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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第四部 サベッジ編
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第50話 戦争/行軍

 眼帯の騎士ルーカス・ウェイカー率いる騎士団は、サベッジ村で一晩明かした後、馬と重装備の鎧を預けて出立した。

 騎士団の見送りに来ていたサベッジ村領主のジョルジュ・レーガンとその妻サラ・レーガンは、戦に向かう幼馴染と静かに語らった。3人の間には、これから戦いに臨むとは思えない程、悲観を感じさせない穏やかな空気が流れていた。

 最後にルーカスとジョルジュが固く手を握り合い、騎士団は森へと潜っていった。





 サベッジ山脈の森は奥に進めば進むほど緑が深くなり、やがて人が立ち入るのを拒むかの様に木々が生い茂ってくる。森全体の湿度が高く、日中はジットリとした汗をかいて体力を奪われる。夜は凍えるほど寒く、騎士団の面々は身を寄せ合って眠っていた。

 見習い上がりの騎士達に、この行軍は過酷だった。最初は150人いた騎士も、出発から5日目で80人に減っていた。脱落した騎士たちは、可能であれば後から追ってくることになっているが、おそらく来ることはないだろうとルーカスは感じていた。

 サベッジ村からニューブロンズまで、獣人の足で約10日かかる。それをヒトの足で進むのだから、14日は見ておいたほうがいい。

 食料は十分にある。しかし、騎士の体力がもたない。

 今日の宿泊地点の準備をする騎士たちを見ながら、ルーカスは頭を抱えていた。


「やはりヒトの足では、ニューブロンズまで辿り着けそうにないな」


 ルーカスの隣にちょこんと腰を下ろし、獣人リリーナ・フェンリル・ロハスは嫌味をたっぷり含んで囁いた。

 ニューブロンズ女王の宣戦布告があった日、逃げ遅れたリリーナは再びルーカスに捕縛され、ニューブロンズまでの道案内を条件に生かされているのだった。

 彼女の腰には縄が巻かれ、その縄の先はルーカスが持っていた。


「俺ひとりでもニューブロンズに辿り着いてみせるさ」


 ルーカスはリリーナを一瞥し、再び思考を巡らせた。


「そうやって考えた所で、貧弱なヒトと強靭な肉体を持つ我々獣人との差は埋まらないぞ」


 ルーカスの顔を横から覗き込みながら、リリーナは勝ち誇った顔をしていた。

 森に入ってからこの調子で、リリーナはルーカスへの恨みを嫌味に変換して、チクチクと復讐に励んでいるのだった。

 ルーカスはルーカスで、リリーナの言うことなど全く耳に入っておらず、いつも適当に聞き流していた。その態度がリリーナの怒りを更に助長させているのだが。


「運良く雨が降らないからいいものを、一雨来ればこんな急造の騎士団すぐに壊滅だ。進行速度を早めるか、引き返すかしないと、そろそろ本当に限界が来るぞ」


 リリーナの言っている事も、もっともだった。山の天気は変わりやすい。だが、今日まで運良く、この一団は雨に遭うことなく進行できていた。だが、今の大欲の限界を迎えているこの一団が雨に降られれば、リリーナの言うとおり、本当に壊滅しかねない。

 ルーカスが頭を抱えているのは、進行速度を早めたいが、そうすることで今までよりも更に脱落者が増えることが予測されるからだった。


「まあ後は、時間はかかるけどもっと進みやすい道を行くか、ね」


 リリーナがルーカスの前に地図を広げ、指を差しながら道順を説明する。


「お前、そういう道があるのなら早く言え」


「仕方ないじゃない。分岐点はもう少し先だし。ブロンズ王国の騎士団って聞いていたから、もう少し骨のある奴が揃ってるかと思っていたんだもの。それがまさかこんな・・・」


「耳が痛いな」


 ルーカスとリリーナは木々から漏れる月明かり頼りに、遅くまで地図の確認をしていた。





 翌日からの進軍は今までよりも緩やかな速度になり、道のりもこれまでより楽な物になった。後から追いついてくるかもしれない騎士の為に、道しるべも残した。

 こうして、予定の14日より遅れ17日かけて、騎士団は森を抜けた。最終的に残ったのは65人だった。

 森を抜けた騎士団は、眼科に広がる景色に圧倒された。

 山の下には畑が広がっており、民家が点在していた。更に先には都市があり、城らしき物も確認できた。

 その光景を見た騎士たちの口からは、歓喜の声が漏れていた。


「美しい国だな・・・」


 ルーカスもうっかり、ここが敵地であることを忘れて口にしていた。


「そうだろう。ここが私たち獣人の故郷。ニューブロンズだ」




第4部、これにて終了。

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