表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/36

主人と手下

『さらばだ――つぐみ』


 魔王が笑った。 

 ずるい、ずるいよ魔王さま!

 あなたは……どうして……


 私は現実から逃げる。

 固く目をつぶって、何も見ないことを選んだ。

 まぶたの裏に浮かぶのは魔王とサラと……雨霧の顔……


 ズンと鈍い衝撃音。


「おりゃァァァァァ――ッ!!」


 聞き慣れた少年の声。

 私を押さえつけていた男の体が吹き飛ばされる。

 スウェットの男は剣を振り回すが、その剣を声の主は弾き飛ばす。


「――雨霧!?」


 なぜ雨霧がここに?

 私たちを助けに来てくれたの?


 縦じまシャツの男が丸い杖を彼に向けて光の球を発射した。

 雨霧はそれを炎の剣で弾き飛ばした。


「心配でおまえんちに行ったら、おまえの母ちゃんがカンカンに怒っていたぞ! こんなところで何をやってんだよ!?」


 怒られた。雨霧のくせに私に説教するっての?

 目からじわりと涙があふれてきた。

 これはきっと悔し涙だ。


「おまえらのプレストはどうなっている?」


 ランドセルを背負った雨霧はLANケーブルの先端を向けてきた。


「あそこに……ハブという機械でみんなのゲーム機を……」

「HUB接続かぁー! そんな手があったとは……いくぞ! ネットワーク・コネクション――ッ!」

  

 雨霧は戦隊ヒーローのように叫んだ。

 男たちの攻撃をかわしながら手を伸ばす彼の姿を――


 か、かっこいい……

 ううん、それは無いわー!

 

 私は自分の頭をコツンと叩いた。頭と腕にズキンと痛みが走り、余計なことを考えずに済んだ。


 魔王はサラに抱えられて無事だった。

 炎の剣を振り回し、兵士達を近づけさせない。

 サラは雨霧に視線を向けた。


「タッ君、ここでは戦況は不利よ。ステージを選んでちょーだい!」

「よし! バトルフィールドを展開!」


 雨霧はオペレーションボードのスイッチを操作して叫んだ。

 一瞬にして私たちは光に包まれて……


「多人数の相手に遮蔽物の無い砂漠ステージを選ぶなんて、タッ君イカしているじゃなーい!」

「うっ――そ、そうさ。こんな程度の敵なんて俺とサラならこのステージじゃないと簡単すぎて面白くない……と思ってさっ!」


 雨霧はそう言って笑っているけれど、目がピクピクうごいている。そして思いっきり鼻水をすすった。


 ここは懐かしい、私とサラが初めての模擬戦をしたステージ。

 雨霧はこのステージを敢えて選んでくれたのかも知れない。


 青柳君とその仲間達は突然変わったこの世界に戸惑っている。

 周りをキョロキョロ見回している。


「小娘ェェェ――! 早く魔王さまに武器を出しなさい。私一人で4人を相手にするのはさすがに無理だわよ!」


 サラが私に視線を向けて叫んだ。

 赤い髪をなびかせて、4人の兵士を相手に炎の剣で応戦している。

 

「う、うん、分かったわ!」


 私はオペレーションボードに手を伸ばす。魔王に魔法のステッキを召喚しよう。そうすれば戦いは終わるのだから……


 しかし、それを魔王は許さなかった――


「その必要はないぞ、つぐみよ」

「――ッ!」

「おまえはもう戦わないと決めたんだろう? ならばオレ様はその決意を認めてやろう。手下の功績も不始末もすべて自分のものにする――それが主人の宿命なのだよ」

「で、でも……」


 魔王は本気だ。本気で死ぬ気でいるんだ。

 私が戦わないと言ったこと、青柳君に騙されて魔王討伐隊を連れてきてしまったことをすべて自分で責任を被ろうとしているんだ。


 私は……どうすれば……


 雨霧は青柳君とその仲間たちと剣でやり合っている。

 サラは魔王を庇いながら鎧の兵士たちと戦っている。


 私は――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

↑↑ランキングに参加中。クリックお願いします↑↑

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