Ep.7 To be continued....②
「お、お邪魔します……!」
瑠美がやってきたのは、ちょうど正午だった。
「おう、いらっしゃい。あと、明けましておめでとう」
「あ、明けましておめでとうございます! 今年も、その、よろしくお願いいたします」
玄関で、厚手のダッフルコートを苦労して脱いでいる瑠美と新年の挨拶を交わしていると、俺の後ろから汐音がひょこっと顔を覗かせた。
「兄さん、その方が?」
「ああ、汐音は会うの初めてだったか。瑠美、こいつは妹の汐音」
汐音のことを、簡単に瑠美に紹介する。どうも、と汐音が会釈をすると、なぜだか瑠美は表情を輝かせた。
「は、はじめまして! 音羽瑠美と申します! 悠馬先輩からお噂はかねがにぇっ」
「は、はぁ……」
勢い余ったのか、舌を思いっきり噛んだらしい瑠美は苦悶で表情を歪めた。そんな瑠美を汐音は何とも言えない表情で窺っている。
空気が居たたまれない感じになってしまったので、俺の方から助け舟を出す。
「お、おい瑠美。大丈夫か?」
「うぅ。は、はい。すみません、お見苦しいところをお見せしてしまい……」
「あの、お水持ってきたのでよろしければ」
汐音が台所で注いできた水を受け取り、コクコクと飲み干す。ようやく落ち着いたらしい瑠美は、恥ずかしそうに身を縮こまらせた。
「すみません。お水、ありがとうございました」
「いえ、それくらい全然……」
「本当に助かりました。それにしても……悠馬先輩いいなぁ。こんな可愛らしい妹さんがいらっしゃるなんて」
ほぅ、とコップを両手に持ったままため息をつく瑠美。
「そうか? 瑠美は一人っ子だっけ」
「そうですよ。なので、昔から兄弟か姉妹がいたらいいなぁって思ってたんです」
「んー。実際にいると色々めんどくさいことも多いけどなぁ。さっきだってコイツ、人の金でどれだけ飲み食いし痛てててててててっ! おい痛いってやめてくれ汐音!」
「ふんっ。兄さんのバカ」
つねられた頬をさすっている俺を尻目に、汐音と瑠美は二人だけで和気あいあいと談笑している。出会ってまだ10分も経っていないが、どうやら性格の相性は良かったようだ。
「あ、悠馬先輩。そろそろ模試の方始めましょうか。ちゃんと本番通りの制限時間でやるんですよ。早く終わってもスマホとかいじっちゃダメですからね!」
「そういえば兄さん。朝の残りのくりきんとんと煮豚、瑠美さんに出してあげてもいいですよね? まだお昼ご飯食べてないそうなので。それと、勉強するんだったらリビングの机の上片付けといてください。瑠美さん、じゃあ私の部屋で……」
「うん、任せて! 三平方の定理の問題は、何回もやってたらその内問題の癖が分かってくるから、一緒に頑張ろ!」
すっかり打ち解けた様子の女性陣に置いて行かれ、俺はぽかんと玄関で一人立ち尽くす。
「…………始めるか」
微妙な疎外感と一抹の寂しさを感じつつ、俺はリビングの机に向かってとぼとぼと足を進めた。
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そこからは、怒涛の二週間だった。
毎日ひたすら予想問題や予備校のマーク模試の過去問を解き、間違えた箇所を徹底に復習する。合間を縫って私大の対策も進めようとしたが、世界史以外の科目はセンター試験の勉強だけで手いっぱいで、ほとんど手をつけることができなかった。
学校では新学期が始まったが、どの教科の授業でも直近に迫ったセンター試験の対策ばかり。休み時間にハルトや桜と話すことで多少の息抜きは出来ていたが、毎日のようにセンター試験のことを考えていると、気がおかしくなりそうだった。
そして――俺はあまりにも自然に、その日を迎えた。
ちょっと短めですが、キリもよいのでここで。
いよいよ悠馬君の入試が始まります。年内の完結を目指して頑張って参りますので、どうぞ最後までお付き合いください




