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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第一部 ブロンズ王国編
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第4話 王都/迷子

前回のお話から2週間後。プロローグに登場した子です。

 3年前のサベッジ村襲撃事件の日、サラ・ミラーは王都で行商をしている父について、村を離れていた。


 襲撃事件の夜、宿屋で寝ていたサラは外から聞こえる騒がしい音で目が覚めた。隣のベッドで寝ていた父も起きており、窓から外を眺めていた。サラも父の隣に立ち、窓から外を眺める。

 昼間はこの窓から、故郷の村のある山が見えていた。しかし、その時のサラの目には信じられない光景が写っていた。夜の闇に浮かぶ山の中腹が、赤く染まっていたのだ。

 そして、眼下の街道を王国騎士団が馬で駆けていくのが見えた。


 夜が明けると、父はいつものように行商に出掛けていた。日が傾きかけた頃、父が行商から戻ってきた。いつものように父と二人、簡素な夕食を口にしていると、おもむろに父が口お開いた。

 村が何者かに襲われたこと。多くの村人が亡くなったこと。そして、母が死んだこと。

 サラは最初、父が何か冗談を言っているのだと思った。


「パパ、そんな冗談やめてよ。ママが死んだなんてそんな・・・」


 サラがそう口にすると、父が涙を流しながらこう言った。


「そうだなサラ。ママが死んだなんて、そんなこと、あるわけないもんな」


 初めて見た父の泣き顔は、サラの心に強く刻まれ、まるで小さな子どものように大粒の涙を流す父につられ、サラも悲しい気持ちになってしまった。

 親子は、夜通し涙を流し続けた。


 母の死を受け入れきれないまま、サラは何日も何日も宿屋の部屋に閉じこもっていた。しかしそんな彼女を、自身も最愛の妻を失ったばかりの父が、懸命に励まし支えた。王都での新たな生活を始めるために、ツテを頼ってとある商会に雇ってもらい、朝から晩まで働いた。

 毎日遅くに帰ってくる父を見て、サラは自分が母に替わって父を支えなければと思い始めた。そうして親子二人で支えあい、襲撃事件から3年が経つ頃には、親子は小さな家を借りて住むことができるようになっていた。そして、13歳になったサラは、王都の学校に通っていた。





 学校からの帰り、制服のスカートを揺らしながら、サラ・ミラーは幼馴染を訪ねて、街外れの孤児院に足を運んでいた。これから向かう孤児院には、村に住んでいた頃、サラの家のお隣さんだったウェイカー家の息子がいるのだ。


 父と二人三脚で生活しながら、少しずつ母の死から立ち直りつつあったサラは、ある日、自分が他の村人たちがどうなったのか全く知らないことに気が付いた。

 サラは渋る父に無理を言って口を割らせ、何人かの生き残りがおり、その中にルーカス・ウェイカーがいると知ると、すぐにでも会いたくなった。サラはとても嬉しかった。見知った人が無事でいてくれる。それはとても喜ばしいことだった。サラはすぐにでもルーカスに会いたいと思った。

 だが、父の口からルーカスが家族を失い、天涯孤独となっている事を聞くと、サラは自分が浅はかであったことを思い知るのであった。母を亡くした自分がこんなにも悲しんでいたのだ、家族全員を失ったルーカスの悲しみは計り知れない。

 サラは、ルーカスとどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。

 そうこう悩んでいるうちに時は立ち、結局サラはあの襲撃事件の前に会って以来、もう3年もルーカスと会えないままでいた。

 学校に通い始め、同年代の友人が増え、母のいない寂しさを以前よりも感じなくなってきた頃、サラは唐突に思い立った。

 いつまでもウジウジしていても仕方ない。ルーカスに会おうと。


「こんにちはー」


 サラのよく通る声が孤児院に響いた。





 サラが孤児院を訪ねている頃、ルーカスはシスタークロエからおつかいを頼まれて、王都の商店街に来ていた。

 

「なんで俺がこんなことを・・・。大体こういうのは、同じ女の人の方がいいんじゃないのか」


 ブツクサ文句を言いながら、ルーカスは目当ての店を探していた。


「・・・ルーカスは文句が多い」


 ルーカスの少し後ろから、歩調を合わせてついてくる獣人の少女ステラ。ルーカスが2週間ほど前に森で拾った女の子だ。

 今日は、孤児院で暮らすことになった彼女の身の回りの物を買いに来ていたのだ。

 森で拾った当初は、誰とも何も話そうとしなかった彼女だが、1週間前に孤児院から抜け出し、森で再びルーカスに見つけられて以来、少しずつではあるが院の者たちと話をするようになった。


「そもそもあんたが、シスターと行くのは申し訳ないなんて、訳のわからないことを言うから」


 恨めしそうにルーカスが言うが、当のステラはどこ吹く風だ。

 話をするようになったといっても、まだまだ院の全員とうまく話せるわけではないステラだが、なぜかルーカスには懐いていた。


「ルーカス、あの店にしよう」


「あ、おい!」


 あいつ、すっかり元気になりやがって、ボソッと言いながら、ルーカスの口元には笑みが浮かんでいた。





「ええ!!ルーカス、いないんですか!」


 サラ・ミラーの落胆した声が孤児院に響いた。


「そうなの、今日はちょっとおつかいを頼んでいてね。ごめんなさい」


 初老のシスターが申し訳なさそうに謝ってくる。


「い、いえ、突然押しかけた私も悪いんです。すいませんでした!また、来ますね」


 突然押しかけて文句を言うわけにもいかず、申し訳なくなったサラは走って去ってしまった。


「ああ、名前を聞きそびれてしまったわ」


 シスタークロエは、走り去る少女を見つめ、また来てくれることを祈るのだった。天涯孤独のルーカスを訪ねてきてくれたのだ。あの子はきっとルーカスと同郷の子に違いないと、シスタークロエはアタリをつけていた。


