初めてのダイレクトリンク
「魔王さま、最初に言っておきたいことがあります!」
「ん!? どうしたつぐみ」
「魔王さまの書き込みのせいで、私の生活がピンチです!」
「個人情報の流出の件か?」
「流出どころか、垂れ流しです! 魔王さまが私の個人情報を垂れ流しました!」
「うむ、確かにつぐみの名とこの家の住所については、インターネット上に拡散している。しかし、それがどうしたというのだ。つぐみはオレ様と共に世界征服を目指す女であろうが!」
「うっ……」
魔王は私の眉間にビシッと人差し指を当て、迫力のある声でそう言った。怖い……助けて……
「あ……雨霧……」
人は本当の恐怖を感じると声が出せないということを知った。ようやく絞り出すように彼の名を呼んだのに、当の本人は部屋の中を走り回ってふざけていた。
「雨霧――っ! 私を守ってくれるって言ったのにぃ――!」
怒りの感情がこみ上げてきて、声を張り上げることができた。それを見越して彼がふざけているとしたら相当のものだけれど、アイツはただの変人だ。
「づくみ、あの怪しい少年は何者だ?」
魔王、あんたがそれを言う? あんたの方が余程怪しいのよ?
変な動物の頭の骨を被ってるし、黒いマントだし、オジさんだし。
でも、口が裂けてもそんなこと……言えないっ!
「あれは私のクラスメートです」
「クラスメート? そうか、雲雀小学校5年2組の仲間か」
「はあっー? 魔王さまがどうして私の学校名とクラスまで知ってるのー?」
「ほれ、ここに書かれているぞ!」
「ぐは――ッ」
見事に晒されていた。
住所と名前を書き込んだのは魔王なのに、みんな私のイタズラだと思っている。『バカな女がここにいるぞ、晒してやれ、ヤッホー』って感じに皆が私のことを調べて掲示板に晒しているのだ。
もう……隠し切れないよね……。私はその場に崩れ落ちた。
「どうした日笠!? 魔王に何かされたのか?」
私の異変に気付いた彼が駆けつけてきた。
「遅い! 雨霧遅いよ! 私の心はもうボロボロだよっ! 私を放っておいて一人でふざけて走り回るなんて酷いよ! 雨霧酷い!」
「オレはふざけていた訳ではないけど、悪かったな日笠。オレのほうはもう大丈夫だ。それで、魔王はこの部屋にいるのか?」
彼は周りをキョロキョロ見回すそぶりを見せた。
「雨霧には見えていないの? 魔王……さまはこのイスに座ってアンタを見ているよ?」
「まだ見えるわけないよ。これを繋がなくちゃ!」
と言って、ランドセルの中から一本のケーブルを取り出した。長さ50センチぐらいの青いケーブルで、両端に透明なコネクタがついている。
「それは……?」
「LANケーブルさ。まずオレのプレスト6に片方を挿して、もう一方の端子をおまえん家のプレスト6に挿すんだ。ほらっ!」
雨霧はコネクタ端子をお医者さんの聴診器のような持ち方で私に向けてきた。
ここで躊躇っても仕方が無いので、私もゲーム機本体を持ち上げ、背面を彼に向けた。
「よし、挿すぞ!」
「はっ、はい!」
50センチの短いケーブルを挿すだけなのに、初めての体験に私の手は震えていた。
「ダイレクトリンク――!!」
雨霧は叫んだ。戦隊ヒーローが技名を叫ぶようなテンションで。
これが私と彼の、初めてのダイレクトリンクだった。




