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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
最終章 
66/72

Ep.7 To be continued....

最終章です


「うぅ……さみぃ……コタツにもぐりてぇ」

「もう、初詣に行きたいって言いだしたの、兄さんですよ? 私は家でのんびりしてる方がいいと思うってあれほど言ったのに」

「入試が直前になると、神様にもすがりたくなるんだよなぁ……。っていうか汐音、俺が屋台でなんか奢るぞって言ったら、嬉しそうに準備してなかったか?」

「き、気のせいです! 人のことを食いしん坊みたいに言うのはやめてください」



 そう言うと、汐音はぷいっとそっぽを向いた。ただ、やはり辺り一面に広がる食べ物のにおいには逆らえないらしく、時おり屋台の方を覗いては物欲しそうな顔で眺めている。



 一月一日、元旦。俺と汐音は最寄り駅から三つほど離れたところにある、比較的大きな神社に来ていた。まだ朝七時だというのに、参道は人でごった返している。



「それにしても、兄さんと初詣なんて、なんだか久しぶりですね」

「そうだな。中学生になってから、年始でも普通に友達と遊んでることが多かったからなぁ。父さんと母さん、爺ちゃん家の方で行ってんのかな」

「どうでしょう。二人とも、朝は強い方ではないですし……まだ寝ているかもしれませんね」



 今、両親は家に居ない。年末に母方の祖父が体調を崩したため、急きょ帰省することにしたのだ。そういった理由で、塾の冬期講習があった汐音と、一応センター試験を間近に控えた俺は二人で年越しをすることになった。



 境内の方に向かって歩きながら、俺は隣を歩く汐音に聞いた。



「そういや、冬期講習が始まるのって四日からだっけ?」

「はい。年末年始は、塾もさすがに空いてないみたいです。兄さんは? 明日からまた図書館通いですか?」

「いや、図書館の方も三日まで休業。久しぶりに家で勉強するかな……」

「いいんじゃないでしょうか、別に。私は兄さんが居ても居なくても気にしませんけど。ええ、まったく気にしてませんけど」



 去年は自宅で全然勉強してなかったなぁ、と改めて実感する。ずっと図書館に籠ってたから、家にいること自体ほとんど無かったのだが。



 それにしても。



「(なんで汐音のやつ、ニマニマしてんだ……?)」



 隣を歩く汐音は、普段学校で「クールビューティー」と評されている優等生と本当に同一人物なのか疑ってしまうほど、口元が緩んでいた。何か嬉しいことがあったのだろうか。こいつに限って、まさか年始に俺が家に居るのが嬉しいなんて思ってることは無さそうだし……



「きゃぁっ!」

「ちっ、前見て歩けよオイ!」



 突然、人の流れを無視して逆走してきたジジイに突き飛ばされたらしい。よろけて転びそうになった汐音の腕をつかんで、なんとか体を支える。



「す、すみません兄さん」

「今のは汐音は悪くないだろ。ったくあのジジイ。前みて歩けはこっちのセリフだぞ、まったく」

「…………」



 汐音は弱弱しい笑顔を浮かべてコクンと頷くものの、先ほど突き飛ばされた時の恐怖がまだ残っているのか、俺の手をぎゅっと握ったまま離さない。なんとか気分を変えようと、俺は矢継ぎ早に話しかけた。



「さっさとお参りして、帰りにベビーカステラでも買って帰ろうぜ」

「……」

「あ、それともチョコバナナの方が良かったか? あっちにはクレープ屋も並んでるみたいだぞ! って、クレープ一個500円⁉ さすがにぼったくりじゃね……?」

「……全部食べます。兄さんの奢りでいいんですよね?」

「さ、さすがに全部は冗談……ですよね?」



 まだお年玉貰ってないですし、と恐る恐るお伺いを立てた俺に、汐音は今度こそ満面の──いや、悪戯っぽい笑みを浮かべた。



「約束、しましたよね? 家出る前に」

「……ハイ」



 父さん、母さん。今年のお年玉はいつもより多めにお願いします……



___________



 初詣を終えて、家に帰る途中。



「兄さん、スマホ鳴ってませんか?」

「おっ、しかも電話だ。もしもし?」

『あ、悠馬先輩。明けましておめでとうございます』

「瑠美か。明けましておめでとう。今年もよろしくな」

『はい、よろしくお願いします。今、大丈夫でしたか?』

「あぁ。さっきまで妹と初詣に行ってたんだ。瑠美は家か?」

『ええ。先ほど起きて、朝ごはんを食べ終えたところです』



 そう言われて気づいたが、まだ時刻は九時を少し過ぎたところだった。初詣に行かなければそんなもんだろうなと納得する。



「そっか。瑠美は正月何して過ごすんだ? 家で勉強か?」

『あ、そのことでお電話したんです。先輩、確かご両親がしばらくの間出かけてるっておっしゃってませんでしたっけ?』

「あぁ。帰ってくるのは確か五日とかその辺だったかな」

『その……もしよろしければ、先輩のおうちに伺ってもよろしいですか?』

「んんん⁉」



 いきなりの発言に、思わずスマホを取り落としそうになった。汐音が「どうしました?」と視線を向けてきたので、大丈夫だと手ぶりで伝える。



「い、いや。別に俺は構わないけど。えっと、その、妹がいるぞ?」

『あ、妹さんも受験生でしたっけ。お邪魔でしたら、全然構わないのですが……よろしければ、こないだ買ってらっしゃったセンター試験予想問題パックを一緒に解きませんか、と思って』

「あ、あぁ。そういうことか。それなら全然……」



 両親が居ない家に後輩の女の子が来る、というイベントが急きょ発生したもんだから思わず動揺したが、考えてみればセンター試験まで残すところ二週間。正月だからって、無為に過ごすのは良くない。



「汐音。俺の友人がこの後ウチに来て勉強しても、大丈夫か?」

「……ええ、別に構いませんけど」



 一応お伺いを立てると、汐音からもOKサインが出た。なんか少し不機嫌そうな気もするが、良いと言ってるのだから大丈夫だろう。



「妹も大丈夫だって」

『ありがとうございます! では、お昼ごろに伺いますね』

「あぁ。じゃあまた後で」



 そう言って電話を切る。帰ったら集中して頑張るぞ、と意気込む俺の横で、汐音は「……せっかく……しぶり………二人………のに……」と呟いていたが、声が小さいため聞き取れなかった。ぶりが二人? 夜ご飯の話だろうか。



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