最終話その7
先遣隊がニューブロンズ王国に向けて出立する直前、ルーカスは王城のルーナシア・エルメスターに拝謁していた。
「まさかステラさんが直接乗り込んできて、宣戦布告までしていくとは」
カップに注がれた紅茶を飲みながら、聖女から王妃になったルーナシアは優雅に語った。
「国王陛下はたいそうご立腹だったわよ」
ルーカスは何も喋らない。
「貴方の目的を果たすには、少々状況が悪くなったのではなくて?」
フフフと、ルーナシアは悪戯に頬笑む。
「まあでも、手がないわけではないのでしょう?いいんですよ?貴方がそれを実行してくれれば、こちらも事を運び易くなるわけですし」
紅茶を含んで口を湿らせる。
「ニューブロンズから西側に進むと、小国郡があるはずです。ニューブロンズ経由で行った方がいないので、辿り着けるかは分かりませんが」
「十分です」
ルーカスは一礼して部屋を後にした。
一人になったルーナシアは、カップの縁に愛しげに触れた。
「それだけ想われるステラさんが、少し羨ましいですね」
時は戻り、ニューブロンズ王国王城内。
玉座の間で対峙しているルーカスとステラ。
ルーカスを照らしていた月光は、いつの間にか消えたいた。
空が白んでいることに、二人は気が付いていなかった。
「俺と一緒に来てもらう」
「私にこの国を見捨てて行けと言うの?」
「元々そのつもりだったんじゃないのか」
「それは…だけど!」
「このまま残っても、悲惨な末路しかないんだぞ!」
「覚悟の上よ!ここに来たときから、全部!」
「この意地っ張りが!」
「ルーカスだって!そんな無責任な事を言うヒトじゃなかった!」
いつの間にか口論となり、お互いの口調も昔のように戻っていた。
ただ、かつての二人はここまで激しい言い合いをした事はなかった。
どこかに相手に対する遠慮があったのだが、今の二人にはそんなものなかった。
「この国のヒトも獣人も、みんな生かすとルーナシアは約束してくれたんだ」
「ルーナシアさんとそんなに仲良くなったんだ!」
「それは今、関係ないだろう!」
「あるよ!結局ルーナシアさんの企み通りって事じゃない!ルーカスだって、あのヒトと」
ステラがその先を口にする前に、強引にルーカスが口を塞いだ。
自分の唇を重ねて。
「!!!」
目を見開いて、ルーカスの肩を掴むステラだったが、強く抱き締められ逃れることは叶わない。
ルーカスの肩を掴んでいた手は、ゆっくりと更に奥、背中に回されていった。
二人は抱き合うような姿勢になり、長い時間、互いの唇を重ねたのだった。
「君の事だけを考えてきた。どうすれば迎えに行けるのか、ずっと」
「ずっと会いたかった。ずっと、ずっと…」
そして再びキスをした。