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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.6 停滞、そして。⑧

「よっし! 今回は長文1問ミスで抑えたぞっ!」

「わ、すごい! 私だって、世界史は2回連続90点超えてるもん。悠馬くんには負けないからね!」

「げっ。しかも桜お前、あの古文で1ミスかよ。クソッ、『びんなし』の意味さえ分かってれば、俺だって8割は取れてたんだけどなぁ……」


 時間の進みはあっという間で、十一月も間もなく終わろうとしている頃。俺と桜は、大手予備校が開催しているセンター試験の模試を受け、その自己採点をしていた。いつもの図書館は既に閉まっていたため、今日は桜の実家のレストランの四人席をお借りしている。もちろん、瑠美も一緒だ。



「『びんなし』は漢字で『便無し』と書くんですよ。『便』という漢字を使った言葉、何か思いつくものはありますか?」

「便、ねぇ。あ、べんp」

「「悠馬先輩くん、今何か言おうとし(まし)た?」」

「いえ、ナンデモナイデス」



 ギロッ、と女子二名から射殺すかのような視線を受け、俺は慌てて背筋を伸ばす。



「そうだなぁ……便座、便器とか、トイレ関係ばっかだもんな」

「悠馬くん、ユビキタスだよ、ユビキタス」



 頭をひねっている俺に、桜がヒントを出してくれる。



「ユビキタス? なんか聞いたことあるぞ。現代文の問題で見たんだったかな……」

「はい、評論の題材になっていることも多いですよ。ユビキタスというのは、『欲しいものが、欲しい時に手に入る』様子のことを指す英単語ですね。例えば、悠馬先輩が「今すぐ新鮮なケーキが食べたいなぁ」と思ったときに、スマホのボタン一つでデリバリーを頼めますよね? これがユビキタスですよ」

「ほぉ。当たり前っちゃ当たり前だけど、やっぱ便利・・だよなぁスマホ…………あっ!」



 思わず大声を出してしまった。他のお客さんの視線を集めてしまったので、ペコリと謝罪してから瑠美の方を向く。



「『便無し』の『便』って、『便利』のことか!」

「その通りです! つまり、『便利』が『無い』から、『びんなし』は『不便だ』という意味ですよ!」

「なるほどなぁ」



 桜が出してくれたヒントの意味も分かり、うんうんと頷く。桜はちょうど今日の模試の復習を終えたらしく、「何か軽くつまめるもの持ってくるね!」と厨房の方に行ってしまった。何となく桜が消えて行った厨房を眺めていると、隣に座った瑠美がくいくいっと俺の学ランの袖を引っ張った。



「先輩。世界史の方も今日中に解き直しちゃいましょう?」

「あぁ、そうだな。といっても、世界史は5問ミスか。もう少しで90点載ったんだけどなぁ」

「この時期にセンター試験レベルの社会科目でミスがあるのは、基礎知識に抜けがある可能性がありますから、周辺の知識も併せて確認したほうが良いですね。さぁ、用語集も一緒に出してください! さぁ!」

「へいへい」



 瑠美に促されて、鞄からテキストを数冊取り出す。毎日のように連れ回しているからか、表紙はボロボロで、ところどころ破れていた。



「(受験勉強を始めて、もう半年以上だもんな……)」



 あの日、瑠美と出会うまでは、勉強の楽しさなんてこれっぽっちも知らなかった。瑠美と出会っていなければ、今でも近づく入試に漠然とした不安を抱いたまま、漫然と日々を過ごしていたかもしれない。



 桜だって、ここ最近の成績の伸びが著しい。悔しいが、俺より明央大学の判定だっていい。学部を選ばなければ、彼女ならきっとどこかには引っかかるだろう。それだって、なんだかんだ言いながら瑠美が勉強をみているから、というのが大きな理由の一つに違いない。



 ふと、窓の外に目をやると、辺りはすっかり暗くなっていた。あと数日で十二月だ。



「センター試験まであと五十日弱、か」



 嘆息まじりに呟くと、机の上に置いた手の上に、そっと瑠美が自分の手を重ねて、確信を持った口調で断言した。



「大丈夫ですよ、先輩たちなら」

第六話終了です。

スランプに陥っている時、ただ闇雲に勉強するのは愚策です。その間も、受験までの日は着実に足を進めています。周りの人、そして自分の模試結果をよく見て、何をすればよいのかを見極めることが大事です。


また、模試が続くとモチベーションが落ちる人もいることでしょう。それは仕方ありません。でも、入試が終わるまであと数十日です。その数十日で、貴方の今後の人生すべてが大きく変わります。変わる可能性があります。悠馬くんは友達の、桜と瑠美のおかげで単調にならずアクセントのついた受験生活を送れていますが、そんな友達がいない人は、もう一度大学見学に行ってみるのも一つの方法ですね。

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