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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.6 停滞、そして。⑦

「はい、先輩。あ、桜先輩の分は、明日持ってきますね」



 とニコニコ顔で渡された用紙を見て、俺と桜は顔を引きらせた。



「なぁ、瑠美」

「はい、なんですか?」

「この行、2018年、2017年と来て、一番下の行が2009年になってるんだが……」

「え、そうですけど……途中に抜けてる年とかありましたか?」

「いやいや、それは無いんだけど……無いからこそ問題っていうかなんといか」



 言葉を詰まらせる俺に代わって、同じように額に汗を浮かべた桜が問いかけた。



「る、瑠美ちゃん。横列に明央だけじゃなくて、立習院とか色々並んでるのって、もしかして……」

「あ、これは悠馬先輩の志望校です! この前の模試で、志望校判定欄に書かれていたものを並べてみました。左から、志望順位順に並べてます!」

「ええと、それはそうなんだけど……全部で8個も書かれてるし、一番上に書かれてる表のタイトルが……」

「ふふ、それじゃあ説明させていただきますね」



 上級生たちが混乱しているのには構わず、瑠美は、机の挟んで反対側に座る俺が持っている3枚の紙――縦十マス、横八マスの、計八十マスが印刷されたA4の紙だ――を指さして説明を始めた。



「お察しの通り、表のタテ列は過去問の年次、ヨコ列はどの大学の過去問をやるかを表してます。例えば、この英語って書かれたこの紙のこのマスには、「立習院大学の2015年年度入試の、英語の過去問」が解き終わったら〇をつける、といった具合ですね」

「それは、なんとなく分かる。こっちの紙は世界史、こっちは国語だよな」



 俺は手に持った三枚の紙をしげしげと眺めた。わざわざパソコンで作ってくれているあたりに、瑠美の几帳面さと面倒見の良さが表れている。



「過去問は、そろそろちゃんとやらなきゃと思ってたからな。でも、受ける大学全部、それも10年分もやらなきゃいけないものなのか? どう少なく見積もっても、1か月やそこらで終わる量じゃないんだが……」

「それに瑠美ちゃん。私、この前本屋さんで過去問買ったけど、10年分も掲載されてなかったよ? ほら、これなんて」



 そう言って、桜が鞄から取り出した新品の赤本には、「5カ年の傾向と対策」と表紙に書かれていた。



 瑠美はうんうん、と頷いた。



「そうなんです。そもそも、ただ過去問はたくさん解けば合格できるってものでもないですし、桜先輩がおっしゃるように、昔のものは手に入りずらいんです。でも、でもですよ、」



 ほんわかした雰囲気を一変、真面目な顔で瑠美は俺たちに問いかけてきた。



「先輩たちは、私立大学の定員の厳格化についてご存知ですか?」

「定員厳格化? あ、待てよ。この前進路指導の先生が、集会で何か言ってたような……」

「私、覚えてるよ! 確か、私立の大きな大学で、今までは募集していた人数より多めに合格を出してたのが、去年からできなくなったんだっけ?」

「ええ、そんな感じです」



 「正確には、定員以上の入学者が出たときに、罰則金を課されるんですけどね」と補足しつつ、瑠美は話を続けた。



「という理由があって、有名私立大学では今までより合格者数を少なめに抑える必要が出て来たんです。と、いうことは――」

「今までだったら合格できてたような人が、今年も上手く行くとは限らない、ってことか」



 ようやく話の重大性がつかめ、思わずしかめっ面になる。



「つまり、瑠美はこう言いたいんだな? 今までより合格しにくくなるから、第一志望だけじゃなくて、滑り止めの方だってちゃんと対策しとかないと落ちるかもしれないぞ、って」

「はい、その通りです!」



 俺がきちんと理解していたことが嬉しかったのか、瑠美は目を細めた。そして、何やら筆箱をガサゴソと漁ると、中から定規を取り出す。



「昔は、『第一志望は5年分、第二、第三志望は2,3年分、第四志望以下は、最新のだけやって傾向は掴んどけ!』って指導があったらしいんですけど、今はそれでは不十分なんです。」



 だから、と瑠美は定規を使って、机の上に置かれていた紙のマスに、いくつかの斜線を書き込んでいく。表の右列に行けば行くほど、斜線により潰されたマスの数は増える。



「よし、こんなもんですね」



 そう言って瑠美が差し出してきた表を、俺と桜は覗き込む。



「えーっと、第一志望のところは10年、第二、第三でも5年かぁ。って、え⁉ 第8志望も3年分はやらなきゃいけないの⁉」

「うわっ、国語は少ないなと思ったら、世界史は第八志望でも5年分かよ! というか、まだセンター試験の過去もすら終わってないのに、本当に終わるのかよこれ……」



 俺と桜がどれだけ泣き言を連ねていても、瑠美はニコニコ顔を崩さない。観念した俺は、せめてこれだけは聞いておこうと、先ほど桜が言っていたことについて瑠美に質問した。



「ま、まぁ。合格するにはこんくらいやるのが必要だとして、過去問はどこにあるんだ? 都内のでっかい本屋でも、こういうのって昔は売られてないよな?」

「んー、古本屋とか、学校の図書館には結構あったりしますよ。あとは、他の先輩から譲ってもらったり、ネットオークションで手に入れたりする人なんかもいますけど……」



 最近はもっと手軽なのがあるんです、と彼女はスマートフォンの画面をこちらに見せた。



「これは?」

「大手予備校が公式で運営している、過去問データベースです。会員登録してれば、誰でも無料で使えるんですよ。大学によっては無いものもありますけど、有名大学であればここ10年分くらいは簡単に探せます」

「へぇ……お、ほんとだ。日洋大も、成修のもある。あれ、でも解説と答えはついてないものも結構あるぞ?」



 解答が無ければ答案の丸付けが出来ないのでは、と心配したが、杞憂に終わった。なぜなら、



「あ、答えが無いのは私が調べて作りますよ! 解説も、分からない部分は一緒に確認しましょう!」

「ア、ハイ」



 過去問の解くペースや順序についての瑠美のレクチャーを受けながら「全国模試一桁代の奴が勉強の手伝いをしてくれてるのって、なんかチートっぽいよなぁ」と、若干他の受験生に申し訳なさを感じていた。


過去問 データベースでググれば出てきます

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