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人間、動物、モンスター

 ここは荒廃した超高層ビルが立ち並ぶ大都市。信号機は根元から曲がり、道路の道案内の標識が交差点の真ん中に落ちている。

 超高層ビルの窓にはヒビが入り、その上の方には白い霧がかかり、どれくらいの高さがあるのか想像すらできない。

 大きな道路の所々に壊れた車が放置され、黒い煙を吐いている。


「さあ、始めましょう! 今日は負けませんよ!」

「ふふっ、それはどうかな。つぐみの支援魔法もそこそこには役に立つようになってきたからな。今日のオレ様は負ける気がしないわい!」


 サラと魔王は肩をぐるぐる回して、これから始まる模擬戦を心待ちにしているみたい。


「エンチャント・ロングソード!」


 雨霧はコントロールパネルを操作すると同時にカッコ良く叫ぶ。

 すると、サラと雨霧の手に銀色の両刃の剣が出現した。


 私は――


「……どうした、つぐみよ。早く魔法のステッキを出せ!」

「魔王さま……」

「ん? なんだ?」

「今日は止めませんか?」


 私は魔王に言った。


「はあ~!? 小娘の分際で何を言っちゃってんの~? 魔王さま、やはりこの小娘は――」 

「どうしたと言うのだ、つぐみ……?」


 サラは剣を持った手をぐるぐる回して激怒しているけれど、それには目もくれずに魔王は私のところへ歩いてきた。


 ずるいよ魔王さま。

 あなたは時々、優しい言葉をかけてくる。


 魔王が私の頭に手を置いて、うつむいた私の顔をのぞき込んできた。

 その時――


「魔王さま、私たちは先に始めていますからね! タッ君、戦闘開始よ!」

「エンチャント・ターゲットオープン、逃げ惑う観衆!」


 待ちきれないとばかりに、サラと雨霧が動いた。


 荒廃した都市ステージ上に、半透明の青い光の標的が無数に現れる。その一つ一つは人間の形をしていて、やがて道路上を歩き始める。まるで意思を持った人間のように……


「じゃ、派手に行くわよぉ――!!」


 サラが歩く人々に斬りかかっていく。一振りで4体を切断。標的の残骸は空中に光の霧となって消えていく。


『ウワァァァ……』


 標的たちの叫び声が上がり、一斉に逃げ始める。小さな標的――子供の形をしたモノが路面に転び、その子のお母さんらしき標的が駆け寄っていく。その二体をサラがまとめて斜めに切り裂いた。


「いやぁぁぁ――……」


 私は目を覆いその場に泣き崩れてしまう。


「一体どうしたというのだ? これはただの模擬戦だろう、今までも何度もやってきた事だろう?」


 魔王は私がなぜ泣いているのかが分からないみたい。


「魔王さま、今すぐやめさせてください! 酷すぎますよ、こんなの!」


 私は魔王のマントにすがりつき訴えた。しかし、魔王はきょとんとした顔をしている。


「何が酷いのだ?」

「相手は人間じゃないですか!」

「確かに人間の形はしておるが……つぐみよ、おまえは標的が動物やモンスターの時には喜んで戦闘に参加していたではないか?」

「だから、それは人間じゃないから……」


 私は魔王の顔を見上げた。

 魔王はすこし困ったような表情をしていた。


「オレ様は……どうだ? つぐみにはどう見えている?」


 それは、どこか寂しそうな表情にも見えた。


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