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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
最終章
54/60

最終話その3

すっかり遅くなってしまった。

「アズール隊長が…負けた」

横たわるアズール・フェンリル・ウォーカーにすり寄りながら、リリーナ・フェンリル・ロハスは信じられないという顔をしていた。両の目の端には、うっすらと涙も浮かべていた。

「アズール隊長…」

「随分、無理を押していたようだった」

遺体となったアズールと、それに寄り添うリリーナを見下ろしながら、ルーカスは肩で行きをしていた。

先程までのアズールとの剣戟で、ルーカスは自分でも驚くほど消耗していた。だがそれとは逆に、自分がアズールに勝てた事にも驚愕していた。

故郷の村が襲われた夜、身を隠して家族の断末魔を聞いているしかなかった自分が、仇であるアズールに勝利した。

剣の師であるリチャード・ガーフィールドを殺した、あのアズールに勝利した。

傍目には分からないが、ルーカス・ウェイカーはこれまでの人生で味わった事のない高揚に包まれていた。

だからこそ、気付くことができなかった。

普段の彼であれば、眼帯の騎士と呼ばれ戦場で数々の武勲を上げた彼であれば、避けられた一撃。

復讐の宿願を遂げ、ほんの一瞬だけ“ただの”ルーカス・ウェイカーであった彼は、反応に遅れてしまったのだ。



リリーナ・フェンリル・ロハスは、自身が獣人であることに誇りを持っていた。

それは彼女の愛する父の聡明さから、その父が仕える剣士の勇猛さから、彼女自身が感じとり、己のしるべとしていた誇り。

いつか彼らのように、誇り高い獣人になりたいと、そうありたいと幼少の頃から願い続けていた。

だからこそ彼女は、父グレゴリー・フェンリル・ロハスが連れ帰った聖女ステラと同じ名前の少女に仕えることを選んだ。

人間の王に支配され、獣人が虐げられるこの国を変えてくれる存在。それが彼女にとってのステラであった。

そんな彼女を守るアズールに対して、リリーナは父グレゴリーとは異なる父性を感じ、憧れていた。

アズールの強さは、彼女のしるべ

そのしるべが、自分がのこのこ案内してきたヒトに殺されてしまった。

未だ未熟な少女には、その事実だけで十分だった。



脇腹に熱を感じながら、ルーカスは全力で剣を振り下ろした。今の彼には、それだけで精一杯だった。

反応に遅れ、気付いたときには脇腹に喰らっていた一撃。

ここまで自分を案内してきたリリーナ。彼女はステラの命令に従っていただけの事。

目の前で同胞が殺されれば、逆上するのも当たり前だ。

ルーカスの頭は以外にも冷静に、落ち着いていた。

身体を走る痛みにただ反射して、敵を殲滅する為に闘い続けた彼の肉体は、己に仇なす眼前の標的めがけて剣を振り下ろした。










ニューブロンズ王国女王ステラ・ニューブロンズは、真っ暗闇の玉座の間でただ一人佇んでいた。

毎夜、寝室を抜け出してここに立つ。

彼女がニューブロンズ前王を打倒し、新たに王となったその日からの密かな習慣であった。

いつもなら、玉座の後ろのステンドグラスから月明かりが差し込むが、今宵はどうにも届かないらしい。

雲が多いなと思いながら、ステラは玉座に腰掛ける。

彼女が座るには一回り大きいそれは、歴代の王がそこにあった証である。

ステラは目を閉じて、ここに至るまでの道程を振り返る。

ルーカスと別れてニューブロンズに来てから、色々な事があった。

その間にセイレンの内乱が終息し、その機に乗じてステラ達革命派が前王を退けてニューブロンズを掌握した。

その為に流れた血はあまりに膨大で、ニューブロンズの国力は大きく傾いてしまっていた。

アズールとリリーナを連れ立って、無理矢理にブロンズ王国へ潜入したのは、考えあっての事だった。

紆余曲折したが、概ねうまくいきそうではあった。

大胆にも、ブロンズ国王の目の前で宣戦布告をしたのだ。

きっと、もう既に兵が派遣されているだろう。

そして、また戦争が起きる。

そこで自分が撃たれれば、ブロンズの勝利で戦争は終わり、ニューブロンズはブロンズ王国に併合されるだろう。

そうすれば、緩やかに滅びに向かうこの国を、救う手だてになるかもしれない。

だから…

「早く来て」と、ステラは声に出して祈った。



繋ぎのお話。

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