これはある意味告白かも?
とうとう戦慄の昼休みが来てしまった。あーっ、何だろう? 雨霧拓巳が私に何の用だろう? まさか、告白……とかじゃないよね? もしそうだったら……思いっきり振ってやるんだからーっ!
心配している友達の尾行を巻いて、私は校舎の裏から回って給食室へ向かう。友達はこれは罠だからと心配していたけれど、三バカトリオの残り2人は校庭で遊び回っているのを確認したの。だから雨霧拓巳は1人で待っているはずよ!
給食室の裏は朝に給食用の食材を運んでくるトラックが入ってくるスペースがあって、しかもこの時間はほとんど人目に付かない隠れたスポットになっている。雨霧拓巳がこの場所を知っているなんて意外だったなー。
雨霧拓巳は食材を運ぶための階段に腰をかけていた。
「おまえ、本当に1人で来たんだな……」
「だって、1人で来いと書いてあったから……」
「だからって、バカ正直に1人で来るか普通?」
雨霧拓巳はそう言いながら、ズズッと鼻水をすすった。
彼は花粉症なんだと思う。
「雨霧はバカだけど悪い奴じゃないと思っているからね、私は。それに私に何かあったらお兄ちゃんが黙っていないしー」
「――っぐ、アイツのことを思い出させるな――っ!」
雨霧拓巳は怒り出した。私が3年生の時にお兄ちゃんは6年生で、私に意地悪をした彼はお兄ちゃんにボコボコにされたことがあった。それがトラウマになっているみたい。
「で、私に何の用なの?」
「お、おう……あのさ……」
鼻の下を手でこすりながら、彼は私の顔をちらりと見てきた。目が合うとすぐに逸らされた。
なにこの微妙な空気感は。えっ、まさか……
だって私は青柳君に憧れていて、青柳君のことばかり見ていて。イケメンな青柳君に比べて雨霧拓巳はツンツン頭で目付きは気持ち悪いし……確かに運動は得意かもしれないけど青柳君ほどではないし。そして何よりも私にちょっかいばかり出してくるのよ? 性格が全然ダメダメなのよ?
「あのさ……」
だめぇぇぇ――、それ以上何もいわないでぇぇぇ――!
「おまえの家に魔王いるだろ?」
「…………はい?」
えっと、彼はいま、魔王って……言った?
私の聞き違いかな?
「さて、何のことかな~、あはは……」
「2.5ちゃんねるの書き込み見たぞ!」
「ひえぇぇぇぇぇぇぇーっ!!」
私は驚きのあまり飛び上がった。そして片足をあげて身構えた。
「そんな派手な驚き方をする奴、初めて見たぞ。しかし図星だったようだな! おまえの家に魔王がいるというのは」
「ど、どうかこの件は内密に!」
私は生まれて初めて土下座というものを体験した。人はいざとなったら何でもできるという、悲しい事実を知った。
「まあ、これが先生に知られたら大騒ぎになるだろうからな。さすがに住所をネットの掲示板に書き込むのはマズいだろ」
「う、うん……そうだよね……」
あれ? ちょっと待って…… 雨霧拓巳はさっき、住所の書き込みについてよりも先に魔王の話をしてきたよ?
「あの……雨霧さん?」
「おまえ、どこまで卑屈になるんだよ? 普通に呼んでいいぞ」
「う、うん。じゃあ雨霧はもしかして……あの掲示板の書き込みは魔王が書き込んだものだと信じてくれているの?」
私は恐る恐る尋ねた。こんな話、普通の人は信じてくれない。下手をすれば変人扱いされてしまうだろう。もし、そうなれば学校中に噂が広がって、私の学校生活はゲームオーバーだ。
しかしそれは私の取り越し苦労だったようだ。
「信じるも何も……俺んちにもいるから。魔王の一番弟子がさっ!」
そう言って雨霧拓巳はズズッと鼻水をすすった。
果たしてつぐみの恋の行方は? い、いや、この物語はそんな展開にはならない……はず……






