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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第1章 俺、どうやら受験生になったらしい。
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Ep.2 勉強場所を確保せよ!②



 ハルトが予備校に行ってしまったため、昨日と同じく俺は一人で帰ることになった。



 さっきから、どうも腰の痛みが気になる。椅子に座っている分には幾分かマシだが、地べたに腰を下ろすような姿勢だと、背骨の下の方がズキズキと痛む感じがある。今家に帰ったとしても、すぐ勉強に手を付ける気にはならないだろう。



(そうだ、図書室があった。あそこには確か自習スペースもあったはずだ!)



 白河高校の図書館は、公立の学校にしては珍しく、夜の8時過ぎまで開館している。毎年夏休み以降になると、その自習スペースは切羽詰まった受験生たちによって占拠されてしまう。期末試験の勉強をするために訪れた下級生たちがぶーぶー文句を言っているのは、白河高校の風物詩だ。



(新学期が始まったばかりのこの時期だったら、さすがに席は空いているんじゃないか?)



 そう考えると、俺は荷物を持って校舎の5階にある図書室への移動を開始した。



___________



 「っ……ふぅ……はぁ……っ、階段って……こんなに辛かったっけ……」



 1階にある悠馬の教室から、5階にある図書室までは階段を使う以外の行き方はない。1年生や2年生の教室に行く用事もなかったため、これだけの階段を昇るというのは実に久しぶりのことだった。



 体育の授業ぐらいでしかまともに運動をしていない悠馬が、思わず息を切らしてしまっても無理はないのだ!



「ふぅ…………。にしても、ちょっとは運動しないとマズイよなぁ。受験期に激太り、ってよく聞くし、なんか運動する方法考えとかなきゃ……」



 でっぷりと太って大学デビュー失敗! という未来を脳内に描いてしまい思わずぶるり、と震える。息を整えるようにゆっくりとした歩調で歩みながら、今日から帰りは少しジョギングで帰ろうか、なんて考えているうちに図書室が目の前に見えてきた。のだが……



「あれ?」



透明なガラスを通して見える図書室内は、電気が消えている。いや、司書の先生がいる部屋だけは薄く光が漏れているが、閲覧スペースや自習スペースの上の照明は点いていない。



おかしいな、と思った時に、悠馬は図書室の入口に真新しい張り紙がしてあるのに気づいた。なになに……



『火・水・木曜日は16:00閉館! 白河高校は働き方改革を推進します☆』





「ってえええええええええええええええええええ」



 今日は火曜日で、今の時刻は16時を少し過ぎたところ。どうやら、本日の営業時間は終わってしまったようである。ホワイトすぎるぜこの職場……。いや、ホワイトなのは良いことだけど!



 しかし、これは大変困った。勉強場所として頼みの綱であった図書室も、放課後にしっかりと時間を取って勉強できるのは月曜日と金曜日しかないということである。それに、図書室が元々閉まっている土曜日と日曜日、そして祝日はどうしよう。やはり、家族には悪いが居間の食卓で勉強するしかないのだろうか。



(でも集中しにくいんだよぁ。やっぱり、ハルトの行ってる予備校の見学に行ってみるのが一番良い選択肢なのかなぁ)



 そんなことを考えながら、きびすを返して昇降口へ向かおうとしたその時、



「っ! あの、こん……こんにちはっ……!」



 後ろから耳に優しい、涼やかなソプラノボイスが聞こえてきた。



「うおっ……って、音羽さんか」

「び、びっくりさせてごめんなさい……」



 慌てて振り返ると、そこにいたのはやはり音羽さんだった。



 学校指定の鞄を肩から斜めにかけ、手には鞄に入りきらなかったのだろうか、いくつかの参考書と筆箱を抱えている。図書室の前の廊下にはほとんど日光が差し込んでいないというのに、音羽さんの存在を認識した瞬間、辺りが少し明るさを増したように感じた。



 意外と早く「また」の機会が来たことに、驚きつつも何とも言えない嬉しさを感じていると、音羽さんは俺の後ろをのぞき込むように首を動かし、「あっ、そうでした……」と落胆の表情を見せた。



「俺はここに勉強しに来たんだけど、もう閉まってたんだ。音羽さんも勉強に?」



 そう尋ねると、音羽さんは一瞬驚くような表情(まさか俺が勉強しに来たということに対して……?)をしてから、首を縦に大きくぶんぶんと振った。



「そっか。残念だけど、しょうがないよな」

「ですね……今日中にはこれを終わらせたかったんですが……」



 納得したような素振そぶりを見せつつも、やはりがっかりしたような表情で手に抱えた参考書を見やる音羽さん。そこにあったのは……



(うわっ、アレ赤本って奴じゃ……2年生なのに、もう大学入試の過去問に取り組んでるのか!?)



 赤い表紙に包まれた分厚いテキストは、大して参考書に詳しくない俺でも知ってるくらい有名な過去問集だった。受験生ならば誰もがお世話になるはずのものではあるが、未だ授業についていくのがやっとな俺は、いつになったらお世話になれるのだろう。



 しかも音羽さん、あの分厚い参考書を「今日中に終わらせたい」とおっしゃいましたよ。さすがに「○○年度の分を」とかが付くんだよな? まさか過去問全部ではないよな?



 改めて学力とか諸々の違いを実感し打ちひしがれる俺を余所よそに、音羽さんは張り出されているお知らせを見て「火曜日、水曜日、木曜日……ですか」と、図書室の閉室日を確認している。一通り他の張り紙にも視線を向けたあと、



「せ……先輩はこの後どちらに……?」



 と恐る恐る、まるでウサギが虎にお伺いを立てるように俺に質問してきた。もしかして俺、怖がられているのだろうか? この不愛想なつらはもうどうしようもないんだよ。すみません……。



「そうだなぁ……家だと勉強がしづらいと思って図書室に来たんだが、閉まってるんじゃどうしようもないからな。家に帰る……しかないよなぁ」

「……」



 どうしたもんか、とぼやく俺を見て、音羽さんは何か言いたそうな、でも言うべきかどうか迷っている表情を見せた。たしか、昨日はこういう場面で俺から声をかけて、結果ビビらせてしまったからな。今回は音羽さんの心の準備が整うのを待つことにする。



 ふぅ、と一息つくと、音羽さんはしっかりと俺の目を見て、こんな提案をしてきた。






「その、もし先輩がよかったらなんですけど……えっと……一緒に……に行きませんか?」


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