たとえこの瞬間に世界が滅んでも
「あ、あの……どうしてゲーム機を……? あっ、青柳君の家でゲームをするのですね!?」
「ふふっ、ちが~うよっ!」
青柳君はいたずらっぽい感じで笑った。
「つぐみちゃんにとって、プレストとVRゴーグルはただゲームをする機械じゃないよね?」
「うっ……」
「というより、VRゴーグルを装着してもゲームは始まらないでしょ?」
青柳君はちょっと鋭い視線を向けてきた。
すべてを見通すような澄んだ瞳で私を見つめているの。
「魔王、いるんでしょ?」
「うぐっ!」
やはり、青柳君にはすべてを見通す力があるんだ。
彼は本当に王子様なのかもしれない。どこの? 星の? いいえ、私の王子様なのだ!
「さすがでございます、王子さまぁ~」
私はひれ伏した。またしても土下座みたいな感じになってしまった。
「えっ、王子様? ぷっ、キミは本当に面白い子だね」
青柳君に笑われてしまった。でも、悪い気はしないの。
「実は僕のプレストの中にもいるんだよ、魔王のお友達がね!」
「はっ……そうなんですか? 魔王さまのお友達がおいでになると!」
「ねえ、その不思議な言葉遣いどうにかならないかな? 僕たちはもう友達以上の特別な関係になったんだからさ」
「はっ、はは~」
私がまた土下座みたいな感じにひれ伏したら、青柳君は苦笑いを浮かべたけれど、そんな表情も素敵なの。
白い歯がキラリと輝いた。
魔王の友達って、どんな人なんだろう? やはりサラみたいな戦士かな? ううん、青柳君のところに来た人だから、魔王やサラとは違ってきっと素敵な人なんだ。
「あっ……」
「ん? どうしたのつぐみちゃん」
「ごめんなさい青柳君。私、魔王さまとは絶交したというか……もう会わないつもりなんです!」
青柳君と特別な関係になって浮かれていた私は、重要なことを忘れていた。どうしよう……このままでは青柳君に嫌われてしまう。
私は昨日の放課後、公園での一部始終を説明した。青柳君はうんうんと頷きながら私の話を聞いてくれた。
「なら、僕も魔王にお願いしてみるよ。もう人間との戦いは止めるようにと。実は僕のプレストにいる魔王の仲間も平和主義者のいいヤツなんだ。きっと協力してくれると思うよ!」
そう言って王子様スマイルで私を勇気付けてくれた。
「ありがどう、あおやぎぐん…… うわぁぁぁん」
感動で涙が止まりません!
青柳君に相談して本当に良かった。
彼は私が泣き止むまで頭をなでなでしてくれていた。
「じゃあつぐみちゃん、また放課後にね」
「はいっ! 帰ったら全力で青柳君の家に向かいます!」
「あはは、全力じゃなくていいから車に気をつけてくるんだよ?」
「はっ、はい! 」
青柳君はイケメンで、しかも優しいの!
しばしの別れを惜しむように手を振り合いながら、私は階段を下りていく。 階段下で待っていた親衛隊っぽい女子たちの歯ぎしりが聞こえてくる。
ふふん、あなたたち私と青柳君の会話を聞いていたのね?
彼女らの前を横切るとき、ニコッと余裕の笑顔を見せつけてやった。彼女らは皆、鬼のような形相で私を睨んできたけれど――
今の私は無敵なの。
たとえこの瞬間に世界が滅んだしても、私は幸せな気持ちで万歳と唱えるわ!
昼休みはもうすぐ終わってしまう。恵子ちゃんたちと遊ぶ約束はすっぽかしちゃったけど、仕方が無いよね。事情を話して謝れば許してくれるよね?
校庭はあきらめて教室へ向かった。すると、教室から出てくる教頭先生にばったりと会ってしまった。白髪交じりの太い眉毛に黒ふちメガネをかけた教頭先生は、目を見開いて私を見た。その後ろには山口先生の姿も……
「山口先生! もしかしてこの子が……」
「そうです教頭先生! この子が問題の日笠つぐみさんです!」
「えっ……?」
私は教頭先生と山口先生に挟まれて、談話室に連れて行かれることになった。




