エピローグ
リチャードと名乗った獣人の大剣を受け止め、イグニスは少年の顔を見る。
(リチャード?リチャード・ウェイカー…ウェイカーだと?)
サベッジ村においてジョルジュ・レーガンと並ぶ英雄として名高い騎士、リチャード・ガーフィールドと同じ名前を持つ少年。
さらに、かつてのセイレン内乱に派遣され、大きな戦果を上げた眼帯の騎士と同じウェイカーの姓まで名乗っている。
イグニスはまさかと思いながら、そう考える頭を必死で振り払った。
(余計な事を考えるな!こいつは強い!!気を抜けば負ける!)
事実、獣人の少年はイグニスを押していた。
大剣の一撃を受ける度、イグニスの身体に大きな衝撃が走る。
(クッソ!重い!)
少年のしなやかな体躯から繰り出される剣戟は、信じられない程の威力を見せつける。
(だが!俺だって!!)
これまで培ってきた経験を活かせ!
実戦の経験は少なくとも、模擬戦では幾多の強豪とやりあっている!
その全てをここで、出しきれ!
イグニスの剣が、リチャードの大剣を防ぐのではなく、受け流すように動き始めた。
リチャードも状況の変化に気付くが、既に場の空気はイグニスが支配する逆転状態になっていた。
「あんた!さっきのおっさんより強いんじゃないのか!?」
リチャードの軽口を無視して、イグニスは渾身の一撃を突き出した。
大剣を盾にその突きから身を守るリチャード。
イグニスはその上から更に強烈な蹴りをお見舞いし、リチャードを押し出した。
「なっ!とととっ!うわっ!」
リチャードが武闘台から転げ落ちる。
「はぁ、はぁ、はぁ…俺の…勝ちだな」
武闘台からリチャードを、見下ろしながらイグニスが声をかける。
ひっくり返ったままのリチャードは悔しそうに顔をしかめ、「あーくそぅ!悔しいなー!」と、まるで無邪気な子どものように悔しがっていた。
イグニスは倒れたリチャードに手を差し出し、掴むように促した。
「イグニス・ティーガーだ。ブロンズ王国騎士団所属、この武闘大会の警備任務を担当していた」
ついでに名乗っておく。
リチャードはばつの悪い顔をして、躊躇いながらもイグニスの手をとった。
「…リチャード・ウェイカーだ。ここからずっと遠くのリーフって所から来た」
再び名乗った獣人の少年わ見て、イグニスの胸がドクンと高鳴った。
「…つかぬことを尋ねるが、君のご両親はもしかして…」
リチャードの胸元から、ネックレス状に加工された石の小刀が零れ落ちた。
完
これにて一応の幕引き。