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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第1章 俺、どうやら受験生になったらしい。
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Ep.1 E判定と秀才美少女⑤



「も、もしかしてそれって、俺の点数が上がる……ってことか?」



 記述型の試験であれば、一問正解に変わるだけでも3点か4点程度点数が上がることになる。依然として自分の学力がマズイ状況であることに変わりはないが、精神衛生上、点が多く取れているに越したことは無い。



 若干の、いやかなりの期待を込めつつ、音羽さんに尋ねてみたが、



「い、いえ……その、点数はむしろ下がっちゃうことに……」

「……だよな」



 申し訳なさそうな表情とともに返ってきたのは、なんとも残念な回答だった。



 とはいえ、今さら解答ミスを試験を実施した予備校に申告しても仕方がない。採点ミスをした方が悪いのである。ありがたく点数はいただいておこう。



 ただ、どこが間違っているかはやはり気になる。受け取った成績表の裏面、スキャンされた英語の解答用紙を見ていると、そもそも正解できている問題は7つしかない。この中のどこかが間違っているのだろう。



 そういえば、音羽さんは問題用紙を見たことがないはずなのに、解答用紙だけを見て「間違っている」と伝えてきた。ということは、問題用紙に選択肢が載っている記号問題ということはあり得ない。



「とすると……この、単語を並びかえて英文を作る問題が間違っている、ってことでいいのか?」

「っ!(コクンコクン)」



 俺が指で示した箇所を見ると、猛スピードで首を縦にふりふりする音羽さん。



 どうも会話をするのは得意ではないようだが、そのぶん、体をオーバーに使ってコミュニケーションを取っている。なんだかちょこまかと動く小動物を見ているようで、微笑ましい。



 それはさておき、採点ミスの箇所は発覚したが……



問4 (His brother and I) went to see off him at the airport last (Saturday.)



 一体、これのどこがおかしいのか皆目かいもく見当もつかない。適当に答えた問題だから、「この解答は間違っていない!」なんて言い切る自信はもちろん無いけど。



 しばらく該当箇所を前にうんうんと唸っている俺の横で、音羽さんは申し訳なさそうな、しかし何か言いたげな表情で佇んでいた。しかし、グラウンドの方から一際高い歓声が聞こえてきたのをきっかけに、足元においていた自分の鞄を拾い上げると、



「先輩、その、私はこれで失礼しますね。お昼休みのパン……本当にありがとうございました」



 と、涼やかな声で告げた。



 解答の間違い探しに真剣に取り組んでいるのを邪魔するのは悪いと思ったのだろうか、返事を聞くことなく廊下の方へ歩き出す音羽さんに、俺はどう声をかけるべきか迷った。



(音羽さんは、わざわざ御礼を言うために俺のクラスまで来てくれて、挙句の果てに自分じゃ気づけなかった採点ミスにまで気づいてくれたんだ。これ以上引き留めるのは迷惑だし、普通に「こちらこそありがとう」でいいじゃないか)



(いや、恥ずかしい話だけど、俺じゃあこの解答のどこが間違っているのか分からないし、せめてそこだけでも教えてほしい。図々しい話だけど、乗りかかった舟というか。でも相手は後輩だしなぁ……)



 頭の中で、常識人な天使が戦いと図々しい悪魔が戦いを始めた。そんな思考をしている間にも、音羽さんはもう教室の扉付近まで足を進めている。



 (ええい、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ!)



 そう割り切ると、俺は教室を出ていこうとする音羽さんに届くように声を出した。



「あの! 迷惑なのは百も承知だけど、どこが間違っているかだけでも教えてくれないか?」



 

 後から思い出せば、我ながら大分恥ずかしいことをやったものだ。「ほぼ初対面の後輩に向かって勉強を教えて欲しいなんて言う勇気が、悠馬さんにあったなんて驚きですよ~」とからかわれるのは、ずっと後のことである。



 やはり、もう少しだけ美少女である音羽さんと一緒にいたい、音羽さんと話してみたいという下心が深層心理にはあったのだろうか。いや、ただ単にどこが間違っているのかを知りたいという、俺の中の真面目な部分がその行動をとらせたのだろう。そうであってほしい。



 ただ、この時声をかけたことが、間違いなく俺の人生を大きく変えた。



 声をかけられ驚いたような顔で振り返った音羽さんは、ぶるりと一度肩を振るわせると、下を向く。そして、その状態のまま、小声で何かを呟いた。



「…………を…………い」

「ええと、音羽さん?」



 聞き取れなかったため聞き返すと、今までの音羽さんの様子とは明らかに違う、しかしやはり鈴を転がしたかのように澄んだ声で、こう叫んだ。






「早くノートを出してください!!!!!!」


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