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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
最終章 
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Ep.7 To be continued....④

 翌日の午前中。俺と桜は試験の自己採点をするために、いつもの大学図書館に来ていた。もちろん瑠美も一緒だ。



「はぁ……。昨日の夜にやっちゃおうと思ってたんだけど、答えを見るのが怖くてできなかったんだよぉ」



 今日何度目かも分からないため息をつきながら、桜はスマホの画面をじーっとにらんでいる。そこに開かれているのは、予備校が発表した解答速報のページだ。



「俺は、昨日帰って夕飯食べたらすぐ寝たからなぁ。なんか久々にゆっくり寝れた気がする」

「あ、それ私もだよ! 今日は寝起きばっちり!」

「試験が終わったからかなぁ。ってことは、また私大の試験前は寝不足になんのかなぁ」

「えぇ……それはヤダなぁ」



 俺と桜がそんな話をしていると、隣で口を閉じたままだった瑠美がコホンと咳払いをした。



「お二人とも、早く採点しちゃいましょう。後回しにしても点数は変わりませんよ」

「「……ハイ」」



 俺と桜の思考はすっかり瑠美にはお見通しだったようだ。観念した俺たちは、それぞれ自分のスマートフォンでセンター試験の解答速報をダウンロードし、昨日使った問題用紙と一緒に机の上に並べた。



「……ふぅ」



 軽く息を吐き、瑠美の方へ視線を送る。瑠美は力強く頷き、自分の筆箱から赤色のボールペンを取り出し俺に差し出してこう言った。



「じゃあ、先輩」

「ああ。分かってる」



 俺も強く頷き返すと、ボールペンを片手に問題用紙を開き、机上に置かれたスマートフォンと自分の答案を見比べ始めた。



___________



「「「…………」」」



 三人分の沈黙が場を満たしている。その原因は明白。机の上に並べられた自己採点の結果表に他ならない。



「悠馬先輩、桜先輩……念のため確認しますよ?」



 恐る恐る、といった様子で瑠美が言った。



「マークミスとか、してないですよね?」

「ああ。瑠美が口酸っぱく言ってたからな。見直しの時間に何度も確認したぞ」

「自己採点のミス、でもないですよね?」

「うん。ちゃんと2回は確認したよ。解答速報も、別の予備校が出してたの使ったし」



 俺たちの答えを聞いた瑠美は、うつむいてぷるぷると震えていたかと思ったら、砲弾のようにガバッと飛び込んできた。──俺の方をめがけて。



「お、おい瑠美⁉」

「ちょっと瑠美ちゃん⁉ 抜け駆けは禁止‼」



 桜は若干違う理由で慌てているように見えたが、そんな場合ではないので放置。俺の胸のあたりにコアラのように抱き着いてきた瑠美をどう引きがそうか、とたじたじしていると、



「よ、よかったぁ……ほんとに、ほんとによかったぁ…………!」



 瑠美の嗚咽交じりのささやきが聞こえてきて、思わず手が止まる。桜と顔を見合わせて、互いに苦笑交じりの表情で肩をすくめた。



「……ありがとな、瑠美」

「……?」

「世界史の時間にさ。ど忘れしまって、どうしても一問分からない問題があったんだ。でも、瑠美との会話を覚えていたから、ギリギリのとこで思い出すことができて。結果がこの点数だ」



 俺は自己採点の結果を指で示す。そこに書かれていたのは、三ケタの点数──つまり、百点だった。模試で九十点代を取ったことはあったが、満点は初めてだった。



「私もだよ、瑠美ちゃん。ううん、悠馬くんにもかな。英語がニガテで、長文なんて半分の点数も取れてなかったのに……ほら」



 そう言いながら、桜は自己採点表の英語の欄を指し示す。そこには、綺麗な筆跡で182と数字が書かれていた。



 そう。俺と桜のセンター試験の結果は、言ってしまえば上々だった。



 俺は世界史がまさかの満点。英語は文法問題に苦戦したものの、なんとか186点と9割を死守することに成功した。国語は古典が難しかったため142点だったが、これでも周囲よりはだいぶ高い。



 桜の方も、世界史が92点。英語が182点。国語は157点と大健闘。というより、合計点で見れば俺よりも上だ。



 ただ、不思議と負けて悔しいという気持ちは浮かんでこなかった。反省すべき点はいくつもあるが、自分の実力を出し切ることが出来たという実感があるからだろう。



「るーみーちゃーん? いつまでもくっついてるのかな? かな?」

「……発音問題で間違えてた桜先輩は、その辺で音読でもしてたらどうです?」

「あー! 言ったなー! でも長文はほとんど満点だったもん!」



 瑠美は俺から顔を話すと、なぜか桜を煽り始めていた。桜は桜で大人げなく(?)反応してるし。なんなのもう。



 ため息をつきながらスマホを見ると、ホーム画面に表示されていた日付が目に飛び込んできた。1月もあと十日ほどで終わり、2月に入ったら怒涛の私立大学受験シーズンの到来だ。



「(あと、一か月か。あっという間だったな)」



 長かったようで短くも感じた一年が、もうすぐ終わろうとしている。未だにぎゃーぎゃーと言い争っている二人を尻目に見ながら、俺は来るべく次の闘いに向けて想いをせていた。


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