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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.6 停滞、そして。④

「……へ?」



 桜の意外な反応に、思わず目をしばたたかせる。



「だって、模試の結果って結構デリケートなものでしょ? 他の人が勝手に見ていいはずがないよ」

「いや、でも瑠美にはいつも――」

「いつも見せてたからって、今回も絶対見せなきゃいけないものなのかな? だって、悠馬くん見せたくなかったんでしょ?」



 俺は黙り込んだ。桜の言うことは、正論だ。確かに、俺が瑠美に模試の結果を見せることは必須かと言われれば、そうではない。今までだって、瑠美から何かしらのアドバイスを貰えると思って、俺が勝手に見せていただけだ。今回は、俺が見せたくなかったから見せなかった。それだけだ。



「(なのに、なんで……)」



 俺は間違っていない、と何度自分に言い聞かせても、胸のモヤモヤは一向に晴れない。それどころか、俺が「結果を見せたくない」と告げたときに見せた瑠美の表情が、ますます色濃く脳裏に刻み込まれていくような気がした。



 再び顔を俯けた俺を見て、桜はこう言った。



「それで悠馬くんは、どうしたいの?」

「どうしたいって……」

「悠馬くんがきつい口調で何か言ったり、いじわるしたわけじゃないんだよね? たぶん、しばらくしたら瑠美ちゃんもいつも通りに接してくれるようになるとは思うの。だから、それまではしばらく距離を置くっていうのも――」

「それは、ダメだ」



 気が付いたときには、桜の言葉をさえぎるように俺の口が動いていた。何故そう言ったのか、正直自分でも分からない。だが、それだけはしちゃダメだと本能がそう告げていた。



「(とは言ったものの……)」



 どうすればいいのか、その具体策は何も思いつかない。桜の言うとおり、俺が「ごめんなさい」と謝るのは、自分では分からないがたぶん“変”だろう。逆に瑠美の方が気に病んで、こちらの数十倍謝り倒してくる未来が見える。



 その時、ふと妙案が思い浮かんだ。



「(いや、でも……ほんとうにいいのか?)」



 俺のわずかの逡巡しゅんじゅんを見抜いたように、目の前の桜はクスっと笑って椅子から立ち上がった。スカートの裾にできたしわを手で払って伸ばすと、桜はこちらを見て悪戯いたずらっぽい笑みを口元に浮かべた。



「何事も当たって砕けろ、だよ! 分からない問題は、白紙のまま出すんじゃなくて何か書いて出せって言うでしょ?」

「……砕けたら意味ないんだけどな」



 苦笑しつつ俺が答えると、ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。



「あら、もうこんな時間だ!」

「うわ、マジか。ごめんな、色々聞いてもらってばかりで」

「ほんとだよ、もう」



 桜はぷくぅ、と頬を膨らませるしぐさを見せるが、すぐに口元を綻ばせた。「あ、でも」と呟き、座っていた椅子から立ち上がろうとした俺の額を右手の人差し指でぐいっと押さえつけて、そっとこうつぶやいた。



「敵に塩送るのは、今回限りだからね」



___________



 放課後になるや否や、俺はいそいそと教室から出た。後ろから、ハルトらクラスメイトの「オイこら待てやこのラノベ主人公!」と追いすがる声が聞こえた気がしたが、無視だ無視。急がないと、目的が果たせなくなってしまうからな。



 昨年までは毎日のように使っていた階段を昇って、2年生の教室が並ぶ校舎の3階に向かう。まだ帰りのホームルームをやっているクラスが多いのか、廊下には談笑する生徒がちらほらと見られるだけだった。



「(瑠美のクラスは……って、あれ?)」



 と、俺はそこで初めて気づいた。「俺、瑠美のクラス知らなくね?」と。



「(これはまずいぞ。たしか、ハルトが前に言ってた気がするんだが、今から聞きに戻ってる時間はないし……)」



 というか、今戻ったら桜との関係を問いただされてそれどころではないだろう。どうしたもんかと頭を捻っていたそのとき。



「あれ、あの先輩って……」

「ほら、あれだよ。5組の音羽さんの……」

「ああ、後輩を手籠てごめにしながら、同じ3年生の人にも手を出してたとかいう……」

「なんか最近それがバレたとか?」

「え、今日昼に瑠美ちゃんに会ったけど、元気なかったのってそういうこと⁉ 最低!」



 廊下で雑談に興じていた一団が、俺の姿を見つけ何やらコソコソと話し始める。いや、全部聞こえてますがな。



「(高校生活最後の年なのに、俺の名声が急激に落ちてる気がするなぁ)」



 俺はがっくりと肩を落とし、図らずも教えてもらった瑠美のクラス――5組の方にとぼとぼと歩いて行った。


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