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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
48/72

閑話 上

水曜日に後編が上がります。思いついちゃったんです……ちょうどよいので、ここらで再び瑠美ちゃん視点の物語をお楽しみいただければと!



 ピピピピピッ、ピピッ……



 スマホから鳴り響く、聞き飽きた目覚ましアラームを止めるべくもそもそと右手を動かすと――あった。ベッドボードに置いてあったスマホを、画面を見ないまま操作してアラームを停止させる。



 ぼやけた視界の端に見える壁時計が指す時刻は、午前5時50分くらいだ。アラームは6時にセットしてあるはずなのにな、と思ってスマホを見ると、デジタル表示は6時1分となっていた。なんのことはない、寝ている間に壁時計がズレてしまったのだろう。そういえば、最後に電池を変えたのはいつだっけ、と思い出そうとしながら布団の中で小さく欠伸をする。



「(そっか、今日は土曜日だった……まだ寝ててもいいかな)」



 期末テスト明けで初めて迎える土曜日だし、と自分に言い訳をしながらブランケットを頭までかけ直す。私は普段から勉強している方だけど、他の人たちと同じように期末テスト前は睡眠時間を少し削ってでも勉強している。油断大敵。獅子は兎を狩るのにも全力を……って、なんだか上から目線みたいなってしまった。しかも、これじゃあ私がまるでライオンさんみたいだ。がおー。……どうやら、まだ寝ぼけているみたいです、私。



 もう30分ほど布団の中でゴロゴロしよう、とブランケットに頬を擦り始める。そういえばさっきスマホで正しい時刻を確認したとき、LINEの通知か何かが見えた気がする。ふわふわのブランケットの感触を惜しみながら、再びスマホを確認すると、来ていたのはLINEの通知ではなかった。その代わりに、カレンダーのマークのアイコンが通知欄に表示されている。タップしてカレンダーアプリを立ち上げると、



「(……そっか。今日は……)」



 画面に表示された日付と、そこに記された文字列を見るまではすっかり自分でも忘れていたし、ここ数年意識もしていなかったことだ。おそらく、スマホを契約したときに登録した情報が、勝手にアプリの方にも登録されていたのだろう。だけど、もう私には関係ない。



 再び布団をかけ直す気分にはならなかった。それに、今日も悠馬先輩は開館と同時に図書館に向かうはずだ。テスト明けだというのに、たゆむことなく受験に向けて努力を続ける先輩のことを思い浮かべると、少しだけ元気が出た。



 こうして、私の普段どおりの一日は始まったのでした。



___________



 お昼休憩の時間――



「なあ、瑠美」

「はい? どうかしましたか?」



 単語帳をじーっと見ていた悠馬先輩が、顔はそのままに私の名前を呼んだので返事をすると、



「瑠美って、何か嫌いな食べ物とかあるのか?」

「え、ええと……ドラゴンフルーツとかグァバ、とかでしょうか? 果物はほとんど好きなんですけど……」

「お、おお……えらくマニアックなものだな、それ……。他にはないのか? 魚とか、肉とか、大雑把なやつでもいいから」

「んー……特にはないですね。強いえて言えば、焼き魚、でしょうか。全然食べられるんですけど、その、身を上手く取れなくて」



 子どもっぽいな、と思いつつも未だに克服できていない。ママが生きていた頃は、食卓に並ぶ前にいつも皮とか骨は取り除いてくれてたし、その後はそもそもお魚が食卓に並んだ記憶がない。お父さんの再婚相手の方がお魚をあまり好いていないらしいから、それが原因かなとは思うんだけど……



「にしても、どうしたんですか? 急に」

「な、なんでもないぞ。たまたま例文に『好きか嫌いか関係なく、出されたものは全て食べなさい』ってのが出てきたからでだな……」

「あ、もしかして『whether』を使った例文ですか⁉ 『whether ~ or not』の形、大学入試でも和訳の問題として非常に良く出題されるんですよ!」

「おおお! そうなのか! メモしとかないとな、うんうん」



 なぜか安堵した様子の先輩は、私の発言を受けて単語帳にメモをしている。……私の好き嫌いを聞いているときも、何かをメモしている様子だったけど、あれはいったい何を書いてたんだろう。



 聞くほどのことでもないかなと思い、私は切っていたスマホの電源を立ち上げる。すると、どこから知ったのか、クラスメイト数人かからメッセージが届いていた。それぞれに「ありがとう!」と感謝の言葉を返しつつ、なんだか複雑な気持ちになる。



「(嬉しいけど……私は、やっぱり……)」



 文字を打つ手が一瞬止まった。ちょうどその時、



「瑠美、今日って何時まで勉強していく?」



 と聞かれたので、ちょっと考えて、



「悠馬先輩は何時までやりますか?」



 と返すと、



「そうだな……8時くらいまで大丈夫か?」

「はい! 特に用事はないので」

「そうか。じゃあ、俺が帰ろうと思ったタイミングで声かけるよ」

「分かりました」



 私が返事したのを聞き終えると、悠馬先輩はさっそくセンター試験の過去問を解き始めた。この前まで6割に満たない点数だったのが、最近では7割を十分狙えるところまで来ている。自分のことではないのに、嬉しくて思わず頬が緩む。



「(……うん。私も始めよう)」



 余計なことを考えている時間がもったいない。今日は先輩が受験する明央大学の去年の過去問解ききるつもりだったのに、午前中はなかなか集中できず国語の問題でたくさんミスをしてしまい、解き直しに時間を取られてしまった。明央大学は、桜先輩も受験するらしい。今後二人とも過去問を解くだろうし、私が事前に解いて置いたら演習と解説もスムーズに進められるだろう……この前二人がイチャイチャしてたのを思い出したら、なんだか沸々とした何かが浮かんできた。いけない、そろそろ取り組まないと時間内に復習まで終わらなくなってしまう。



 集中集中、と自分に声掛けをして、私は世界史の第1問目の問題に目を通し始めた。


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