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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第1章 俺、どうやら受験生になったらしい。
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Ep.2 勉強場所を確保せよ!①



「ふあぁ~…………ねみい……」

「ははっ、どーせ夜遅くまでエロ本でも読んでたんだろ?」



 大きく口を開けて欠伸あくびをする俺に、下らない冗談を真顔でぶっこんでくるハルト。



 言っとくけど、最近そういう本は高校生の間で流行ってないからな? 時代はデジタルである……ってそうじゃなくて。



「ちげーよ。昨日は珍しく夜中まで英語の予習してたんだよ。ったく小川のやつ、教科書1ページ丸々日本語に訳して来いとか、どんだけ時間かかると思ってんだ……」

「え、ちょ、ま。あの悠馬きゅんが? 英語の? 予習を? した? やべえ、今日は雪とか槍以上の何かが降ってくる気がする」



 気持ち悪い呼称にもイラっときたし、窓際に行って空を確認しようとしているハルトを一度ぶん殴ってやろうかとも思ったが、寸前のところで自分を抑えた。



 とはいえ、ハルトが驚くのも無理はない。俺が予習をしてから授業に臨むなんて、たぶん入学したての時期以降無かったことだし、勉強のために深夜まで起きてたなんて自分史上初めてのことだと思う。



 昨日は家に帰って夕食を済ませると、さっそく模試の復習を始めた。悠馬の部屋には勉強机というものがないため、勉強するには居間の食卓を使う必要がある。だが、高校生にもなって家族に見られる場所で勉強するのは何となく気恥ずかしかったので、仕方なく押し入れにしまい込まれていた足が折り畳み式になっている机を出して自分の部屋に持ち込んだ。



 そういえば、机の脚を組み立てているところを見た母親も「え、悠馬が勉強!? お父さん大変よ! 夜間診療を受け付けている病院を今すぐ探さなくちゃ!」と大騒ぎをしていたのだが、それほどまでに自分は勉強しない人のように周りには見えていたのだろうか。いや、その通りなんだけど。



 今までの自分を若干反省しつつ、1限の現代文の授業の教科書を準備する。なんだか、腰が痛い気がする。昨日使っていた折り畳み式の机は組み上げても床からの高さが40cmほどしかなく、ずっと胡坐あぐらで勉強してたからな。普段しない体勢だったし、変に凝り固まってしまったのかもしれない。



 体を伸ばしたり、横に曲げたりしている悠馬は、後ろの方の座席が真剣な眼差まなざしで自分を見ているのには気づかなかった。



___________



 6限の英語も、無事予習をした甲斐かいあって小川先生による「処刑」を免れることができた。普段は一度指名されると授業終了時まで当て続けられてる俺が、今日は1回目の質問で正しい答えを言ったのを見て、先生もぽかんとした顔をしていたよ。いやさぁ……



「悠馬!」



 授業で使った教科書などを鞄にしまっている俺に、後ろのほうから近づいてきたハルトが声をかけた。その顔は、何かふざけたことを言おうとしている表情ではなかった。



「ん? あ、もしかして今日も用事があるとか? だったら先に帰っておくけど」

「いや、そうじゃなくて。悠馬、お前さ……」



 ハルトは一度そこで言葉を区切り、息を整えてから続けた。



「お前さ、一度俺が籍を置いてる予備校に体験に来てみないか?」

「予備校? いや、お前は分かってると思うけど、俺んちは……」

「もちろん知ってるさ。だけど、学校の授業じゃどうしても『受験勉強』って感じがしないから、もしかしたらお前が焦ってるんじゃないかと思って……」



 さすがハルトだな、と思った。昨日模試が返されて焦りを覚えていた俺を、しっかりと見てくれていたのだろう。チャラくて、お調子もので、下らないことばっか一緒にやってる仲だけど、そういうところは本当に適わない。



「うちの予備校は体験生も無料で3講座まで映像を見ることができるし、体験期間中は自習室も使い放題なんだ」

「それは、すごいな。でも、入る意思もないのに通うのは……申し訳ないというか」

「まぁ、そうだよな。もちろん、お前が嫌なら無理には誘わないさ」



 冷やかしのような感じで行くのはあまり気が進まない。また、もし強引に向こうの職員が勧誘してきた場合、流されやすい俺と両親は入塾に踏み切ってしまうかもしれない。



 どうするべきか迷っていると、ハルトはいつものような、ふざけた顔に戻って言った。



「というわけで、すまんが俺はこれから放課後は直接予備校に向かうことになった! 寂しいかもしれんが、1年間の辛抱だ。耐えてくれよ、ハニー」



 冗談めかして、自分がこれからは一緒に帰れないことを伝えてくるハルト。



 若干の寂しさを覚えながらも、仕方のないことだと分かっているので俺はハルトにこう告げた。



 「気にすんな。あと、お前そろそろそのネタ止めた方がいいぞ。そのツラしながら3年間彼女がいない理由は、お前が男色家だからじゃないかって昨日クラスの奴らがうわさしてた」

「げ、マジで!? 道理で俺に言い寄ってくる子がいないわけだ……みなさーん! 俺の胸はまだ空いてますよー! 誰かー!」



 新しいクラスになってから1週間近くが経つが、コイツの変人っぷりは既にクラス全員の知るところとなっており、教室に残ってた奴らは慣れた様子でスルーを決め込む。



 がっくりと肩を落とすハルトを見て笑いながらも、悠馬は先ほどのハルトの提案を真剣に検討し始めた。


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