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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第1章 俺、どうやら受験生になったらしい。
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Ep.3 はじめての中間テスト⑪(授業④「定期テストと古典」)



「お、おお?」



 助かるし、本当にありがたい。でもそんな方法があるならもっと早くに教えておいて欲しかった、と複雑な気持ちになっていると、



「先輩、古文の勉強で一番大事なポイントってなんだと思いますか?」



 と音羽さんが尋ねた。



「……単語か?」

「正解です! 英語と同じで、古文も単語の意味が分かってないと文章は読めませんよね」



 確かに。言われてみれば、単語と文法を勉強してから長文の問題に挑むという点で、古文と英語ってよく似ている気がする。



「じゃあ、定期テストのときはこんにちは古文単語を覚えるのが最優先ってことか」

「そうですね。古文単語テストだけではなく、教科書に載っているレベルの単語は一度頭に入れてしまうと、他の問題でも役に立ちます!」



 彼女の言葉を聞き、俺は自分の鞄から古典演習のテキスト(以前職員室に置いてきたアレだ)を取り出す。うげぇ、文章題が4つも出るのかよと思ってたけど、受験勉強と考えれば不思議とやる気も出てくる。



「単語を覚えるか……英語と同じ方法でいいのか?」

「基本はそうですね。それと、古典ではもう一つだけ効率の良い勉強方法があるんです!」



 瑠美は失礼しますね、と言って俺が手に持っていたテキストを取り上げると、付属していた解答をペラペラとめくり「なるほど、なるほど」と呟いてる。何が何やら俺には分からん。



「……瑠美?」

「ひ、ひぁい!」



 あまりに夢中に読み込んでいるもんだから思わず声をかけると、可愛らしい悲鳴とともに少し飛び上がる。ふしゅーと顔を赤くしながら(なぜだ)慌てて説明を再開した。



「失礼しました……えっと、さっきから話題に挙げているこの例文、『師の前にて一つをおろかにせんと思はんや』を現代語訳できますか?」

「まぁ、大体は……『師匠の前では一本だろうと疎かにできない』っと。これでどうだ?」



 俺はノートの切れ端にそうメモして音羽さんに見せる。



「んー、意味は捉えられているんですが、おそらく模試等では減点されてしまう答案ですね」

「意味は捉えられてるのに、か」

「そうなんです。悠馬先輩、ヒンシブンカイってご存知ですか?」



 ヒンシブンカイ……ああ、品詞分解か。名詞とか動詞とか、単語ごとに区切って品詞を判断する作業のことだった気がする。



「『師』が名詞、『の』が助詞、『前』が名詞、『に』と『て』は助詞、『一つ』が名詞、『を』は助詞……『おろかにす』で一語なのか?」

「これは……『おろかなり』という形容動詞の連用形にサ行変格活用の動詞『す』の未然形が接続した形ですね。日本語では『疎かにする』という動詞みたいになってしまいますが」



んんっと小さくうなって音羽さんが代わりに品詞分解をしてくれた。少しややこしいところだったようだ。とりあえず、『おろかなり』という形容動詞があることだけでも覚えておき、俺は作業を続ける。



「『ん』……あ、『む』か。助動詞だったような気が」

「合ってますよ! 助動詞の意味まで分かりますか?」

「あー、意志であってるか? 何かをしよう、みたいな」

「正解です!」



 小さくパチパチと拍手をしてくれる。子ども扱いされている気がしないでもないが、可愛らしい彼女の動作に喜んでいる俺がいる……って違う、残りの部分を終わらせなければ!



「『と』が助詞、『思は』がハ行四段活用の動詞の未然形、『ん』が……助動詞『む』で、最後が係助詞『や』だよな」 

「正解です! 品詞分解はしっかり出来てますね。でも、先ほど悠馬先輩が書いた解答は、品詞分解したとおりになっていますか?」

「品詞分解した通り? いや、『む』の部分とかは訳してなかったような」

「そこまでちゃんと日本語訳に反映するのです!」



 瑠美はまとめますっと言っていつものメモ帳に『古文勉強のコツ』と記した。



「まずは単語を覚えること。単語の意味が分かるようになったら、一文ずつ品詞分解して正しく日本語訳をすること。この二つが受験勉強にも役立つ定期テスト勉強のやり方です」



 そして、少し迷ってからこう付け足した。



「学校の先生にもよるのですが、古文については問題を作成するのが手間だと言って『歴史的仮名遣い』『内容を問う問題』『品詞分解』『現代語訳』ばっか出す先生も多いんです。ただ、センター試験も出題される問題としては似たようなものですから、今のうちに問題形式に慣れておくと良いですね!」



___________




 家に帰ると、汐音が居間で数学の勉強をしていた。母親はパート先の友達と慰安旅行に行ってるらしく、父親はゴールデンウィーク明けに開店した関西の店舗の視察に行っているため、今家には俺と汐音しかいない。


「兄さん、今日も図書館に行ってたんですか?」

「ああ。友達に色々教えてもらってた。にしても……懐かしいな、二次関数のグラフか」



 汐音の手元を覗き込むと中学三年生全員がぶち当たる難関、「二次関数のグラフと座標」という単元を進めているようだ。



(やべえ、俺解けるかなこれ……)



 もし質問されたらどうしようと内心焦っていたのだが、さすがは優秀な我が妹。覗き込んでいる俺を鬱陶しそうに一瞥いちべつし、手を止めることなく(俺にとっては)難しい問題を解き進めていく。



(汐音もそろそろ中間試験のはずだけど、対策はしてんのかな)



 俺が予備校の体験を終えた翌週、汐音は地元の進学塾に入塾の手続きをしに行った。彼女自身は散々に渋ったのだが、「汐音、岡里に行きたいんだってさ」と母親に伝えたら、「もっと早く言いなさいよ!」と半強制的に連行される展開になったらしい。



 塾の勉強と定期試験対策を両立するのは大変そうだな、なんて考えてたら、



「いつまでジロジロ見てるんですか兄さん」



 と呆れ顔を向けられた。



「悪い悪い。先に風呂入ってくるわ。なんか食べ物って残ってたか?」

「袋ラーメンがまだ残ってましたよ。私はそれで済ませました」

「了解。俺もそうするかな」



 風呂上りに熱いラーメンを食べるのは至福である。夏場だったらクーラーで冷やされた部屋だから、幸福指数はより高い。トッピングは何にしようかな、なんて考えながら脱衣所に行き服を脱ぎ棄て、それから風呂場へ突撃する。



 シャンプーを泡立て髪を洗っていると、コンコンと風呂場の扉を叩く音が聞こえた。



「すっかり言い忘れてました。兄さん、ボディーソープってまだ入ってますか?」

「ん? ……あ、もうほとんどない。替えってそこにあるか?」

「……納戸なんどの方にあった気がします」



 そう言うと、トタトタと走る音が聞こえ、数十秒後には帰ってきた。



「今持って入りますね」

「いや、いいよそこに置いといてくれれ……」



 妹とはいえ、もう中3だ。流石に裸を見られるのが恥ずかしいという人並みの感覚はある。しかし、俺が言い終わるより早く風呂場の扉が開き、バスタオルだけをまとった妹が侵入してきた。



「……へ?」


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