プロローグ
手応えは感じた。やり切った、と思った。それはそうだ。俺はこのためだけに、今年一年間血のにじむような努力を重ねてきたんだから。
それでもなお、胸の激しい動悸は一向に納まる気配を見せない。使い古された鉛筆を持つ右手は、手汗でべっとりとしている。
ふと目線を前に向けると、一心不乱にシャーペンを動かす、名前も知らないライバルたちがたくさんいた。彼らだって俺と同じように、この日のことだけを考えて日々の生活を過ごしてきたに違いない。
(思い起こせば、あっという間の一年だったな)
返ってきた模試結果の悲惨さに絶望していた4月の初め。それからの八か月は、本当にあっという間だった。
まさか自分が明央大学を受験することになるとは思ってもいなかった。そしてこの大学を本気で受験しているライバルたちと対等の勝負ができるなんて、考えもしなかった。
(全部、瑠美のおかげだ。瑠美がいたから、俺はここまで来ることができたんだ。)
優しく、時に厳しく、確かな愛情をもって俺の受験勉強に付き合ってくれた大切な人。まだ出会ってから1年も経っていないのに、なんだかもう、ずっと隣にいたような気すらしてくる。
そんな彼女に報いる方法は、一つしかない。
「試験時間はあと10分になります。もう一度、受験番号、氏名が正しく記入されているかを確認してください」
試験監督の無機質な声が、マイクを通して会場に響き渡る。余計な回想に浸ろうとしていた思考を切り替え、悠馬は再び問題用紙との格闘を始めた。
ご覧いただきありがとうございます。矢崎です。
ラブコメらしさはもちろん含みつつ、しかし「受験」をリアルに綴るという、今までにない作品に挑戦してみたいと思っております。
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