第5話 王都/再会
前回の続きになります。
村が襲撃されたあの夜。俺、ジョルジュ・レーガンとその家族(父、母、弟、弟)は、いち早く村を逃げ出していた。
レーガン家は村の一番北側、つまり王都に通じる北の街道に一番近い場所に立地していた為、襲撃者たちがたどり着く前に逃げ出すことができたという訳だ。
だが、俺はこの行いを今でも後悔している。村を守るために襲撃者と戦って死んだ村人もいたと、後から聞かされた時、俺は酷く自分を恥じた。
それは父や母も同じだったようで、家族は王都での暮らしを選ばず、ブロンズ王国を出て、西のセイレン国に移り住んでしまった。
俺?俺は王都でやりたいことがあったから、家族と離れて一人王都に残っているんだ。
この国では14歳を迎えれば一人の大人として扱われる。だから俺は、14歳の誕生日のその日に、王国騎士の登用試験を受けたんだ。
試験に受かった俺は、今は騎士見習いとして、王都の警備隊に所属しているのさ。
見習いを3年経ると、一人前の騎士として認められるんだ。だから、あと2年もすれば俺も立派な騎士というわけさ。
「わかったかルーカス?」
「3年ぶりに再会するなり、いきなり身の上話を聞かされて、相変わらずだなあんた」
ゲッソリした表情でルーカスが言う。
「いやあ、懐かしさのあまりついな、つい」
そういうジョルジュの顔は、まるで気にするなと言わんばかりに笑っている。
ルーカスは、ジョルジュ・レーガンがこういう奴であったということを思い出してきた。
思えば、昔からジョルジュは人の都合などお構いなしに絡んできていた。
「ジョルジュ、あんたとまた会えたのは嬉しい。だけど俺は今はぐれたツレを探してるんだ。だからごめん、またな」
早口で告げ、そそくさとその場を去ろうとしたルーカスであったが、ガシッと力強く肩を掴まれてしまった。
「ルーカス、せっかくの再会だ。俺がツレ探しを手伝ってやろう。な~に、任せとけ。この辺りはよく見回りに来ているから、道にも詳しいぞ」
頼んでもいないのにズケズケと踏み込んでくる。ジョルジュ・レーガンの悪い癖であった。観念したルーカスはハァ~と大きな溜息をついて、ジョルジュの方に向き直る。
「もうあんたの好きにしてくれ。よろしく頼むよ、ジョルジュ」
「おう!ついてきな!」
ニカッと笑顔でジョルジュは答えると、ルーカスの肩を掴んだままズンズン人ごみの中に身を投じて行った。引きずられながらルーカスは、もうどうにでもなれと投げやりな気分に浸っていた。
一方その頃、迷子の獣人ステラは、偶然出会った親切な少女サラ・ミラーに案内されて、次々と買い物を済ませていた。
「あの、ありがとう。買い物まで手伝ってもらって」
「気にしないで。性分なの」
はあ、とステラは親切な少女を見ながら思う。綺麗な服を着ているこの人は、きっと由緒ある身分の出なのだろう。偉い人というのは、誰にでも優しいものなのだなと、ステラは勝手に少女を賞賛していた。
由緒ある身分の出でもなく、勿論偉い人でもないサラは、内心どうしようと困っていた。
泣きじゃくる獣人の少女をなだめながら、買い物に来て迷子になったということまでは聞き出せたが、そこからは何故か買い物に付き合って、人探しどころではなくなっていた。
商人の娘の性か、と一人納得しているサラであった。
「そういえば、あなたのツレの名前ってなんて言うの?」
一番大事な事を聞きそびれていたと、サラは気付く。探す相手の名前も分からず、どうやって探すというのか。
自分の馬鹿さ加減に、いい加減サラが嫌気をさしていると、
「ルーカス・・・」
何やら知った名前が、獣人の少女の口から放たれた。
「そういえばルーカスよー。サラとはもう会ったのか?」
「サラ?いや、会ってないな。この3年、村の人とは誰とも会ってないんだ」
「ふーん」
唇を尖らせながら、ジョルジュが唸る。
ジョルジュは再会した幼馴染の、さっきからの淡白な反応が面白くなかった。また会えて嬉しく思っているのは自分だけで、もしかしたらこの男は村の者とは会いたくなかったのかもしれない。彼は、それほどに辛い体験をしているのだから。と、思案していると、唐突にルーカスが口を開いた。
「今まで、村の生き残りと会うのはなんか気まずくて嫌だなって思ってたんだ。だけど、ジョルジュと会って、こうして話せて、やっぱりいいなって思えたよ」
そう言うルーカスの顔は、3年前のあの頃のようにキラキラと輝いていた。
その顔を見て、ジョルジュも自然と笑みがこぼれる。どこか変わってしまったのかもしれないと感じていた幼馴染は、あの頃と同じように、眩しい笑顔を放てる最高の友のままだった。
目頭を押さえるジョルジュを見て、ルーカスは自分が行った台詞が案外キザだったなと思い始め、赤面していた。
「なに男二人でニヤついてんのよ。気色悪い」
浸っていた二人が、現実に引き戻された。
「こっちはめちゃくちゃ悩んで、一生懸命、人探しをしてたっていうのに、いざ見つけてみた、どういうことよ・・・納得いかないわ!!」
眉間に皺を寄せたサラが、ルーカスとジョルジュに詰め寄りながら凄む。
「よ、よおサラ。久しぶり。学校の帰りか。元気そうでなによりだ」
「・・・サラ?あのちんちくりんだった?」
フォローをしようとしたジョルジュだったが、隣に立つ無神経バカのおかげで、サラの怒りは頂点に達したらしかった。
「・・・・・・・・・」
無言のサラが放つプレッシャーに、さすがに身の危険を感じたルーカスは、ジリジリと少しずつ後ずさりして、サラとの間に距離を取る。
と、怒りに身を震わせるサラの後ろに、ピョコんと特徴的な耳が垣間見えた。ルーカスは先ほどのサラの言葉を思い出し、なるほどと納得する。
「ステラ!サラと一緒だったのか!」
「う、うん。サラちゃんに買い物も手伝ってもらったの」
憤怒の化身のようにドス黒いオーラを放つサラを挟んで、ルーカスとステラは会話を続ける。
「あ、あんた達・・・人を無視して、いい度胸じゃないのー!」
ついに堪忍袋の緒が切れたサラが、ムキーッと怒りをあらわにする。いや、先程から既に顕になっていたが。更に怒りを表出させ、ルーカスを睨むつけ、ついでにジョルジュを睨みつけ、歩を進める。
「ステラ、逃げるぞ!」
「えっ、待ってよルーカス!」
「ああ!ちょっと待ちなさいよ!あんた達止まりなさーい!!」
逃げ出した二人を追いかけるサラ。そんな光景を見てジョルジュは、なんだか昔みたいだなと、郷愁にふけていた。
「ちょっとジョルジュ!逃げられたじゃないのよー!!」
ボリューム少なめです。