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談話室

 ここは談話室。悪い子が先生に怒られるための部屋。なんで私がここに連れてこられたのだろう? 何も悪いことはしていないはずなのに。


 私はパイプ椅子に座らせられ、長テーブルの向こう側に教頭先生と山口先生が並んで座っている。


「日笠さん、これ、何か分かるかな?」

「がはっ!」


 教頭先生が机に並べた印刷物を見た瞬間、私は白目を剥いて気絶しそうになった。それは魔王が勝手に私の個人情報を書き込んだせいでお祭り騒ぎになっている掲示板のコピーだ。


「やっぱり知っているのね? すべて正直に白状しなさい!」


 山口先生が机をドンと叩いた。

 最悪だ。何でこのタイミングで先生に見つかってしまったんだろう。


「あの……それ、私が書いたんじゃないのです……けど」

「じゃあ誰が書いたというのよ? まさか『魔王様』が書いたとでも言うつもりじゃないでしょうね!」

「そのまさかなんです! VRゴーグルを付けたら厳つい顔の魔王が出てきて、パソコンを勝手に操作して書き込んじゃったんです!」


 とうとう先生に打ち明けてしまった。このままでは私が自分の個人情報をインターネットに書き込んでしまうような『おバカな子』に認定されてしまうから、仕方がないの。


 山口先生は教頭先生と顔を見合わせて、肩をすぼめた。


「日笠さん、先生達はあなたを怒ろうとしている訳ではないんだよ。インターネットは世界中の人が見ているから、あなたの住所や電話番号が書いてあるとね、怖い人や悪い人があなたを探しに来ちゃうんだ。それは嫌だよね?」


 教頭先生はゆっくりとした口調で私に話しかけてきた。口元は笑顔のように見えるけれど、メガネの奥から冷たい視線が突き刺さってくる。

 

「はい……それは知っています。山口先生に教わりました……」

「分かっていてやったというの? それって、私への当てつけかしら?」

「だから私ではなく……」

「『魔王様』がやったというの? いい加減にしなさい!」


 山口先生がまた机をドンと叩いた。


「まあまあ、山口先生……」

「でも教頭先生……」


 二人は廊下へ出てひそひそ話を始めた。何を話しているんだろう? 心配な私はそっと席を立ち、ドアの隙間から覗いた。


 どうやら私はゲームのやり過ぎで妄想と現実の区別がつかなくなった、可哀想な子らしい。『きょげんへき』というものももっているらしい。授業中によそ見をしたり居眠りをしたりの常習犯という、どう考えても今は関係のない告げ口っぽいことまで話していた。


「今日の放課後、家庭訪問をします」

「ええ――っ! それは困りますぅ――!!」


 青柳君ちに行く約束をしているんだから!

 これだけは何があっても譲れないの。


「あなたがどう困ろうが関係ありません」

「違うんです、今日だけは許してください!」

「いい加減にしなさい!」

「はうっ」  


 山口先生は両手で机を叩いた。




 午後の授業は最悪な気分だった。山口先生は何度も指してくるし、雨霧はチラチラ私を見てくるし……


 そして運命の放課後がやってきた。私は家へダッシュした。下校班の子達にはお腹が痛くなったと嘘をついて、全力で走った。家に上がると、ランドセルの中身をぶちまけ、プレストとVRゴーグルを詰めて、玄関に向かう。そこでお母さんとばったりと出会った。


「お、お母さんお仕事はどうしたの?」

「……山口先生から電話があったのよ、これから家庭訪問ですって」


 うっ、先生……行動が素早い!


「あんたまた授業中に居眠りとかしたの?」

「さあ~、私には何のことだか~?」

「まあ、お母さんもあんたの学校での様子をいろいろ聞きたかったからちょうど良かったわ。さあ、客間の片付けを手伝ってちょうだい」

「お母さんごめんなさいっ! 私、どうしても青柳君ちへ行かなくちゃいけないの。帰ってきたらいくらでもお話するからっ!」


 私は玄関からするりと抜け出して、駆け出した。

 背後からお母さんの怒鳴り声が聞こえてきた。

 

 青柳君ちにお呼ばれされた。だから私は青柳君の家に行く。

 これは何人たりとも止めることは許されないのだ! 


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