくなった。


「ふぅ…終わった」


敵の殲滅を確認した私は少しの疲労と脱力感に襲われる。

額に一粒の汗が流れるのを感じ、思った以上に魔力を消耗したのかと袖で額の汗を拭おうとした。


「すごいね黒江は」


と言いながらハンカチで汗を拭くアンリの顔は微笑みながらも少し寂しそうだった。

拭い終わったハンカチをポケットにしまうと突如私の胸をもにゅと揉んできた。


「んっ!?」


急な出来事に赤面しただけではなく変な声も漏らしてしまった。

胸を触られる感触はなんだか不思議な感じになり、身体が硬直してしまう。

そんな私を見て何故か少し恥ずかしそうにするアンリは手を離して二、三歩バックステップを踏んでから指をこちらに指す。


「今のはシャワー室でのお返しなんだからね!」


ぷるぷる震える身体から聞こえる声は何とも可愛らしく、そしてツンデレ感を出してくれる。

顔をこちらに向けてはくれないが頬は赤く染まっている。

シャワー室でのお返し、なるほどこのタイミングでするかと思いながらも胸揉みの件はこれで無しとなった訳だ。


「なら、許すよ。でも次からはきちんと許可をとって」


「許可をとったら揉ませてくれるの!?」


ぐるんと勢いよく向いた顔は野うさぎを狙う獣の如く興奮しきった顔をしていた。

涎を垂らして息を荒げ、瞳を見開きながら両手を伸ばしてくるアンリに顔を引きずるほかない。


「…嘘だよ」


見るに絶えない姿は私の脳裏に残り続けるだろうと迫り来るアンリを避けざま後頭部にチョップを決めて第四倉庫に向かう。

コツンと頭に一撃が入り正気に戻ったアンリは今までの出来事を思いだし恥ずかしさに涙を浮かべそうになりながら遠ざかっていく黒江に駆け足で追い付く。


「待って黒江!、冗談だからねさっきのは!?」


「アンリ…分かったから静かにして」


後ろから大声で弁明してくるので少しめんどくさそうな声のトーンで言うとすぐに静かになった。

しかし、期待させてしまったのは元々私なので後で少しは何かして上げようと思った。

エロは無しで。


「…ねぇ黒江、もう変なことしないからお願いがあるの」


なんて思ってたら落ち着いた声でアンリが話しかけてきた。

二人の距離が一定になり、間をわざと開けている感じをただよわせるがあえて気にせず「何?」と言う。


先程の慌てぶった雰囲気は消えて元々話そうとしていた事を思い出したかのようにその唇が開いた。


「もう一人でやろうとしないで……するにしても一言声をかけて…心配するから」


急にきた真面目話に後ろを振り向くと、エヘヘと作り笑顔をしているアンリはその場で立ち止まって両手をもじもじさせていた。

一定の距離感の理由はこれかと察して私は静かにその場で足を止める。


「黒江が強いのはわかってるけど、それでも死んじゃうかも知れないから」


その言葉は私の心を強く締め付けた。

心当たりがあるからだと気づくのに時間はかかったが。


それはアンリの実態件だろうか。

それともこれから起きてしまうかも知れないという不安だろうか。

どちらにしても隠しきれていない悲しそうな顔を見て何も言わない馬鹿ではない。


「うん、次からそうするよ。パーティーだもんね」


その時のアンリの顔は喜びだっただろうか、驚きだっただろうか、私には分からない。

ただその顔が安心しているのは分かる。

良かった、とそんな事も言っていた気がする。


でもごめんね…それは無理だよ。


心の中でそう思いながら私は歩き始める。

後ろからついてくる足音が聞こえ、なんだが申し訳ない気持ちになる。

そんなもやもやする気持ちを胸に抑えながら第四倉庫に移動した。



















 












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