「あら?シスタークロエ、お客様はもうお帰りになったんですか?」


 シスターマーサが話しかけてくる。どこかいつもよりイライラしているようだ。


「あの制服は・・・王都の学校ですね」


 原因はこの男か、とシスタークロエはシスターマーサに目配せする。諦めたような表情で、マーサが溜息をつく。


「騎士リチャード、マーサはこのあと食事の準備がありますので、そろそろお引き取りできますこと?」


「お気になさらずシスタークロエ。僕はマーサの料理をする姿でも眺めながら、くつろがせてもらいますんで!」


 シスタークロエの刺々しい言葉にも動じることなく、リチャードは爽やかな笑顔を浮かべて言ってのけた。





 自宅への道程、サラは考えていた。村の数少ない生き残りの中で、天涯孤独の身の上はルーカスだけであり、自分も母親を亡くしてしまったが、彼は両親と幼い妹も亡くしている。自分としては、ルーカスと昔のように話をしたいと思ってしまうが、果たしてあちらはどう思っているのか。もしかすると、もう村の生き残りとは会いたくないと思っているのではないか。

 そんなネガティブな事を考えながら、


「あああああああああ!」


 歩きながら突然叫びだすものだから、通りを往来する人々が一斉にサラを見る。


「う、ああああ…あはははは」


 自分に向けられる大量の視線に気付いたサラ・ミラーは笑ってその場を取り繕った。もうウジウジしないと決めたのに、ルーカスの馬鹿!と、昔の調子で毒づく彼女であった。





 ステラは舞い上がっていた。初めて訪れる王都は、見るもの全てが新鮮で、ヒトと獣人がたくさんいて、賑やかだった。歩きながら、キョロキョロと周りを見回していた。

 これがいけなかった。

 ステラはルーカスとはぐれてしまっていた。


「・・・どうしよう」


 森で迷い、街でも迷い、ステラはほとほと自分が嫌になった。

 

「うぅぅぅ・・・」


 声が出そうになるのを堪えて、ステラは静かに涙を流していた。





 サラは今日の夕飯の食材を買いに、商店街に立ち寄っていた。


「いつまでもウジウジしてられないし、今夜はいいお肉を買ってビーフシチューを作ろう」


 そうサラが意気込んでいると、片隅でうずくまっている子がいた。

 

「あなた、どうしたの?どこか具合が悪いなら薬屋さんに・・・」


 声をかけたサラは、うずくまる少女の頭を見て目を丸くした。少女の頭の上には、ピョコンと2本の耳が生えていたのだ。


「あなた、獣人ね。こんな所でうずくまってたら、悪い人たちに目をつけられるわよ」


 そう言うとサラは、少女の腕を引いて無理やり立たせた。


「あ、あの・・・」


 びっくりしたのは少女の方だ。いきなり話しかけられたかと思ったら、今度はいきなり腕を引っ張られた。少し怖いなと、少女は思った。

 サラもまた、しまったという顔をしていた。サラの悪い癖で、いらぬおせっかいを焼いてしまうことがある。


「わ、私はサラ・ミラー。この辺りに住んでいるの」


 いきなり自己紹介を始めたサラだったが、対する少女は更に警戒を強めた様子で、身構えてしまっている。


「あ・・・、ごめんなさい!私ったら、いきなり。悪い癖なの。おせっかい焼いて、迷惑かけて・・・本当にごめんなさい!あの・・・もう行くわね」


 早口で言葉を並べ、足早にその場をさろうとするサラだった。


「あの!・・・ワタシ、はぐれてしまったみたいで・・・」


 そんなサラを引き止めたのは、他でもない少女であった。





 はぐれたステラを探して、ルーカスは人ごみをかき分けながら進んでいた。


「大体なんで俺があいつのお世話係みたいになってるんだよ・・・」


 ブツクサ文句を言いながら歩くものだから、すれ違う人がみな視線を向けてくる。


「女物の服とか全然わからないし。俺にどうしろってんだよ」


 なおも悪態をつきながら歩いていると、ゴンッと肩がぶつかった。


「いっつ!す、すいません!!」


 すぐさま頭を下げるルーカス。ルーカスは基本的に内弁慶なのであった。


「あー、大丈夫、大丈夫。気にするな坊主。こんなにヒトがいればよくあることだ」


 そう言って、男は去っていった。ルーカスが顔を上げると、そこにはもう男の姿はなく、人ごみに紛れて消えてしまっていた。


「今の人、どこかで・・・」


どこかで聞いたことのある声だったような、どこだったかな等と考えながら歩いていると、


「あーーーーー!ルーーーーカスーーーーーー!」


 信じられないくらい大きな声で名前を呼ばれ、ルーカスは声のする方に顔を向けた。

 と、そこには懐かしい顔が見えていた。


「お前!こんなところで会えるなんてなあ!ルーカス!」


 声の主はジョルジュ・レーガン。サベッジ村襲撃事件の生き残りであった。



ルーカス・ウェイカー。13歳。

サラ・ミラー。13歳。

ジョルジュ・レーガン。15歳。

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