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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
最終章
52/60

最終話その1

第51話。

 深い森を抜けた65人の騎士団は、眼前に広がる平野を眺め、心を震わせた。そこにあるのは、自分たちの国と変わらない、人の営みを感じさせる風景だった。田畑が広がり、家屋の建築様式はブロンズ王国やセイレン王国の一般的なそれと変わらないものだった。

 「これが獣人の国なのか・・・」

 騎士団を率いるルーカス・ウェイカーは、その眺めを目に焼き付けながら、己の受けた感動を口に出していた。

 「そうよ。これがニューブロンズ王国。私たち獣人の楽園よ」

 ここまでの道案内をしてきたリリーナ・フェンリル・ロハスが、胸を張って言った。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 「お前、泣いてるのか?」

 「泣いてない!目にゴミがはいっただけだ!」

 気遣うルーカスにそっぽを向いて、リリーナはグシグシと袖で涙を拭った。無事に故郷に戻り、またこの景色を見ることができて、リリーナは感無量だった。ブロンズ王国でルーカスに捕まった時はどうなる事かと思ったが、敵の捕虜となり、敵を自国まで案内する羽目になりながらも、こうして帰ってくることができた。帰りたかった。弾む心がリリーナの身体を自然と動かし、彼女は駆け出そうとしていた。

 「ほら、早く行こう。この先に隠れて休むのにいい場所があるんだ」

 「ちょっと!そんな急に走ると!」

 「え?うわあ!」

 バッと駆け出したリリーナは3歩目で盛大にこけてしまった。リリーナは自分の腰に巻かれた縄の事をすっかり忘れていたのだった。

 「・・・痛い」

 「だから言ったのに・・・」



 リリーナの案内で、一行は静かな湖畔で休憩していた。

65人の騎士たちは澄んだ水で顔を洗ったり、手ぬぐいを湿らして身体を清めたりしている。

 「ここは王家が儀式で使う湖だから、周りの村の人たちも近寄らないんだ」

 水際に座り込み、雫の滴る髪をときながらリリーナが言った。

 「番をする者はいないのか?」

 そんなリリーナの身体に巻かれたロープの先を持ったまま、ルーカスは寝っ転がって疲れを取ろうとしていた。

 こいつ、いくらなんでも気を抜きすぎだろうと、なんだかんだ騎士の端くれであるリリーナは思ったが、黙っておくことにした。

 「前の王様の時はいたよ。でもステラ様が即位してからは廃止された」

 「なぜ?」

 ステラという単語に、ルーカスが露骨に反応する。上体をゆっくりと起こしてリリーナを静かに見つめた。

 「結局、ここの番人に派遣される奴って、前の王様に近しい貴族の子息とかだったのよ。で、そいつらが周囲の村から税を徴収していたの」

 「それだけなら、ブロンズ王国やセイレン王国でもよくある話だと思うけど?」

 「前の王様は獣人じゃなくてヒトだったの。だから、派遣される番人もヒトで、獣人の村から不当な税を徴収していた。ここまで言えば分かる?」

 早口でまくし立てたリリーナは、苦虫を噛み潰したように不快そうな顔をしていた。

「よーく、分かった。でも、その話って、やっぱりまるっきりブロンズやセイレンと」

「分かってる!まるっきりおんなじだって、よく分かってる。獣人の楽園だって言えるのも、ステラ様が女王になってからだし。ヴィクティム王の頃は、獣人に居場所なんてなかった」

 まだ濡れたままの髪に顔を埋めるようにして、リリーナは消え入りそうな声で言った。



 休憩をしている間に、森を抜けて来た後続の騎士たちが合流した。目印を残しておいてよかったと、騎士たちは喜んだ。

 湖畔で一晩明かした後、騎士団はニューブロンズの中心部、王都に向けて出発した。

 騎士団がブロンズ王国国王から下された命令は「ニューブロンズ王国への潜入調査」だが、ルーカス・ウェイカーには別の目的があった。

 聖女ルーナシア・エルメスターが彼に課した使命、それは「ニューブロンズ王国女王ステラの暗殺」だった。

 騎士団の出発前、ブロンズ王国王城の一室で、ルーカスはルーナシアに全てを話した。

その上で、二人はある約束をした。

ルーカスはステラを殺し、ルーナシアはこれから先いかなる理由があろうとも獣人を殺さない。

それが二人の交わした契約であった。



 「さあ行こう諸君。目指す王都は目と鼻の先だ」

 ルーカスは懐にしまいこんだ父の形見の石のナイフを握り締めた。

 全てを終わらせる為に、ルーカスは前に進む。


足早になりますが、物語をたたんでいきます。

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