魔王奪還計画!?
ドアをノックすると、中からお兄ちゃんの声がした。
「お兄ちゃん、入っていいかな?」
「今勉強中だ!」
「そこを何とかっ」
「……どうぞ」
「えへへ……」
お兄ちゃんはベッド脇の机に向かって、本当に勉強中だった。
私はちらっとパソコンラックの足元を見る。いつものようにバスタオルを被せられているプレスト6とVR7.5を確認した。
「何の用?」
「えっと……ゲーム機とゴーグルを貸して欲しいなって……えへへ」
「ダメだ!」
「やっぱりィィィ――!?」
恐れていた通りの反応に、つい叫んでしまった。
「分かっているなら聞くなよ! 俺は勉強しているんだから!」
「そこを何とか! もうお兄ちゃんの入れたアプリを消したりしないから」
「うおぉぉぉ――ッ!」
お兄ちゃんが突然立ち上がって雄たけびを上げた。
『VRお姉さん』というアプリを消した後、私は異次元と繋がり魔王と出会った。それからというもの、私にとっては魔王と出会う専用のゲーム機となっているけれど、私以外の人にとってはただのゲーム機。だからお兄ちゃんはあの事件の後もゲームを普通に使っているのだ。
「ミルクさん――」
という名前はお兄ちゃんにとってはキラーワード。頭を机にがんがんぶつけ始めた。
「――のことはお父さんとお母さんにはまだ話していないよ?」
「つぐみ……」
「ん?」
「おまえは何か勘違いしているかも知れないけれど、おまえの見たあのアプリは決してエッチなものではないぞ?」
「そだねー。分かっているよー!」
「そうか……分かっているならいい。しかし、小学生のおまえにはVRゲームは早すぎる。下のテレビに繋いで無料ゲームをするぐらいならやってもいいぞ……」
「わあー、ありがとう! お兄ちゃん大好き!」
「分かったらさっさと持って行ってくれ……」
お兄ちゃんはきっとまたあのアプリを入れ直したに違いない。でも、大丈夫だよ。私がVRゴーグルを被ったら強制的にVR魔王が現れるだけだから……私にとってはこれはもうゲーム機ではないのだ。
お兄ちゃんが机に向かったのを確認して、ランドセルにゲーム機本体とゴーグルを入れてふたを閉じる。
「じゃ、行って来ます!」
「ああ、行ってらっしゃい……って、どこに?」
「あっ……えっと、下のテレビの前に、あはは……」
こうして、私はお兄ちゃんの部屋からゲーム機一式を運び出すことに成功したのである。




