青柳君に呼ばれちゃった!
5年1組は週替わりで給食当番が交代する。今週の私は食缶を乗せたワゴンを配膳室まで運ぶ係である。
本当は男女一組でやる仕事なのだけれど、昼休みのチャイムが鳴ると同時に男子は全員校庭へ駆け出してしまった。でも、それでいいのだ。私は男子に何も求めないし関わらないことに決めたのだ。
日笠つぐみ11歳、悲哀に満ちた秋を感じています。
「あなた、日笠さん……よね?」
「えっ、あ、はい?」
突然後ろから声をかけられて声が少し裏返ってしまった。
振り向くと、見慣れない女子が立っていた。
「青柳君があなたに用事があるから、この後来てもらいたいんだけど……大丈夫かしら?」
「あ、あおやぎくんですか!?」
完全に声が裏返った。
憧れの青柳君が私に用がある? 何だろう? 青柳君が私に何の用事だろう?
「ねえ、どうしたの? 大丈夫……?」
「あっ、はは、はい。わわわ、ワゴンを持って行ったらすぐに行きます!」
「そう、よかった」
手が震える。足もガクガク。ワゴンの上にのせた食缶がガチャガチャ音を立てている。
「だ、大丈夫なの? 私も手伝ってあげるから」
「あ、す、すみません……」
横顔をちらっと見て思い出した。この人は青柳君と同じ6年2組の人で、体育の時に真っ先に青柳君にタオルを届けていた人だ。
鼻が高くてきれいな二重まぶたで、きれいな栗色の髪の美人。優しい人だったんだなぁ……
「――ったく、青柳君ったらこんな子に何の用事があるのかしら……」
前言撤回。
美人な人は性格が悪いのだ。
タオル美人の後ろについて階段を3階まで上がってきた。
3階建ての校舎はここで行き止まり。この先に屋上に上がる階段があるのだけれど、立ち入り禁止のロープが張られている。そのロープの前に6人の女子がずらっと立っていた。
「お疲れ様でした」
皆が口をそろえて挨拶してきた。一瞬、私にされたのかと焦ったけれど、その相手はタオル美人だった。
「連れてきたわ。通してあげなさい」
「ははっ!」
怪しい秘密の組織みたいな感じだけれど、みんな青柳君にタオルを運ぶ親衛隊みたいな人たちだ。
私は踏み入ってはいけない世界に入ろうとしているのかもしれない。
普段は使われていない階段にはホコリが積もっていて、上履きが滑りそなので私はゆっくり階段を上がっていく。
背後から『なんで青柳君はあんな子に……』とか『全然かわいくない子じゃん……』とか聞こえてくる。それを聞いた私は胸がドキドキしてきた。
私、青柳君に告白されるの?
膝がガクガクしてきた。しっかりしろ私! 膝を思いっきり叩いたら何とか収まった。おまけに、思った以上に大きな音が出たので親衛隊っぽい女子達のうるさい声が収まってくれた。
私の憧れの君、青柳翔真くんは、屋上の扉の前に腰をかけていた。




