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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.6 停滞、そして。⑥

「なあ、瑠美。一つだけ頼みがあるんだ」

「………………」



 瑠美は無言のまま、泣き顔を上げた。彼女から視線を逸らすことなく、俺は頼みごとの内容を伝えた。



「俺に、勉強を教えてくれないか?」



 そう言った俺は、ふと一学期が始まったばかりのころ、彼女と出会ったときのことを思い出した。たまたま、購買で手が触れあったから。たまたま、落としたかばんから模試の結果が滑り落ちたから。いくつもの偶然が積み重なって、俺と瑠美は今、こうしてここにいる。



「(まさに袖摺そですり合うも多生たしょうの縁、だな)」



 ことわざとはよく言ったものだなぁ、と感心していると、腕の中で瑠美が体をきゅっと縮こまらせた。俺の腰に回された細い腕には、いっそう力が込められた。



「……いいん、ですか?」

「何がだ?」

「私、これからも悠馬先輩と一緒に勉強しても、いいんですか?」

「ああ。っていうか、こっちからお願いしてるんだぞ」

「……ふふ、そうでしたね」



 弱弱しくはあるものの、ようやく笑顔を浮かべてくれた。瑠美は目元を一回拭うと、再び俺の体にぼふっと頭を預けた。



「私、たぶん『めんどくさい人』なんだと思います。性格も明るくないですし、変なところで傷つきますし……」

「そうかもな」

「それに私、勉強以外何もできませんよ? その、あまり友達と遊んだことがないから、何したらいいか全然分かんないですし……」

「大丈夫だ。それくらいなら、俺も教えられる。勉強だったら、教えてもらいっぱなしだけどな」

「……ほんとうに、いいんですか? 私、悠馬先輩とこれからも一緒にいても、いいんですか?」



 なおも不安そうに呟く瑠美に、大丈夫だとばかりに頭をでてこう告げた。



「ああ。これからも、俺たちは友達だ。絶対にな」



___________



「うわぁ、フラグへし折るなぁ……」

「ん? なんか言ったか?」

「んーん、何も。」



 翌日の昼、俺は桜に昨日の顛末てんまつを話していた。桜にも心配をかけていたのだ。省略気味ではあるが、ちゃんと仲直りできたことは話しておいた。友情を確認し合った、とちょっと気恥ずかしいようなことまで報告したら、この反応である。



「はぁ。瑠美ちゃんも瑠美ちゃんだよなぁ。まぁこの調子なら受験が終わるまでは何にも無さそうだけど……押しが弱いなぁ」

「ん? オシ? よくわかんないけど、その問題の答えは惜しくも何ともないぞ。主語はこっちで動詞はこっちだ」

「わ、ほんとだ。次の模試、明央オープンなんだよね。入試とそっくりの問題が出るんだって。その対策もしなくちゃいけないのに、私まだまだ勉強不足だよ」



 はぁとため息をつき、桜は大きく伸びをした。上半身が後ろに反らされたとき、胸のふくらみがより一層強調され、俺は視線を逸らしながら言葉を返す。



「ああ。それについて昨日瑠美に聞いたんだ」

「え、模試の勉強の仕方について?」

「いや、過去問の解き方について。ほら、担任の岡田もこの前言ってただろ? そろそろ受験生は過去問を購入しとけよって。まだ俺たちセンター試験の過去問しか解いたことないから、大学の過去問ってどうやって解けばいいのか知りたくてさ」

「え、私も知りたい! 瑠美ちゃん、なんて言ってたの?」



 目を輝かせてこちらを見て来た桜に、俺は首を横に振って答える。



「いや、それが「準備するものがあるので!」って、昨日は教えてくれなくてさ。今日の放課後に教えてくれることになってるんだ。桜も来るか?」

「うん! 今日は予備校の授業も無いし、行けるよ!」

「よし、決まりだな。にしても、準備って何なんだろうな」

「ねー。何かお役立ちプリントかなぁ?」



 ――なんてポワポワとしてられたのも、その日の放課後、瑠美にとある用紙を渡されるまでの間だった。


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