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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.6 停滞、そして。③

──翌日。


「悠馬くん、ちょっとついて来て」



 昼休みになった途端、隣の席に座っていた桜が耳打ちするようにそう伝えた。



「……ハルトから借りてる問題集。明日返す予定なんだ。悪いけど、昼休みの間に解いちゃいたいから――」

「ねえ、浅野目くーん!」



 桜は俺の言葉をさえぎり、教室の後ろでクラスメイトと雑談に興じていたハルトに呼びかけた。「オーウ、ホワッツアップ!」なんて振り返ったハルトに向けて、言葉を続ける。



「ねえ浅野目くん。このテキスト、悠馬くんもう少し使ってたいんだって。大丈夫かな?」

「へ? あ、ああ。それはもう使ってない奴だから全然いいんだけど……それより飾森さん、今悠馬のこと何て――」

「悠馬君、やったね! 急いで今日の昼にやらなくてもいいって。ほら、早く行こ!」



 そう言うと、彼女は俺の学ランの袖を引っ張って立たせる。当然、クラスの連中の好奇心や、ハルトを含む一部男子連中のどこか暗い炎を宿した視線は俺たち二人に集中砲火されている。桜のやつ、最初は気を使って声を潜めてくれていたのに……!



俺は額に汗をかきながら必死に笑みを浮かべ、この場を丸く収めるべく弁解を試みた。



「いや、その……これは桜の方から――」

「「「「「「さ く ら???」」」」」」

「ち、違うんだって! 一学期の終わりのころに――」

「「「「「「“一学期”からだって???」」」」」」



 ダメだ。ヒートアップした彼らに俺の説得は通じそうにもない。



「何してるの? 早くしないと昼休み終わっちゃうよ!」



 クラスを満たす微妙な空気に気づいた様子もなく、桜は俺の袖をつかんだまま教室から出ようとする。「なんかこんなこと、前にもあったよなぁ……」と思いつつ、俺はなされるがままに教室から連れ出された。



___________



 授業が終わって間もないからだろうか。図書室は昼休みだというのに俺と桜以外誰も来ていなかった。当たり前のように司書室に入っていった桜の後に俺も続いたが、どうやら司書の先生さえ外出中らしい。



「懐かしいね。一学期、瑠美ちゃんと悠馬くんと、ここで一緒に期末試験の勉強したんだよね」

「……ああ」



 その時のことを思い出すと同時に、ついこの前の図書館での出来ごとまで思い出されて、俺は下を向いた。



 「ねえ、悠馬くん」



 椅子に座った桜が、手で俺にも座るよう促しながら、優しい口調で問いかけた。



「瑠美ちゃんと何があったのか、教えてくれる?」



 やはり、と心の中でため息をついた。



 結局、あの後の瑠美との会話はどこかぎこちないものになって、ほとんど無言のまま解散となった。あの時は、「俺が成績表を見せようが見せまいが、そんなショックを受けるほどのことか?」と反発に近い感情を抱いていたが、落ちついた今になって瑠美の気持ちが分かった。



 瑠美は、悲しかったのだ。自分の友人の、俺の力になれなかったことが。いや、俺が彼女を拒絶したことが、せめて何か助けになることをしたいと考えてくれていた彼女にとってはショックだったのだろう。



「朝ね、瑠美ちゃんとたまたま会ったの。元気が無さそうだったから、どうしたのって声かけたら、何も言わずに行っちゃって……。それで、もしかしたら悠馬くんと何かあったんじゃないかって思ったの」

「……そっか。悪いな、心配かけて。実は──」



 俺は昨日の図書館での出来事を簡単に説明した。返却された模試の結果が悪かったこと。気晴らしに解いた過去問の結果が、夏休み以前のレベルまで落ち込んでしまったこと。瑠美が相談に乗ってくれようとしたこと。それを断ったこと。



 話し終えて一息つくと、時計の針は昼休み開始から既に20分が経っていることを示していた。図書室にも、気づかぬうちにだいぶ人の気配が増えている。



 俺の話を黙って聞いてくれていた桜は、しばらく目を瞑った後、静かに口を開いてこう言った。



「そっか……うん。それは瑠美ちゃんが悪いね」


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