VR魔王出現!
『今だけ0円! 面白いゲームのダウンロードはこちら!』
スクリーンに映し出された文字。
その下に、赤いボタンが点滅している。
何これ?
0円って、タダということ?
ボタンの隣にはタイマーが表示されていて、残り15秒で権利が他の人に移ってしまうことを知らせている。
どうしよう。
一度入れてみて、面白くなかったら消せばいいかな?
刻々とカウントダウンは進んでいき、残り時間はあと5秒というところで私は赤いボタンを見つめた。
パンパカパーンというファンファーレと共に、周りが急に明るくなる。あまりにも明るすぎて私は目をつぶった。
眩しい光が収まってから、そっと目を開けると、そこはお兄ちゃんの部屋だった。
ゴーグルが外れちゃったのかと思って顔に手を当ててみると、ゴーグルを付けている感触が手に伝わってきた。
私は立ち上がって辺りを見回す。ベッドと勉強机、そしてお父さんからのお下がりのパソコンラック。プレスト6の青い光がゆっくりと点滅している。
やっぱりここはお兄ちゃんの部屋だ。ここはゲームの中のはずなのにどうして?
階段を上ってくる足音がする。
お兄ちゃんがもう帰ってきたの?
私が勝手にゲームをしているのが見つかっちゃう?
私は焦っていた。
でも、もう逃げ場はない。
ドアが開いた。
「はあっ!? おまえ、まだガキじゃねーかよー」
ドアから顔を覗かせた顔色の悪いおじさんが、私を見るなりそう言った。おじさんの声は低いガラガラ声。
「ったくよー、よりによってこんなガキに呼ばれちまうとはよー……」
おじさんはペッと唾を吐いた。
黒いマントを羽織った変なおじさん。頭に被っているのは帽子ではなく動物の頭の骨みたい。2本の大きな角と4本の小さな角が生えている動物の頭蓋骨。何の動物かなぁ……
「あのう……おじさんは誰です?」
「ああ? オレ様が誰かだとー?」
おじさんはまたペッと唾を吐き、がに股歩きで部屋に入ってきた。
背が高く、2メートルぐらいありそう。
おじさんは私の目の前に来て、吊り上がった目で私を見下ろしている。
「あのう……」
「オレ様は魔王さー!」
「ま、魔王……ですか? VR魔王!?」
「ただの魔王でいい。いや、魔王様と呼ぶがいい! この下僕民がっ!」
「そういう設定なのですか」
「ああ? 設定だとー?」
私は理解した。このゲームは『VRお姉さん』と同じようにVR魔王と遊べるゲームなのだと。
「じゃあ、まずはトランプから……」
「ああ? なに言っているのだこの下僕民がっ!」
「そういうお決まりの会話はいいので、トランプで遊んでよ」
「遊ばねーよ!」
「……遊ばないの?」
「ああ」
「……」
私はVR魔王のおでこをじっと見た。
「オレ様に惚れたか?」
「あれ? おかしいわ」
いくらVR魔王のおでこを見つめてもメニューは出てこなかった。
「どうしたー? オレ様に惚れても無駄だぞー、下僕民の娘よー」
「あなたを消そうとしているのだけれど?」
「はあーっ!? おまえ何いっちゃってんのー? オレ様を消すだと?」
「そうよ、私と遊んでくれないなら消すわ!」
どうせすぐに削除するつもりでダウンロードしたアプリだもの。消し方さえ分かればずくにでも消してしまおう。
「いや、ちょっと待てー! この世界ではお前のような下僕民の娘にもその様な力があるというのか?」
「当然よ!」
削除ボタンが見つかれば誰でも消せるもの。
「わわわ、分かった。そのトランプとやらを持ってこい!」
「遊んでくれるの?」
「ああ、その代わり、遊んだ後はオレ様の命令を聞け!」
「分かった」
「よーし、契約成立だ――!」
VR魔王はガッツポーズで喜んでいた。
現実の世界とVRの融合。
いわゆるARという技術と同等のものと考えてもいいかもしれません。