Ep.4 心機一転?形勢逆転?⑤
投稿時間ミスりました……ご容赦を!
ほんとうに不思議なことになった。
「(なんかの物語の主人公にでもなった気分だ……いや、中二病とかじゃなくて)」
考えてみよう。成績が学年の底辺だった男が、学校中で話題になるほどの美少女の後輩に勉強を教えてもらって成績を伸ばし、気づけばクラスで、いやもしかしたら学年で最も人気といっても過言でないほど美少女な同級生に勉強を教えるなんて、現実に起こり得ると思うか? 進〇ゼミのマンガの方が、まだリアリティがあるだろう。
「瑠美とだけじゃなくて、飾森さんとこんな形で関わるなんてなぁ」
「ん? どうかしたの?」
昼休み。司書の先生がいない司書室で、俺は飾森さんの英語の模試の復習を手伝わされていた。……そういうと、なんか彼女が嫌がる俺を無理やりさせている感が出てしまうな。実際は、どうしてもと頼まれたから引き受けたのであって、別に嫌々やっているわけではない。
ここ数日、昼休みは司書室で飾森さんと、放課後は図書館で瑠美と勉強をするのが俺の日課になっていた。
瑠美はと言えば、あの日以来飾森さんに直接会ってはいないようだが、ニガテ意識はしっかりと残っているらしい。この前、「昼休みにクラスの奴に勉強を教えようとしたんだけど、分かんないところがあって……」と相談しようとしたその瞬間、彼女の背後に何かどす黒いスタ〇ドのような何かが見えたため、結局この勉強会についても説明できずじまいだ。
「(他人に教えてる暇があったら、自分の勉強をした方がいいのかな)」
自分は他人に教えられるようなレベルの学力には全然達していない。瑠美にしても、何から何まで自分に助けを求めているような奴が、自分は勉強せずにほかの人の勉強ばっかを手伝っていたら、不機嫌になるのも仕方ないことだろう。
「……皐月くん? 大丈夫? なんだか、体調悪そうだけど……」
難しい顔をして考え込んでいたからだろうか、ノートに解答を記し終わった飾森さんが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、ああ。すまん、ちょっと考え事をしてただけだから」
「ほんとに大丈夫? 今週の昼休み、ずっと皐月くんの時間を貰っちゃってたから、もしかしたら疲れ溜まっちゃってるんじゃないかなって思うと……ほんとにごめんね」
しゅん、と申し訳なさそうな顔で謝る飾森さん。
「いや、それはほんとに気にしないでくれ! 俺が『教えるよ』って言ったんだし」
そうだ。これは俺が自分で決めたことなんだから、言葉に出した以上やり切らなければならない。それに、このままのペースでやっていけばあと2、3日で解き直しと解説は終わるだろう。
「そんなことより、あと10分で昼休み終わるぞ」
「え、あ、ほんとだ! どうしよ、この問題までできるかな?」
「やろう。このタイプの問題は、秋の模試でもよく出題されてるらしくって……」
瑠美から聞いた情報を交えつつ説明をしていると、外では気の早い蝉がけたたましく騒ぎ始めたので、ふと手を止める。「そういえばそろそろ期末テストの時期が近づいてきたな」と思い出す。それが終われば夏休みだが、遠くに旅行とか友達とプールとかしている余裕は全くない。
「今年は休めない夏になりそうだな」と俺は心の中で嘆息し、きょとんとしている飾森さんに説明を続けた。
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「夏休みの勉強について、ですか?」
「ああ。ちょっと気になって」
昼休みの終わりに疑問に思ったことを、放課後早速瑠美に聞いてみた。
「夏休みって、予備校だったら夏期講習とか色々用意されてるだろ? 俺は何をしたら、そういう奴らに勝てるのかなって」
私立高校では学校の方で夏期講習を開いているところが多いらしいが、公立の白河高校ではそういったものは準備されていない。また、汐音にも「夏期講習だけでも予備校に行ったらどうでしょう」と提案されたことはあるが、武蔵予備校への入塾という選択肢を捨てたあのとき、俺は「予備校に頼らず合格する」と密かに心に決めていたのだ。
それに……
「分かりました! 先輩の志望校に合わせて、やらなきゃいけないことを洗い出してみましょっか」
俺には、受験に関してはそんじょそこらの先生よりも頼りになる友達がついてる。瑠美ならきっと、予備校に行かずとも成績を上げる策を提示してくれるのではないかと期待してたけど、どうやら正解だったようだ。
「先輩、二学期になると模試をたくさん受けることになるのは前にも言いましたよね?」
「ああ。マーク模試に記述模試、あと志望校別の模試とかだよな」
「そうです。模試はあくまで練習ですから、そこで結果を残せなかったからといっても受験に直接は影響しません。でも、「今の実力」を図るにはもってこいの機会なので、だいたい1月に1~2個は模試を受けておくべきだと思います」
うへぇ、とうめき声が漏れる。良い結果が出たら嬉しいだろうが、悪い結果が出たら勉強のモチベーションにも影響が出そうだ。
「なんか、模試ってニガテなんだよな。一日拘束されるのは体力的にキツイっていうか」
「ふふ、私もあんまり得意ではありませんよ。でも、私立の入学試験も一日で三教科を受けなければならないですから、その予行練習だと思って頑張りましょう!」
「まぁ、そうなんだけどな。ちなみに、瑠美は模試で疲れない工夫とかしてるのか? 全国1桁なんて、疲れて集中力が切れてる状態でとれる成績じゃないと思うんだが」
「そうですね、私は食事に気を使ってる、くらいかなぁ……」
「睡眠と食事?」
「あ、はい。例えば、午後に眠くらならないようにするためにお昼ご飯は食べ過ぎないとか、糖分を補給するためにチョコレートをテストとテストの間に食べるとか……。あと、お昼ご飯を食べ終わったら机に伏せて目を閉じちゃいます!」
「なるほど、そうしとけば眠さも少しはマシだよな」
本題とは少し違うが、良い話を聞けた。参考にしようと、メモを取っていると「話逸れてましたね」と苦笑しながら瑠美が話を元に戻した。
「夏休みの勉強ですが、先輩には『模試を意識した勉強』をしてもらいたいと思います」
「模試を意識した、勉強? 受験本番じゃなくて?」
「はいっ」
そう言って瑠美は笑みを浮かべると、鞄からルーズリーフを取り出して四角形を三つ書いた。それぞれの四角に、国語英語世界史と科目名を記していく。書き終わって改めて俺の方を向くと、彼女はこんな質問をしてきた。
「先輩は、夏休み40日間あれば模試でA判定が取れるようになります!」
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